
将来の気温変化のシミュレーションを映し出す「ジオ・コスモス」について解説する毛利衛氏
世界各地で連日のように報道される豪雨、干ばつ、熱波、そして氷河の融解。地球環境はすでに後戻りできない地点に達したのではないかと考える人も少なくない。こうした中、旭硝子財団が34年前から続けている世界の環境有識者を対象とした調査で、2026年の「環境危機時計」が発表された。結果は9時39分。調査を始めた1992年から約2時間進み、「極めて不安」を示す時刻となった。世界の有識者は、環境問題の解決には「政府の環境政策・リーダーシップ」と「国際協力」が重要だと指摘する。発表イベントに登壇した宇宙飛行士の毛利衛氏(日本科学未来館名誉館長)は、宇宙から見た地球の姿を通して、持続可能性の意味について語った。さらに、気候科学者で東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏に、9時39分が示す危機の背景や気候変動の現状、企業が取り組むべきことなどについて聞いた。(環境ジャーナリスト・箕輪 弥生)
「9時39分」が示した、地球環境の現在地

9月8日、日本科学未来館で発表された2026年の環境危機時計は、9時39分を示した。前年の9時33分から6分進み、調査開始時の1992年に示された7時49分からも大きく危機に近づいている。
ただし、環境危機時計は気温や二酸化炭素濃度などの環境データを時刻に換算したものではなく、世界の有識者が、環境や社会の現状をどの程度危機的に捉えているかを示す指標である。
有識者が「9時39分」という時刻を判断する際、環境危機の要因として多く挙げたのは、気候変動が33%、生物多様性が16%、社会・経済・環境政策・施策が13%の順だった。
気候変動の危機を視覚化するために、同館での発表では、宇宙飛行士の毛利衛氏が、地球の姿を映し出すジオ・コスモスを紹介し、解説した。2025年以降の地球の温度変化を示すシミュレーションでは、地球が高温を示す赤色に染まっていた。
ティッピング・ポイントはどこまで迫っているのか

将来の地球の温度変化を研究してきた江守教授は、このシミュレーションについて、「世界平均気温の長期的な上昇ペースはおおむね過去の予測通り」と話す。一方で、「温暖化というベースの上に、豪雨、熱波、干ばつなどその時々の極端な天候が重なることで、局地的な被害が想定以上になっている」と近年の異常気象を説明する。
環境危機時計が強い危機感を示す一方、気候変動を巡っては、すでに後戻りできないティッピング・ポイントを超えている事象もあると指摘する報告書(Global Tipping Points Report 2025など)もある。江守教授は危機的な状況にある現象として、熱帯サンゴ礁の死滅、グリーンランド氷床の急激な融解、西南極氷床の崩壊、永久凍土の広範な融解などを挙げた。
特に熱帯サンゴ礁については、サンゴが白化から回復しないうちに海水温が上昇して再び白化するというサイクルを繰り返し、ティッピングの局面に入っている可能性が高いと指摘する。
しかし、江守教授は「もしそのティッピングの連鎖が起きて温度上昇が止まらなくなりホットハウス・アースと呼ばれる温室化した地球に陥ったとしても、急に破局的な事態になるものではない」と話す。
「危機を知る」から「どう動くか」へ
■地球環境問題の解決に重要な要素(地域別)

世界123カ国の環境有識者1464人から回答
では環境問題の解決のために、どのような点が重要なのだろうか。
今回の有識者への調査では、解決に重要な要素として「政府の環境政策・リーダーシップ」と回答した人がどの地域でも多く、60~79%に達した。これに続くのが「国際協力・グローバルガバナンス」である。
江守教授も、環境政策の重要性を強調するとともに、「現在の国際社会の不安定化は、気候変動対策における国際協力を阻害する最大の懸念事項」と憂慮する。
気候変動は、科学や技術だけでは解決できず、政治や社会の協調が不可欠である。そのためにも、適切な政策によって具体的かつ効果的な対策を推し進めるリーダーが必要だと多くの有識者が考えていることが分かる。
さらに、江守教授に、企業が今後10年間で重視すべき気候変動対策を聞いた。これに対して示したキーワードが「省エネ・再エネ・電化」だ。具体的には、脱炭素のトランジションにつながる省エネ、再生可能エネルギーへの転換、ボイラーなどの電化、ヒートポンプの活用、建物の断熱強化などを挙げた。「CO2の排出を減らしつつ、ランニングコストが安くトータルで得になることを進めていくことが重要だ」という視点である。
また、身の回りでできる脱炭素の後押しをする活動を通じて、市民が社会に働きかけることの重要性についても語った。例えば、地域の自治体に働きかけて断熱の補助金を増やしてもらう、選挙の時に気候変動対策にしっかり取り組む候補を応援するなど、環境に関心の高い層がまず動き、社会が変わっていくスイッチを複数作っていくことが重要だと強調する。
環境危機時計の9時39分という数字が突き付けるのは、「もう間に合わない」というメッセージではない。むしろ、危機がどこにあり、何が障がいになっているのかを見極め、企業も市民も次の行動を選ぶための現在地として捉えることが重要である。
毛利氏は宇宙から見た地球の姿を通じて、「地球上の生命は複雑に相互依存し、人間もその一部である」と語った。地球環境の危機を乗り越えるために必要なのは、人間だけの持続可能性を考えるのではなく、地球生命の一部として、共に生きる道を選ぶ視点なのかもしれない。
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/










