• 公開日:2026.10.15
世界の土地回復は2030年目標の10%にとどまる IUCN報告書
  • 遠藤 康子
image credit: Unsplash (Photo by Boudewijn Huysmans)

2026年は気候変動、生物多様性、砂漠化に関する条約の締約国会議が同時開催される「トリプルCOP」年だ。関心はどうしても気候変動COPに集中しがちだが、生命の基盤である土地について議論する砂漠化対処条約COPも重要性は等しい。

世界では毎年、干ばつや森林伐採、化学肥料の過剰使用などが原因で、日本の国土3つ分もの健全な土地が劣化している。現行の農業による土壌の浸食は、自然に再生されるよりも100倍近い速さで進んでいるという。各国はそれぞれ土地回復に取り組んでおり、2030年までの回復目標面積は世界全体で12億ヘクタール。だが、国際自然保護連合(IUCN)が2026年8月に公表した報告書によると、回復・修復・管理改善が報告された土地は1億2430万ヘクタールと、目標の10.4%に過ぎない。

リオ3条約の1つ「砂漠化対処条約」

モンゴル・ウランバートルで2026年8月17日から開催されていた国連砂漠化対処条約(UNCCD)第17回締約国会議(COP17)が同28日に閉幕した。今回は「Restoring Land. Restoring Hope(大地を回復し、希望を取り戻す)」をテーマに、砂漠化や土地の劣化、干ばつなどに関する課題とその解決策が議論された。

UNCCDは、土地の保護・回復と、より安全で公正かつ持続可能な未来の実現を目指して1994年に採択された条約だ。深刻な干ばつや砂漠化に直面する国々が対処するための行動計画を策定・実施し、締約している先進国がそれを支援することが規定されており、日本を含む196カ国と欧州連合(EU)が締約している。UNCCDは、生物多様性条約(CBD)、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)と並ぶリオ3条約の1つでもある。

しかし、世界では土地の劣化が止まらない。UNCCDが2022年に発表した報告書「グローバル・ランド・アウトルック」によると、地球の陸地面積は推定で20%から40%が劣化しており、全人口の半数近くがその影響下にある。また、持続が不可能な土地管理や森林破壊、気候変動などにより、2015年から2019年まで、健全で生産可能な土地が毎年1億ヘクタールも劣化したことがUNCCDの2023年データで明らかになっている。1億ヘクタールは日本の国土面積(約3780万ヘクタール)の3倍だ。

土地回復への投資がもたらす経済効果

砂漠化対策は待ったなしだ。そして、土地を回復することは経済的に見て合理的であることが示されている。先述の「グローバル・ランド・アウトルック」によると、劣化した土地の回復に投資した場合のリターンは推定で1ドル当たり7ドルから30ドルだという。当時のUNCCD事務局長イブラヒム・ティヤウ氏は、「大規模な土地回復への投資は、砂漠化、土壌浸食、農業生産の減少に立ち向かう上で非常に有効な策です。環境、気候、経済、そして地域住民にとって納得のいく解決策であり、費用対効果が非常に高い持続可能な開発手段と言えます」と述べていた。

UNCCDは砂漠化への対処にあたり、「土地劣化の中立性(Land Degradation Neutrality : LDN)」という原則を打ち立てている。劣化した土地を回復するだけでなく、さらなる劣化を防いでマイナスの影響を最小限に抑えようという考え方だ。そして、土地に関する計画立案時には、第1に「土地の劣化を回避(avoid)」、第2に「土地の劣化を削減(reduce)」、第3に「劣化した土地を再生(reverse)」するという優先順位で臨むよう呼びかけている。

8月の砂漠化対処条約COP17は、土地の回復と干ばつ対策に13億ドル規模の資金を投じることが表明されて幕を閉じた。さらに、UNCCDとルクセンブルク政府は、干ばつ対策に特化した触媒的資金調達プラットフォーム「干ばつレジリエンス投資ファシリティ(DRIF)」の立ち上げを発表。官民合わせて4億米ドルの動員を目指す。その一方で、干ばつへの備えとレジリエンスを強化するための枠組みづくりは、COP16に続いて議論されたが合意に至らず、2028年のCOP18に持ち越しとなった。

土地回復の目標達成ははるか先

COP17に合わせ、国際自然保護連合は各国の土地回復状況を調査して地域別に比較評価した報告書「Global Land Restoration Achievement Database: 2026 Report」を発表した。各国が表明している土地回復の目標と現状との乖離(かいり)を明らかにしたもので、体系的な総合評価としては初の試みだ。

各国は、主要な4つの国際枠組みの下で土地回復の国家目標を立てている。4つの枠組みとは、国連生態系回復の10年、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)、国際連合砂漠化対処条約の土地劣化の中立性、国連気候変動枠組条約の「国が決定する貢献(NDC)」で、2030年までに回復を約束している土地の総面積は12億ヘクタールだ。

しかし、IUCNの報告書では、回復・修復・管理改善が公式に報告されている土地の総面積が1億2430万ヘクタール(フランスの国土のおよそ2倍)に過ぎないことが明らかになった。目標達成率はわずか10.4%だ。言うまでもなく、このペースでは2030年の目標達成は難しい。UNCCD事務局長のヤスミン・フアド氏は「IUCNの報告書を見れば、これまでの進捗状況、ならびに今後の課題の大きさが分かります。土地の回復は確かに進んでいますが、各国が掲げる目標の達成にはほど遠く、取り組みはまだまだ不十分です」と述べている。

達成率に地域間で大きな開き

土地の回復状況を地域別に見てみよう。大きな成果を上げているのは東アジア(日本と韓国を除く)、南アジア、サハラ砂漠以南アフリカだ。回復・修復・管理改善が報告されている総面積に占める割合はそれぞれ31%、30%、19%で、この3地域だけで80%に達する。これらの地域が広大だということもあるが、進捗度合いにかなり偏りがあるとも言えよう。

地域別に見た回復目標の達成率は、東アジアが森林再生と長期的なモニタリング体制が奏功し、35%を達成した。南アジアは土地生産性の向上や農業分野での取り組みにより、達成率40%とトップだった。サハラ砂漠以南アフリカは、乾燥地や牧草地などの回復が進められており、土地再生に向けた取り組みが最も活発な地域ではあるが、資金不足や制度の不備により、目標達成率は5%止まりとなっている。

それ以外の地域の達成率はというと、西・中央ヨーロッパが20.7%、北米が16.4%、ロシア・東ヨーロッパ・中央アジアが21.4%。残る地域は一桁台にとどまった。目に付くのは日本・韓国・オセアニア地域だ。回復・修復・管理改善が報告されている面積は12万ヘクタールに満たず、全体に占める割合は0.1%。土地面積そのものが小さく、回復に関する指標よりも土地の保全や管理の報告が優先される傾向があるとはいえ、目標達成率も最低の0.2%だった。

土地は暮らしと経済の基盤

持続可能な開発目標(SDGs)の目標15は「陸の豊かさも守ろう」で、その第3のターゲットとして「2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する」ことが掲げられている。

土地が劣化すれば、生物は住む場所をなくし、生物多様性が減少して生態系が失われる。また、作物の収量が減少するため、私たち人間は健康と幸福が脅かされ、貧困に陥る。土地は全てを支える土台だ。

IUCN事務局長のグレーテル・アギラー氏は報告書のプレスリリースで次のように述べている。「健全な生態系は私たちの暮らしと経済を支える基盤であり、空気や飲み水、食料、必要な資源を提供してくれます。土地の回復は単なる環境対策にとどまりません。私たちにできる最も賢明な投資のひとつなのです」

<参考資料>

IUCN「Global Land Restoration Achievement Database: 2026 Report」
https://iucn.org/sites/default/files/2026-08/Restoration%20Achivements%20Database%202026.pdf
written by

遠藤 康子(えんどう・やすこ)

フリーランス英日翻訳者。英語講師、日本語講師を経て、現在はウェブニュース、雑誌記事、書籍の翻訳を手掛ける。訳書に『子どものためのセルフ・コンパッション』(創元社)など、共訳書に『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう。』(SSIR Japan)などがある。

Related
この記事に関連するニュース

【子どもの権利とビジネス原則】第6回 気候危機の時代に企業は子どもの声を聴いているか
2026.10.13
  • コラム
  • #気候変動/気候危機
  • #人権
ウォッシャブルペーパーのバッグで伝える・変える環境意識
2026.10.08
  • スポンサー記事
  • #サーキュラーエコノミー
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
電力需要増と遅れる日本の再エネ投資 ブルームバーグのレポートが示すもの
2026.10.06
  • ニュース
  • #再生可能エネルギー
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
nestが富山・黒部のYKK APでフィールドワーク 「窓」から未来の暮らしを設計する
2026.09.28
  • SBコミュニティニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #テクノロジー

News
SB JAPAN 新着記事

世界の土地回復は2030年目標の10%にとどまる IUCN報告書
2026.10.15
  • ワールドニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #生物多様性
Netflixでも描かれた「ブルーゾーン」 沖縄、長寿復活へ先人の知恵
2026.10.14
  • ニュース
  • #ウェルビーイング
  • #行動変容
  • #ツーリズム
第11回「サステナブル・ブランド国際会議 2027 東京・丸の内」開催決定 アーリーバード登録を開始
2026.10.13
  • ニュース
  • SBコミュニティニュース
    【子どもの権利とビジネス原則】第6回 気候危機の時代に企業は子どもの声を聴いているか
    2026.10.13
    • コラム
    • #気候変動/気候危機
    • #人権

    Ranking
    アクセスランキング

    • TOP
    • ニュース
    • 世界の土地回復は2030年目標の10%にとどまる IUCN報告書