• 公開日:2026.10.28
AI時代のサステナビリティ情報開示 企業の情報開示は「本質」を伝えられるか?
  • SUSCOM

Sponsored by SUSCOM

馬奈木俊介氏

サステナビリティ情報の開示において、ESG評価機関やAIによる分析に対応するための報告書制作、プロセスの改善などが進んでいます。AIがサステナビリティ情報開示に果たす役割が飛躍的に増大する中、 どうすればAIを企業の持続可能な価値向上につなげていけるかについて、九州大学教授でありAIを活用したESG情報の可視化と情報開示を進める株式会社aiESGの創業者でもある馬奈木俊介氏に、AI時代のサステナビリティ開示における「正しいAIの活用法」と「企業が陥りがちな罠」についてお話を伺いました。

interviewee
馬奈木 俊介(まなぎ しゅんすけ)

九州大学 理事・副学長、主幹教授、工学研究院教授、都市研究センター長、ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センター長。経済産業研究所ファカルティフェロー、農林水産政策研究所客員研究員を兼任。aiESG 創業者。国連の報告書をはじめ、環境・ESG分野における国際的なデータ分析・政策提言に長年携わる。

2023-25年版クラリベイト高被引用論文著者に選出。国連「新国富報告書」代表、国連・持続可能性のための新しい資本円卓会議委員、経産省産業構造審議会臨時委員、環境省中央環境審議会臨時委員、IPBES- IPCC統括代表執筆者、環境経済・政策学会会長、学術誌「Economics of Disasters and Climate Change」編集長、「Environmental Economics and Policy Studies」編集長を歴任。

AI対応の追求で見失われるESG情報開示の本質

昨年くらいから、企業の情報開示において、サステナビリティへのAI活用というテーマが重要視され始めている。その一つが、ESG報告の現場において「AIが読みやすい形式に合わせる(AI可読性を高める)」というテクニカルな対応だ。このような状況について、AIのESG情報開示への活用において第一人者とも言える、aiESG創業者、九州大学の馬奈木教授はどのように捉えているのだろうか。

結論から言えば、細かな形式論に依存しすぎると企業は失敗します。確かに、これまでのレベルのAIは、主にスクリーニングに使用されていたので、いわばSEO対策のようなものです。レポーティングの構造や図表の扱い、デザインなど、配慮をすることで可読性を向上させ、見落とすリスクを防止するための一定の効果はありましたが、AIの進歩は早く、早晩写真、画像やカラフルなチャート図なども読み取り評価できるようになるので、かかる工数やコストを考えるとあまり有効とはいえないかもしれません。

もちろん、AI可読性対応としてのテクニカルな「タグ埋め」や「AI用説明文」など、細かな技術的アプローチ自体を否定するわけではありません。心理学の実験でも、「このアプローチはこういう背景でやっています」というメッセージが一言添えられているだけで、受け手の信頼感が高まるというデータがあります。根拠のある工夫であれば良いと思います。

ただ、 AIに最適化した結果、人間の読者から読みにくいという笑い話のような状況も起きています。だからといって、人とAI両方にレポート上で最適化するのは考えても非現実的。ウェブ上の図表すべてにAI用の説明文やタグを埋め込むだけでも、人間が膨大な作業と考えを費やすことになり、多大なコストがかかります。 AIに読ませるための余計な説明文を作成するために人間が苦労するというのは、まさに本末転倒です。このように、現在の「AI可読性対応」の動きを見ていると、明確な根拠や理念に基づいておらず、「単にスコアが上がりそうだから」という理由で行われているケースが目立ちます。 単なる「点数稼ぎのためのテクニック」になってしまっていないか見極める必要があるのではないでしょうか。

AIを正しく活用し、ESG情報開示を事業戦略につなげる

それでは、ESG情報開示において、AIをどのように活用するべきなのだろうか。それは、AIの本来の強みである圧倒的分析力、世界中の情報開示の好事例との比較力を生かし、企業のESG側面の強みをメッセージするという本質的なサステナビリティ情報開示の役割を果たすことに他ならない。

単純にAIによる分析や、改善提案をベースにレポーティングを進めると、例えば漫画家や小説家がAIの指示通りに描いて作品が“平均的で無個性なもの”になってしまうのと同じ現象が起きてしまいます。ですから、AIツールを使って“まずは試してみる““同業他社と比較して自社のプラス・マイナスを把握する”という使い方は大前提。AIが提示する“ここを直せば点数が上がります”という提案にただ従うだけでは、企業固有の“尖った強み”が表現されません。

確かに評価機関の網羅的な開示要請への対応には有効かもしれませんが、ESG情報開示の本来あるべき姿は、各企業が開示を通して、強みと弱みを把握し、成長戦略につなげること。マイナスを埋めて、スコアを伸ばすこと自体が目的になってしまうと、その先のESGを軸にした成長戦略につながらなくなってしまうのです。

AIはESG情報の可視化と、比較容易性に変革を起こし、情報開示の現場に影響を与えている。現状はAIの指示に従うだけでは平均化された無個性な開示となり、自社の強みが消えてしまうリスクが高い。スコアだけでなく、AIで現状の立ち位置を把握し、自社が真にやりたい独自の戦略へ昇華させていくことが大切なのだ。

例えば、会社が取り扱う報告事項が100個あるとしたら、本当に重要な「コア」は10個程度です。残りの90個程度の優先度が低い案件については、AIツールなどを活用して効率的に対応すればいい。重要なのは、コアとなるメインの事業戦略をどう描くかです。

コンサルティングや外部のツールに過度に依存して戦略のかじを切りすぎると、取り返しのつかないトラブルにつながりかねない。技術や人材といった自社の足元を見失い、短期的なトレンドに乗って中途半端な方向に突き進むと、後で大きな反動が来ます。AIやコンサルは“軽く使いこなす“くらいのスタンスで臨むのが、経営にとっても最も安全で効果的です。AIとサステナビリティの時代、これからの企業に求められるのはAIを“自社の課題を効率的に洗い出し、生産性を高めるためのツール”として賢く利用する、これが鉄則です。

“AIにどう評価されるか”に怯えて形式的なスコアアップを狙うのではなく、“自社が何を目指し、どう社会に貢献するのか”という固有のストーリーを提示すること。AIの分析結果を踏まえた上で、人間が意志を持って自社の“尖り“を打ち出していく開示こそが、ステークホルダーや投資家からの真の信頼を獲得する鍵となるはずです。

AIが進化すればするほど、ESGスコアアップへの対応や、プロセスの効率化にとどまらず、自社の価値創造のための補助として使いこなす——これこそが、これからの経営層や ESG情報開示担当者、サステナビリティ担当者に求められるのではないだろうか。

Related
この記事に関連するニュース

Sinc × GLIN Impact Consulting、業務提携を締結
2026.10.26
  • ニュース
  • #情報開示
  • #パートナーシップ
  • #ブランド戦略
Sinc × サステナブル・ラボ 業務提携を締結
2026.10.05
  • ニュース
  • #情報開示
  • #パートナーシップ
  • #ESG投資
【日本企業の“当たり前”はなぜ伝わらないのか】第2回 自然を大切にしてきた日本企業が「自然資本」に悩む理由
2026.10.01
  • コラム
  • #情報開示
  • #サプライチェーン
サステナブル・ブランド国際会議 2026 関西シンポジウム、11月13日に開催
2026.09.30
  • ニュース
  • SBコミュニティニュース
  • #DX/デジタル
  • #テクノロジー
  • #AI

News
SB JAPAN 新着記事

AI時代のサステナビリティ情報開示 企業の情報開示は「本質」を伝えられるか?
2026.10.28
  • スポンサー記事
Sponsored by SUSCOM
  • #情報開示
  • #DX/デジタル
  • #ESG投資
Sinc × GLIN Impact Consulting、業務提携を締結
2026.10.26
  • ニュース
  • #情報開示
  • #パートナーシップ
  • #ブランド戦略
都市の森は何を変えたのか――「大手町の森」が示す自然資本の可能性
2026.10.26
  • ニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
  • #生物多様性
健康長寿の復活へ、沖縄でSB学生大会を初開催 高校生64人が描いた未来
2026.10.23
  • SBコミュニティニュース
  • #ウェルビーイング
  • #地方創生

Ranking
アクセスランキング

  • TOP
  • ニュース
  • AI時代のサステナビリティ情報開示 企業の情報開示は「本質」を伝えられるか?