
6月末、経済産業省は、インドから輸入するグリーンアンモニアを石炭火力発電に混焼するなどの計画に対し、燃料の価格差分を支援することを決めた。アンモニア混焼は、世界から石炭火力発電の延命策として非難されている。圧倒的にコストが高い。また、グリーンアンモニアの用途として、発電は決定的な間違いであり、さらに、国産エネルギーを目指す高市早苗政権の施策に大きく矛盾する。
三重苦、四重苦の施策を解説する。
アンモニア混焼発電が目指す、石炭火力発電の継続
今回のグリーンアンモニア輸入は、先日の高市首相によるインド訪問の成果の一つ、“土産(みやげ)”として報道された。計画のベースはガスタービンを製造するIHIがかねてから用意した。混焼発電はコベルコパワー神戸の神戸発電所と北海道電力の苫東厚真発電所で、2030年度前後から、20%レベルから行われることになるとされる。
アンモニア混焼は、JERAが先達である。愛知県の碧南火力発電所では、2024年に20%混焼の実証を行っている。2029年度に商用運転を開始、2030年代に50%混焼、2040年代に専焼への移行という工程表を描いている。
こちらは、燃料の価格差支援を昨年12月に受けているが、混焼するアンモニアはアメリカのルイジアナ州から輸入、しかも、ブルーアンモニア(天然ガス由来+CCS)である。

https://www.nedo.go.jp/content/800018010.pdf
混焼はいまだ実証、技術開発のレベルである。碧南の商用運転も20%からで、専焼になるまで延々と石炭発電は続くことになる。海外ではグリーンウォッシュとの非難も強く、延命策との指摘はその通りとしか言いようがない。
では、最終的に目指すとする、グリーンアンモニアでの専焼になれば、解決なのであろうか。
事業性が成立しない“発電までの仕組み”
資源エネルギー庁のサイトで「アンモニアが“燃料”になる?!」を見てみる。そこでは、グリーンアンモニアの製造から、発電による「グリーン電力」が生まれるまでが図解されている。

出典:資源エネルギー庁WEBサイト、「アンモニアが“燃料”になる?!(後編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_02.html
アンモニアをつくるためには水素が必要である。まず左上でグリーン水素が生成される(緑の丸枠)。インドの例では、地元の太陽光発電などの再生エネ電力を使って水を電気分解して作る。
続いて窒素を加え、右下のグリーンアンモニア(CO2フリーアンモニアと記載)をつくる(オレンジ色の丸枠)。ここまでがインドでの工程である。それを、アンモニア輸送船で日本に運び、石炭火力発電所で燃焼し発電する(赤の丸枠)。
左下の「グリーン電力」が誇らしげに緑色で塗られているが、すでにお気付きだと思う。出来上がったグリーン電力は、最初にインドで水素をつくるのに使われた電気と、同じ性質で同じ価値を有する脱炭素の電気である。その後、各種の化学的な工程や運搬、再度の発電などの物理的な作業を経てできた電気が、安いはずがない。
実際に、IEA(国際エネルギー機関)やBloombergNEFなどの試算でも、混焼も合わせて1kWh当たり30円前後の数字であり、もちろん元の再生エネ発電のコストの3倍にもなっている。
やってはいけない「禁じ手」
もう一つ、大きな問題がある。グリーンアンモニアの用途である。現在、世界のアンモニアのおよそ8割が肥料として使われている。残りの2割が工業用で、ナイロンなどの原料になるという。

混焼などでの発電は、図の右下の「新たな用途」ということである。
モノには優先順位がある。脱炭素は、全てのエネルギーから物品の製造工程などで達成されなければならない。実現に大きな努力や技術開発、またコストがかかるものから、比較的達成し易いものまで様々である。
エネルギーは、「電化」によってずいぶん様相が変わってきている。まず電気そのものの再生エネ転換である。困難と思われていた交通分野で、自動車のEV化が革命的な変化を見せ、熱利用もヒートポンプの普及が助けになっている。一方、鉄鋼やセメントなどは厳しい。
肥料は、人類が地球上で生きていくためには必須の品目であり、その脱炭素化にはグリーンアンモニアは欠かせない。グリーンアンモニアの肥料への利用は優先順位が非常に高い。一方、電気は再生エネ電力が最も安く、世界各地で量も保証されてきている。その電力をグリーンアンモニアで作ることは、いわゆる「低付加価値用途」に当たる。しかも、絶対的なコスト高である。
付け加えておくが、アンモニアの燃料利用を全否定するつもりはない。例えば、長距離の船舶などでは大量の蓄電池を積むことは難しく、アンモニア燃料船の利用も想定され、実際に研究開発が進められている。
輸入に頼るのか、国産エネルギー施策
冒頭に示したように、現在進められている「価格差支援制度」が本格的に動き出すと、競争力がない間違った使い道をする燃料に対して、国民の税金を使って無駄な補填(ほてん)が15年間にわたって続けられることになる。支援の具体的な内容については明らかにされていないが、本当に実施されれば莫大な金額になる可能性が高い。
また、先に挙げたエネルギーコスト算定の資料では、「アンモニア専焼では、混焼に使った技術、プラントは使わない」とされている。混焼での技術開発は、ほぼ無駄になるというのである。
最後に強調すべきは、これらのグリーン水素やグリーンアンモニアを、海外からの輸入に頼っていることである。高市首相は、2月の施政方針演説で、「エネルギー安全保障の観点からは…国産エネルギーを確保することが重要です」と語っている。
インドやアメリカならよいのか、アジアの再生エネ電力利用とは、そこでなら安い電力が使えるという“見下した”考えになっていないか。何より、遅かれ早かれ、どの国も脱炭素のために、自国優先のエネルギーの使い方をすることは間違いない。日本に回ってくる保証は何もない。
世界からの批判の中、驚くほど高いものにつく低付加価値利用の石炭火力発電延命策は、エネルギー安全保障にも反する愚かな施策であるとしか言いようがない。
| <参照資料> 火力発電、水素・アンモニア発電コストの内訳(資源エネルギー庁) https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20250206_01.pdf |
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。













