• 公開日:2026.10.14
Netflixでも描かれた「ブルーゾーン」 沖縄、長寿復活へ先人の知恵
  • 長嶺 真輝
イタリア・サルディーニャ島で開かれた国際会議でフィールドワークする参加者たち(画像提供:當山浩さん)

「ブルーゾーン」という言葉をご存じだろうか。健康で長生きする人が多い世界5カ所の長寿地域を指す。その一つが沖縄だ。2023年にはNetflixのドキュメンタリーでも取り上げられるなど、世界的な関心を集めている。一方、かつて「長寿の島」として知られた沖縄は、生活様式の現代化によってその地位が揺らぎ、先人の知恵を見直す動きが官民で広がり始めている。2026年には、同じブルーゾーンの一つであるイタリア・サルディーニャ島で国際会議が開かれ、沖縄からも関係者が参加した。沖縄の「長寿復活」を目指す動きを紹介する。

沖縄での研究でたどり着いた「4つのファクター」

世界5カ所の長寿地域を示す「ブルーゾーン」(画像提供:當山浩さん)

「ブルーゾーン」の原点は、イタリアの医師ジャンニ・ペス氏とベルギーの人口統計学者ミシェル・プーラン氏が、長寿者の多いサルディーニャ島の地域を地図上で青く囲んだことにある。その後、米国の探検家で作家のダン・ビュイトナー氏らが調査を広げ、沖縄、ギリシャ・イカリア島、コスタリカ・ニコヤ半島、米国・カリフォルニア州ロマリンダを含めた計5地域がブルーゾーンとして広く知られるようになった。

Netflixが2023年に配信した『100まで生きる: ブルーゾーンと健康長寿の秘訣』では、ビュイトナー氏が世界のブルーゾーンを訪問。第1話では昔ながらの生活様式が残る沖縄本島北部の大宜味村で長寿者たちを訪ね、農業や音楽、縫い物といった「生きがい」の重要性や、豆腐や紅芋などを中心とした栄養豊富な伝統的食生活に光を当てた。

沖縄では「ブルーゾーン」という言葉が広まるはるか前から、長寿の要因を探る研究が続いてきた。沖縄長寿科学研究センターの鈴木信センター長(琉球大学名誉教授)が長寿者の調査を始めたのは1976年。沖縄は1980年時点の平均寿命が、男性は74.52歳、女性は81.72歳と、いずれも全国1位。100歳以上の人数も多く、当時から長寿地域として際立った存在だった。

これまでの研究について語る沖縄長寿科学研究センターの鈴木信センター長

鈴木氏が最初の調査地として向かったのが、農村地域だった本島中部の読谷村だ。100歳を迎えた高齢者から直接聞き取りを行い、食事や生活習慣、健康状態などを一つひとつ調べていった。その過程で、「医学的な数値だけでは長寿を説明しきれない」と考えるようになる。そして、長寿を支えるライフスタイルを大きく「4つのファクター」に整理した。

食:健康的な食材に加え、家族や地域の人と食卓を囲むことまで含めた「食文化」

身体活動:特別な運動ではなく、畑仕事など暮らしの中で日常的に全身を動かすこと

セルフヘルプ(自助):自分の健康は自分で守るという意識

ミューチュアルヘルプ(互助):家族や地域などのつながりで、人々が支え合うこと

鈴木氏が見てきた当時の暮らしは、ファストフードが食生活に溶け込み、移動も車中心となった現代の沖縄社会とは大きく異なる。鈴木氏は「高齢者は畑仕事などで一生懸命働いていました。局所的な運動ではなく、全身を使う。農業も漁業も、そういうスタイルだったんです」と振り返る。食事についても、家族や地域の人たちが食卓を囲む光景を「あの食べ方は、まさに食育ですよ」と表現する。

健康な体を支えていたのは、特別な健康法ではなく、日々の暮らしそのものだった。

平均寿命1位から後退、読谷村から復活の動き

沖縄県総合運動公園内にある「世界長寿地域宣言の碑」

長寿県として世界的に知られるようになった沖縄は、1995年に戦後50年の記念事業として「世界長寿地域宣言」を発表した。しかし、その後は平均寿命こそ延びているものの、全国順位が低下。2020年時点では、男性は80.73歳で43位、女性は87.88歳で16位となっている。

こうした状況に危機感を抱き、2023年に発足したのが、先人の知恵を現代のライフスタイルに取り入れることを目指す「読谷ブルーゾーン研究協議会」だ。読谷村は鈴木氏が長寿者の調査を始めた地でもあり、動きが先行した。地域の企業や団体などで構成され、現在は19団体が参加する。

同村で建設業を営み、協議会で自然体験活動指導者を担う當山浩氏は、「立ち上げた理由は、20歳から60歳までの人たちに、先人たちがやってきたライフスタイルを見直してもらうことです」と説明する。ただ、昔の暮らしへの回帰を目指しているわけではない。「以前のような生活をすることは非現実的です。今の生活に先人の知恵を取り入れるという考え方です」と強調する。 

活動の背景には、地域の健康を巡る現状への危機感もある。當山氏自身も親族を生活習慣病などで亡くしており、「親より先に逝く人たちが多いんです」と語る。

協議会と名城大学が2024年12月から2026年5月にかけ、村民約2000人を対象に実施した調査でも世代差が浮かんだ。高齢世代では伝統的な食生活やコミュニティー活動が比較的残る一方、20~50代では実践率が低い。若い世代にも伝統的な暮らしを健康維持に取り入れたいという意識はあるものの、実践する場が不足していることが分かった。

健康を支える「場」をつくる、観光にも力

読谷ブルーゾーン研究協議会の當山浩さん(左)と沖縄長寿科学研究センターの鈴木信センター長

その実践の場をつくる構想の一つが、共同農場だ。シニア世代と若者、親子らが沖縄特有の島野菜などを育て、収穫した食材で伝統料理を作る。健康について座学で学ぶだけではなく、世代を超えて一緒に体験できる場を目指す。実証を経て、今後本格化させる考えだ。

先人の暮らしを体感する機会を観光にもつなげようと、協議会は2026年1月、沖縄JTBと業務提携を締結した。伝統的な食文化や自然、人とのつながりを生かした観光プランを構築し、観光消費を地域に還元する未来を描く。

観光を地域の持続可能性につなげる発想は、沖縄県全体の観光政策とも重なる。県は2025年11月、都道府県として全国初となる「沖縄サステナブルツーリズム宣言」を発出。地域住民の暮らしとの調和や観光収益の地域還元に加え、文化や伝統をただ消費するのではなく、その価値を守りながら次世代へ継承することを掲げた。

「協議会としては、長寿復活を目指すことが最優先の課題です。活動を継続していくためにも、資金造成につながる観光コンテンツに力を入れていきたいと考えています」と當山氏。長寿復活を軸に、健康、観光、地域経済を好循環させる仕組みづくりを目指している。

世界の長寿地域と連携、次世代へ

イタリア・サルディーニャ島で行われた国際会議の参加者たち(画像提供:當山浩さん)

読谷村を中心とする「長寿復活」に向けた動きは、世界の長寿地域との交流にもつながり始めた。

2025年6月にサルディーニャ特別自治州の評議員らが沖縄県知事や読谷村長を訪問し、地域間交流に向けた意見交換を実施。1年後の2026年6月には、サルディーニャ島で国際会議「The Longevity Experience(長寿体験)」が開かれ、沖縄、サルディーニャ島、イカリア島、ニコヤ半島の関係者が集まった。沖縄からは當山氏や大城肇副知事(当時)らが参加し、沖縄の長寿文化や取り組みを紹介した。

各地域の発表を聞いた當山氏は、笑みを浮かべながら「ほとんど似ていました」と振り返る。伝統的な食生活や日々の暮らしについて「どの地域も、もちろん肉は食べるけど、野菜が中心。あと、一番似ていたのは、みんなゆっくりしていること。時間をあまり気にしないんです」と話す。

沖縄の言葉で、暑さの厳しい夏の真昼間を「マフックヮ」と呼び、かつてはその時間帯に畑仕事を休む習慣があったという。當山氏によると、サルディーニャ島でも正午から午後3時ごろまでは外に出ず、畑仕事をしない時間がある。「改めて、日々の暮らしが健康につながっていることを実感しました」と語る。

国際会議については、2027年の初めごろにもコスタリカのニコヤ市で第2回が開催予定。第3回は沖縄で開くことを想定し、すでに日程調整に動き出しているという。ライフスタイルや持続可能な観光モデルについての情報交換を継続したい考えだ。

1976年に鈴木氏が長寿者の調査を始めてから50年。世界から注目された沖縄の長寿文化は今、その価値を次の世代へどう引き継ぐかという局面を迎えている。先人の暮らしをそのまま再現するのではなく、現代の地域社会にどう生かすか。ブルーゾーンを未来へつなぐ挑戦が始まっている。

written by

長嶺 真輝(ながみね・まき)

フリーランス記者

地方紙記者として10年間、地域の経済や政治、スポーツを取材。現在はweb媒体や雑誌への寄稿、書籍の執筆などを手掛ける。取材・文を担当した「日本バスケの革命と言われた男」(双葉社)が沖縄書店大賞優秀賞を受賞。

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