
2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されてから15年。日本でも「人権デューデリジェンス(人権DD)」は企業の重要課題となったが、方針策定という「形式」を終えた今、いかに実効性のある実践へ移すかが問われている。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、弁護士の佐藤暁子氏がファシリテーターを務め、日本マクドナルドの牧陽子氏、HASUNAの白木夏子氏、りそなアセットマネジメントの中出真央氏が登壇。グローバル企業、起業家、そして投資家という異なる視点から、人権DDを次なるフェーズへ進めるための具体的な処方箋が示された。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 佐藤暁子・ことのは総合法律事務所 弁護士 パネリスト 白木夏子・HASUNA 代表取締役 牧陽子・日本マクドナルド ソーシャルインパクト部 部長 中出真央・りそなアセットマネジメント 責任投資部 Investment Manager |
「マクドナルドが変われば世の中が変わる」

日本マクドナルドの牧氏は、同社が長年取り組んできたサプライヤー監査の仕組みを、より包括的な「人権DDプロジェクト」へと進化させている現状を共有した。
同社はこれまで食品や資材のサプライヤーに対して厳格な監査を行ってきたが、次のフェーズとして「これまで目が行き届きにくかったエリア」への着目を始めている。「例えば店舗の建材、広告代理店などの川下のパートナー、さらには従業員をカスハラ(カスタマーハラスメント)からどう守るかといった課題。これらはまさにリスクエリアとして丹念に見ていく必要がある」と牧氏。
社内説得に時間がかかったリアルな苦労も明かしつつ、世界で5万店舗を展開する規模感を踏まえ、牧氏は「マクドナルドが変われば世の中が変わる」との信念を語る。役員への勉強会や他部署との連携を通じ、経営の骨格に人権を組み込むプロセスが重要であると説いた。
人権対策は確固たるブランド資産になる

エシカルジュエリーブランドを運営するHASUNAの白木氏は、2009年の創業以降、自ら世界の鉱山を巡って採掘現場の実態を独自に探り、業界の国際認証であるRJC認証を日本で初めて取得した。
法務部もESG部門もない起業家目線のリアルとして、白木氏は、RJC認証を取得したことが信頼を担保する武器になったと語る。「監査は非常に厳しく、泣きたくなるほど大変。しかし、認証があるからこそ価格競争から脱却でき、理念に共感する人材も集まる。人権対策はコストではなく、確固たるブランド資産になる」と強調。「人権を守るだけの企業ではなく、人権対策によってお客さまからも働く人からも選ばれる企業になることが理想」と述べた。
投資家が求める「上流までの踏み込み」と経営層の言葉

機関投資家として約58兆円を運用するりそなアセットマネジメントの中出氏は、企業価値の毀損(きそん)を防ぐ観点から人権リスクを注視している。
中出氏は、多くの日本企業が「国内の法令順守」や「関係会社の管理」で止まっている現状を指摘。「投資家が知りたいのは、リスクが高い海外の委託先やサプライチェーンの上流までいかに踏み込めているか。そして、経営層がなぜ人権に取り組むのかを自らの言葉で語れる『腹落ち感』があるかだ」
また、企業が対話しづらいと感じがちなNGOについても、「市民社会の声であり、アドバイスをくれる組織」として向き合うことを推奨。りそなアセットマネジメントでもNGOと定例ミーティングを行い、最新の社会課題を投資先との対話に生かしているという。
「ビヨンド・コンプライアンス」の先にある未来
本セッションのキーワードである「ビヨンド・コンプライアンス(法順守を超えた取り組み)」についても、それぞれの目線から意見が交わされた。

ファシリテーターの佐藤氏は「国内法さえ守ればいいという考えから、より高い国際基準へと目線を上げることが、グローバルマーケットでの生存戦略になる」と議論を総括。それに向けて、牧氏は「現場からのボトムアップ」、中出氏は「ガバナンス体制の構築」を挙げ、両輪の重要性が示唆された。
各社の取り組みを踏まえ、白木氏は「学び続けることが、より良い世界をつくる第一歩」と語り、牧氏も「誰も気付いていない課題を育て、真摯(しんし)に伝え続ける地道な努力」の大切さを説いた。
「人権DDは単なるリスク管理ではなく、社会の持続可能性を企業の持続可能性に直結させるための、創造的な経営プロセスそのもの」という登壇者たちの熱いメッセージで、セッションは締めくくられた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。














