• 公開日:2026.10.19
「採択」から「通信簿」へ  生物多様性COP17、企業が注目すべき3つの論点
  • 足立 直樹
image credit: Unsplash

2026年10月19日から30日まで、アルメニアの首都エレバンで、生物多様性条約(CBD)の第17回締約国会議(COP17)が開かれます。テーマは“Taking Action for Nature(自然のために行動を)”です。開会式は18日夕方です。

最初に正直に言うと、今回の見どころは新しい目標ではありません。2022年に採択した昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF、2030年までの世界共通の目標)の進み具合を世界全体で初めて点検し、各国で資金と情報開示のルールを詰めるための会議です。基本的には、各国の行動やそのルールを議論するのですが、それが間接的に企業に影響するものもあります。

特に注目すべきことは3つあります。1つ目は、資金の仕組み。民間資金への期待は高まっていますが、それがどう着地するのか。2つ目は、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI、生物の遺伝情報データ)を使う企業には、その利益配分のルールが検討されること。3つ目は、自然関連の開示が「奨励」から「義務」に近づく中、測定の物差しが急速にそろい始めていることです。

初のグローバルレビュー

前述の通り、一番の見どころは、GBFの進捗を点検する初のグローバルレビューです。事務局の報告書案は、このままでは2030年の目標に届かないと結論づけています。全23目標のいずれも、国別目標が「順調または達成済み」とした国は半数に届かず、特に遅れているのは、資金、有害な補助金の改革、企業の影響と依存への対処、持続可能な消費だと報告されています。

閣僚級のハイレベル・セグメントは10月27日と28日に開かれます。28日夜の全体会合で決定案の到達点を確認し、29日に修正文書を審査、30日午前に決定を採択する予定です。ただし日程は流動的で、山場は28日夜から29日になりそうです。直前のナイロビ会合では、資金を巡る対立は解けず、COP17に持ち越されました。なお、首脳級のサミット「Leaders for Nature」は、COP17直前の16日(17日にかかる可能性もあります)に開かれる予定です。

最大の争点は「お金」

そして、最大の争点は資金です。先進国は地球環境ファシリティ(GEF)を中心とする既存の枠組みを続けたいのに対し、途上国は生物多様性条約の管轄下に新たな基金をつくるよう求めています。この対立でCOP16は中断し、今回も火種になりそうです。それでもCOP17から19にかけて恒久的な資金の仕組みを設計し、資金動員を改善していく道筋は決まっています。

2025年までに国際公的資金を年200億ドルへ引き上げるという中間目標は、達成できない公算が大きいと報じられています。資金を出す「先進国」のリストを見直す議論もありますが、世界銀行の所得分類を使う案には、途上国の80を超える国が反対していると報じられています。公的資金が不足するほど民間資金への期待は高まりますので、ここは企業としても注目です。

自主拠出の現実と、義務化を巡る綱引き

DSIの利用で生じた利益を分かち合う仕組みが、COP16で決まったカリ基金です。拠出の目安は利益の1%または売上の0.1%で、COP16の決定16/2により、総資産2000万ドル、売上5000万ドル、利益500万ドルの3つのうち2つ以上を、過去3年間の平均で上回る企業が対象とされています。基金の50%以上は、先住民族と地域社会の支援に充てられます。ただし、拠出はあくまで自主的です。

9月時点の報道では、拠出実績は2社で計6000ドルにとどまります。拠出を義務にするのか、自主制のままにするのかが争点です。ナイロビ会合の最終日には、途上国が基金の手続きの透明性を求め、先進国は拠出を考える企業への影響を懸念し、非公式協議の末に妥協したと報告されています。運用の詳細はCOP17で決まる予定です。製薬など、DSIを研究開発に使う企業は、結論を待たずに、自社がどの遺伝資源や配列データをどこから得ているかを棚卸ししておくことが必要でしょう。

情報開示は「奨励」から「義務」へ動くか

GBFのターゲット15は、各国が大企業と金融機関に、自然への依存と影響を評価し開示させるよう求めています。自然への配慮を企業活動や金融に組み込む「主流化」に関する決定案では、企業の評価・開示・低減の責任や、生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の評価に基づく開示を、奨励するのか義務付けるのかが議論される見込みと報じられており、企業は気になるところです。

一方、企業やNGOも、こうしたCOPでの議論とは独立して自主的な準備を進めています。その一つが、企業やNGOが参加するNature Positive Initiativeが10月13日に発表したState of Nature(自然の状態)指標です。生態系の範囲、生態系の状態、種の絶滅リスク、種個体群の4つをコア指標とし、陸域・淡水・海域を対象としています。500人を超える専門家の合意を経て、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)と、科学に基づく自然目標ネットワーク(SBTN)の企業向け自然目標の枠組み第2版にはすでに統合され、サステナビリティ報告の国際基準であるGRIも統合を検討中です。

開示ルールの担い手も変わりつつあります。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、自然関連開示の実務記述書(IFRSプラクティス・ステートメント)の公開草案を、エレバンで開くウェビナーに合わせて10月22日に公開する予定で、その後、来年2月19日までの120日間の意見募集が行われます。まったくの新基準ではなく、既存の開示基準IFRS S1を自然に当てはめる際の助けとなる文書で、TNFDの取り組みを土台にしています。TNFDは今後の開発をISSBに引き継ぐ流れにあると報じられています。

TNFDで開示を始めた企業は作り直す必要はなさそうですが、その延長線上にISSBがあります。枠組みを選ぶ段階は終わり、開示は義務に近づいていくのでしょう。

企業にとっての見どころは

最後に、実際にCOPに参加する方向けの情報です。COPは締約国・地域が議決するための場で、企業は交渉の当事者ではありません。ただし、ここで決まったことは、日本を含む各国の規制、開示、調達を通じて企業に及びます。交渉の本体は国連管理区域(ブルーゾーン)の本会議と作業部会で進みますが、その周辺のグリーンゾーンでも、企業向けのサイドイベントや関連イベントが開かれます。

22日は、前述のISSB公開草案の公開があります。翌23日には、CDPが「Building the Global Baseline」というイベントを開きます。23日と24日はTNFDによるイベントがあり、世界生物多様性サミットも併設され、LEAP 2.0の紹介なども予定されています。いずれも開示ルールの行方が気になる方には重要なイベントです。なお、いくつかのイベントでは事前の参加登録が必要ですので、ご注意ください。

25日は日曜日ですが、交渉の休みを利用して、「ビジネスと生物多様性フォーラム」や各団体のサイドイベントが開かれます。26日は「Finance and Biodiversity Day」として、金融の進捗、保険、重要な生態系への資金などについての発表が予定されています。

COPに参加するメリットは、大きく4つあると思います。まず①情報収集で、論点や各国の温度感を直接聞けます。次に②ネットワーキング。世界の投資家、NGO、自治体と直接会えます。③自社の取り組みを発信することもできますし、④決定案の動きを先読みできるのも、現地参加ならではです。今回の参加は難しくても、2年後のCOP18にはぜひ参加を検討してみてください。

COP17は世界の実行状況を問う重要な機会であると同時に、資金、利益配分、情報開示という3つの面で、重要な転換点にもなりそうです。企業の今後の取り組みにも影響するでしょう。実際の結果は、閉会後に決定内容を検証して、お伝えしたいと思います。

<参考記事>

「《サス経》加速する生物多様性の動き、休んでいたのは私たちだけ!?」
https://note.com/adanao/n/n71451def56f5

written by

足立 直樹(あだち・なおき)

サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー / 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役

一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ 理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。

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