• 公開日:2026.06.29
「Pride Action30」が広げるDEI経営 パナソニック コネクト山口有希子氏に聞く
  • 眞崎 裕史

LGBTQ+をはじめとするマイノリティが働きやすい環境づくりを企業横断で進めるプロジェクト「Pride Action30」が3年目を迎え、賛同パートナーは100社を突破した。米国で反DEI(多様性、公平性、包括性)の逆風が吹く中での広がりは心強いが、重要性は理解しつつも最初の一歩を踏み出せずにいる企業もまだ多い。誰もが自分らしく働ける環境は、なぜ企業にとっても不可欠なのか。同プロジェクトを、NPO法人プライドハウス東京と共に企画・運営するパナソニック コネクトの山口有希子・取締役CMO兼DEI推進担当に聞いた。

interviewee
山口 有希子(やまぐち・ゆきこ)

パナソニック コネクト 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO DEI推進担当、カルチャー&マインド改革推進担当

対立ではなく「一緒に作ろう」から

――Pride Action30を2024年に立ち上げ、今年で3年目を迎えました。このプロジェクトに込めた思いと、日本の企業社会に対する課題意識を聞かせてください。

立ち上げの議論をしていた当時、私たちは経営の重要な戦略としてカルチャー改革を掲げていました。プロダクトのプロモーションも大切ですが、それだけで会社を理解してもらえるとは思えなくて。私たちらしい活動とは何かと考えたとき、カルチャー改革の大きな柱であるDEIに行き着いたんです。

ただ、自分たちだけで考えるのではなく、当事者と一緒に企業に何ができるかという視点でやりたかった。2024年のスタート前から1年半ほどかけて、当事者の松中権さんやプライドハウス東京の五十嵐ゆりさんたちと議論を重ねました。事前に電通と連携したリサーチも行い、社内の当事者の声も聞きました。そこで分かったのは、LGBTQ+を巡る現実について多くの人が知らないし、無意識に知らないままにしているということでした。悪気はないけれど、関心を持てていない。

2025年度の「Pride Action30」のセミナー(写真提供:パナソニック コネクト)

そこで大事にしたのは、対立構造にしないことです。「知らないだろう、それじゃダメだ」と指さすのではなく、「一緒にいい職場環境を作ろうよ」と呼びかける。理解して、共感して、だからこそアクションする。それが、多様な人をインクルージョンするベースだと思うんです。一社ではできないので、共感してくれる仲間を増やしたいという思いでスタートしました。

社名「コネクト」に重なる思想

――自社のカルチャー改革なら、一社でも可能かもしれません。あえて当事者団体や他社と連携することの重要性をどう捉えていますか。

2つあります。一つは、当事者の声を聞くと、社会から認められていないという思いが大きな不安要素になっていると分かったこと。たとえ社内で認められても、社会の中での容認がないと不安は拭われない。だから社会規範のアップデートが重要なんです。

もう一つは、弊社がBtoB企業だということ。お客さまやパートナーとつながって、何かをすることで社会が良くなっていく。一社だけで完結することはあまりないんです。このつながりこそ、社名でもある「コネクト」というバリューそのもの。パーパスの「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」とも合致します。事業内容は時代の移り変わりとともに変わっても、松下幸之助の時代から続く「社会の公器」という精神は変わらない。この活動も同じだと思っています。

――企業同士が連携してLGBTQ+の課題に取り組む枠組みは、国内でも珍しいですね。

当事者団体が中心の組織はありますが、企業の「横串」という意味では珍しいかもしれません。Pride Action30とは別に、有志で立ち上げた「レインボービジネスネットワーク」というアライ(LGBTQ+の理解者・支援者)企業のつながりの場もあって、今は150社が参画しています。

「働く場所を安全な場所に」原点の体験

――山口さんご自身がこの課題にコミットするきっかけは何だったのでしょう。

オープンリーなLGBTQ+当事者と働く機会が昔から多かったんです。20〜30代に勤めた外資系では、本社のボスのCMOはレズビアン、広告担当の役員男性はゲイで、ネットワーキングの場にパートナーを連れてくる。それが普通でいいなと感じていました。

決定的だったのは、ある会社で部下だった当事者を巡る出来事です。その方はきちんとパフォーマンスを出してプロジェクトを仕切っていた。でも、理解の低い環境で仕事をし、生きていくことの大変さを目の当たりにしました。また、若いLGBTQ+当事者の自殺念慮の率が非常に高いと聞いたことも、大きな衝撃でした。悪くない人が嫌な思いをするのはおかしい。

少なくとも働く場所は、会社がコントロールできます。会社はパフォーマンスを出した人が評価されるシンプルな組織のはずです。だったら、ここを安全な場所にしたい。そう思いました。

――心理的安全性の確保ですね。

そうです。私自身も、女性というマイノリティとして嫌な思いも経験しましたが、パフォーマンスを出せば評価してもらえた。出自で判断されない場所をきちんとつくっていくことが、とても重要だと思います。

100社突破、DEI逆風下の広がり

――Pride Action30の賛同パートナーは2024年の18社から、2年目63社、3年目は106社へと大きく拡大しました。この広がりをどう受け止めていますか。

DEIへの逆風が言われる中で、これほどの広がりはありがたいです。パートナー増加の理由の一つは、変わらなきゃいけないと考えるDEI担当者のネットワークが横にあり、紹介で輪が広がっていること。100社を超えたという事実はインパクトになりますし、チームのみんなが「仕事だからやる」のではなく「やるべきだからやる」と動いてくれているのもうれしいですね。

可視化の力も感じます。立ち上げに携わった松中さんが金沢でとある銀行を訪れたとき、店舗にPride Action30の掲示があった。それがとてもうれしかったと、すぐ連絡をくれました。企業が掲げるメッセージが日常の中で目に入ることが、当事者や理解者を勇気づけるんです。

――「婚姻の平等」の法制化を後押しするキャンペーン「Business for Marriage Equality」に賛同する企業・団体も6月24日時点で700を超えています。一方で課題も見えてきていますか。

良い変化を感じると同時に、地域格差も感じています。弊社も東京、大阪、福岡、金沢などのパレードに出ていますが、温度感が違う。人は生まれる時を選べないのと同じように、生まれる場所も選べない。地域による格差は当事者にとって辛いものです。LGBT理解増進法も含め、国の対応がとても重要だと思います。

AI時代、「選ばれる国」になれるか

――働く場所は会社がコントロールできるというお話がありました。企業の取り組みが社会や国の変化につながる期待はありますか。

企業の視点では、その人のパフォーマンスを最大にしたい。不安を抱えたまま働くのが一番良くないんです。見過ごせないのは、優秀なマイノリティ人材が海外へ出ていく問題。これはLGBTQ+の当事者も女性も同じです。マイノリティが働きにくいと、選ばれない会社になる。それを超えて、選ばれない国になってはいけない。ここまで少子化が進んでいるのに、です。

AIが進化すると言語の壁がなくなるでしょう。そのとき、自分らしくいられて、アンフェアな扱いを受けない場所が選ばれる。(DEIがより進んでいる)ヨーロッパの優秀な女性が、あえて日本の保守的な会社を選ぶでしょうか。経営にとって非常に重要な、象徴的な問題だと思っています。

――まさに、その問いがDEIを「企業存続の課題」にしていると。山口さんは経営におけるDEIの重要性をどう位置付けていますか。

どんなにいい戦略を立て、優秀な人材を集めても、企業カルチャーが健全でなければ機能しません。そのベースにあるのがDEIです。人をリスペクトし、可能性を発揮させる土台があるか。同質的な人だけの経営はもうできない時代に、マイノリティとされてきた人たちのポテンシャルもフル活用しなければ、企業は生きていけない。男性だけが働き、専業主婦が支える世界はもう幻想ですから。

だからDEIは、危機意識を持って経営として取り組むべき、必要不可欠なものなんです。やらなければ淘汰(とうた)され、選ばれなくなる。だからこそ私たちはこの活動を「サイド活動」ではなく、経営の軸として進めています。

昭和のマネジメントを「アップデート」する

――若い世代と接すると、その必要性を実感しやすいそうですね。

分かりやすいですね。「Tokyo Pride 2026」のスタッフの大学生と話すと、LGBTQ+のサークルがあって、大学間で連携している。私たちの時代にはなかったことです。社会規範が変わっている事実に、私たちはどれだけセンサーを動かせるか。時代に応じて変化できた企業が生き残るのですから。

50代以上のマネジメント層は、昭和のカルチャーで育っています。アップデートには機会が必要です。弊社は約9年間DEI活動を続け、役員にもパレードや勉強会に参加してもらってきました。すると「こういう世界があるのか」と目が開かれる。当事者の生の声を聞くと、「そうだったのか」と気づく。気づきの仕掛けをプロデュースするのが私の役割です。

「Tokyo Pride 2026」でのパレード

――一般従業員も含めると、アライの役割も大きくなります。

制度づくりやセミナーもやっていますが、何より効果的なのはトップのコミットメントです。パレードに参加した役員に社内SNSで発信してもらうと、その部門が見る。表層的ではなく、心から思ったことを自分の言葉で書いてもらうことが効くんです。パネルディスカッションにもいろんな役員に出てもらう。すると、本人も勉強せざるを得ない。これも巻き込み、コネクトです。

最初の一歩は「学ぶこと」から

――DEIの重要性は理解しても、何から始めればいいか分からない企業も多い。最初の一歩を踏み出すために何ができますか。

進んでいる企業に学ぶことが、すごく大切です。私たちも学び続けています。DEI推進やカルチャー改革に「この施策一つで完成」はありません。企業のステージに応じてやるべきことがあるので、自分たちがどこまでやれているかを判断し、できていないなら学べばいい。

ただ重要なのは、経営として動かないと従業員を巻き込めないということです。課外活動にしてはいけません。現場はKPIを追うのに必死で、優先順位を下げてしまう。「これは経営として重要だ」と示せば、意識せざるを得なくなる。そこに持っていくのは経営の仕事です。

役員を巻き込んだイベントを企画し、発信する(画像提供:パナソニック コネクト)

「うちの経営層は意識が高くない」という声もよく聞かれます。経営層に働きかけるなら、「経営層から」働きかけるのが効く。私たちも最初は、丸井や資生堂、IBMなど社外の経営者を招いてDEIセミナーを開きました。その重要性を心底語る経営者の言葉は、響くんです。同時に、無記名アンケートなどで自社の現場を理解することも重要。当事者が実際にどんな思いをしているか、その事実を知ることが次のアクションにつながります。

競合を超えて、学び合う

――最後に、経営層でこの活動に関心を持つ方、まだ踏み出せていない方へメッセージをお願いします。

カルチャー、そしてそれを支えるDEIは経営課題です。経営課題として取り組む企業が増えるべきだし、学び合ってレベルアップしていきたい。日本がより世界から選ばれるために、企業も選ばれなければなりません。ビジネスで競合していても、ここは連携しやすい部分です。私たちのやってきたことはオープンに共有しますし、その一つのサンプルとしてPride Action30があればいい。

理想は、こうした活動をしなくても当たり前になっている世界です。同性婚が普通にあり、誰もが自分らしくいられる社会。そこに向かってみんなでコネクトして、現場から社会を動かし、楽しい未来へつなぐ。どんな未来にしたいかを、一緒に考えていきたいと思っています。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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