• 公開日:2026.05.28
「曼荼羅」で描く2040年 シナリオ・プランニングで「想定外」をなくす
  • 眞崎 裕史

VUCA時代の経営に求められるのは、一つの正解ではなく、複数の未来を想定して備える発想だ。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッション「シナリオ・プランニング体験ワークショップ」では、Sinc 統合思考研究所の川村雅彦氏と山吹善彦氏が案内役となり、参加者が「社長」の視点に立って2040年の事業環境を読み解いた。独自のツール「トレンド曼荼羅(まんだら)」を用い、経営・事業に大きな影響を及ぼす「ドライバー」を見出す体験が共有された。

シナリオ・プランニングは戦略思考の道具

冒頭、川村氏はシナリオ・プランニングの本質を「戦略思考のツール」と位置付けた上で、「複数の異なる未来社会(シナリオ)を想定し、どんな未来が現れても対応できるようにする。想定外をなくすための、長期戦略として意思決定する道具立てだ」と説明。源流は1973年のオイルショック時にシェルが活用した手法にあるが、Sinc流のシナリオ・プランニングは「What if 思考」に重きを置く。「こうなったら自分はどうするかを考える。(決まった)正解はない」と強調した。

川村雅彦氏

シナリオ・プランニングが求められる背景として、川村氏は「ビジネスの世界はリスクと不確実性に満ちていること」「それでも経営者は前に進まなければならないこと」「限られた経営資源の中で戦略的決断が求められること」の3つを指摘し、シナリオ・プランニングを行う目的として「世界観の共有」を重視。「社内にはいろんな考え方の人がいる。未来の見方も違う。そこを統合しなければ、同じ布団に寝ながら違う夢を見る『同床異夢』になってしまう」と警鐘を鳴らした。

さらに、シナリオ・プランニングは人材育成の側面でも大きな意義を持つとし、「みんなが社長になったつもりで考えられる仕組みを作る。答えを出すまでの能力を担保することが重要だ」と強調した。

トレンド曼荼羅で未来をふかん

ワークの中核となるのが、Sincが「トレンド曼荼羅」と呼ぶ1枚の図だ。仏教の曼荼羅になぞらえて命名されたこの図は、グローバル・マクロと業界ミクロのトレンドを統合し、縦軸に不確実性の高低を、横軸に確実な要素として人口動態やエネルギー、地球環境問題、テクノロジーなどを配置している。

Sinc流シナリオ・プランニングで使用する「トレンド曼荼羅」の例(画像提供:Sinc統合思考研究所)

山吹氏は「上にあるものが不確実性の高い変動要素、下にあるものはほぼ起こる構造的変化。一個一個のトレンド事象は単独ではなく、上下左右やかたまりでつながっている。その認識をドライバーという言葉に変換していくのがワークの肝になる」と解説した。

参加者はA・B(総合水産企業、売上高5000億円)、C・D(電子部品製造企業、同1兆円)の4チームに分かれ、社長の立場で2040年の経営を左右するドライバーを1〜2個特定。合わせて、対照的な2つの社会シナリオも検討する流れとなった。

ワークが始まると会場は熱を帯びた。チームには高専生の姿もあり、若い感性から積極的に発言する場面も見られ、世代を超えた議論が交わされた。

「取る」から「作る」への転換

水産業を担当したAチームは、消費の二極化と各地の味覚への対応に着目した。「各地で食べられる、売れる食品」を一つ目のドライバーに据え、地産地消型のビジネスモデルを描いた。

同じ水産業でも、Bチームは「気候変動とそのスピード」をドライバーに選んだ。気温上昇が緩やかであれば漁場を移しつつ自然共生型の水産資源管理が可能だが、急上昇すれば陸上養殖や遺伝子技術を使ったタンパク源確保が不可欠になる。いずれにせよ「取るから作る」への転換は避けられないとし、自然資本との関係性を主軸に据えた。

AIと再エネが部品産業を変える

電子部品製造企業を担当したCチームが選んだドライバーは「再生可能エネルギーの主流化」。部材の見直しから事業構造そのものの変更まで迫る圧倒的なインパクトを持つ一方、AI拡大に伴うエネルギー需要は機会にもなる。加えて「製品のAI化による需要の増加」も2つ目のドライバーに挙げ、エッジAIや生体融合デバイスといった新市場の可能性と、データ・製造規制という負の側面の両面を捉えた。

同じく電子部品製造企業を題材としたDチームは、ドライバーに「AI拡大」を据えた。AIの活用が生産効率を引き上げ、ダークファクトリー(完全無人化工場)を実現すれば部品需要は拡大する。一方で資源制約をもう一つの軸に置き、「AI活用は是とされても資源コストが跳ね上がる世界では、やみくもな拡大は持続的でない」と分析した。

経営判断を疑似体験する意義

発表を聞いた参加者は「社長の意識で行うことがすごく重要だ。一人ひとりが検討する力を身に付けた上で、合意形成まできれいにできる。面白い取り組みだと思う」と感想を述べた。

山吹善彦氏

セッションの最後、山吹氏は「シナリオ・プランニングに答えはない。納得いくものを議論しながら確定していく作業だ。手間もかかるし、決めるところは大変。だが、これをやることが経営になる。世の中はどんどん変化している。What ifで考えることが重要だ」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

未来を読むのではなく、複数の未来に備えて自社の世界観を共有する。参加者たちは、その思考プロセスを体感として持ち帰った。

<参考資料>

シナリオ・プランニング:VUCA 時代の戦略思考ツール—Sinc流アプローチによる理論と技法の体系化—
https://www.jstage.jst.go.jp/article/esgbr/2/0/2_II-4-1/_pdf/-char/ja

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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