
社会課題をテーマにした映画と上映後のトークを通じて、観客に行動のきっかけを届ける「大丸有SDGs映画祭2026」が9月28日、開幕した。大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリアを舞台に、10月22日まで国内外の作品を通じた全10プログラムを実施する。SDGsへの関心の高まりが一巡したといわれる中、7回目を迎える今年も、映画を入り口に社会課題と向き合う場を企画。初日は、長時間労働に揺れる職場を描いた話題作『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を上映。組織論の専門家を招いたトークセッションで幕を開けた。
繰り返す月曜が映し出す職場
オープニング作品に選ばれたのは、2022年公開の『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(竹林亮監督)。小さな広告代理店を舞台に、同じ1週間を繰り返していることに気付いた社員たちが、多忙で部下に目を向けない上司にそれを気付かせようと奮闘するコメディだ。
長時間労働、他責の空気、すれ違うコミュニケーション…。働く人ならおそらく思い当たる職場の風景が、タイムループという仕掛けを通じて鮮やかに浮かび上がる。「働きがいも経済成長も」(SDGs目標8)を、笑いとともに自分の職場や働き方へ引き寄せて考えさせる一作だ。
「軍事的世界観」を超えて
上映後のトークには、組織開発を手がけるMIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹氏と、LayerX バクラク事業部でエンジニアリングマネージャー(EM)を務める新多真琴氏が登壇。映画キュレーターのアーヤ藍氏の進行で、作品を入り口に「働きがいのある組織とは何か」などを語り合った。

安斎氏は、戦略や戦術といった戦争由来の言葉が浸透した組織運営を「軍事的世界観」と呼ぶ。目標達成のために人が手段や歯車として扱われ、名前ではなく役割で呼ばれるようになると、創造性が失われていくと指摘。劇中の職場にも、その構造が色濃く表れていたと読み解いた。
一方で、組織を変えていくには相互理解が重要だという。安斎氏は、肩書やスキルなど履歴書に書ける情報だけでなく、その人が何に関心を持ち、何を面白いと感じるのかといった「履歴書に書かれていない」個性やこだわりを知ることが、チームで成果を上げる上で大切だと話した。
新多氏も「一人だけでは何もできない」との実感が、チームで働く自身の出発点にあると語る。自分一人だけではできないことを実現するために組織があるとし、転職しやすい時代にあっても、自分が何者で、何ができ、何に興味を持っているかを理解してくれる人がいる職場で培った「関係資産」は「何ものにも代えがたい」と話した。
安斎氏はさらに、評価や数字、役割に追われる現代では、自分が本当に大切にしたいものや、何を面白いと感じるのかを見つめ直す「静かな時間」が必要だと指摘した。AI時代には「得意」で競うことが難しくなるとして、「何が得意か」だけでなく、「何を面白いと感じるか」を言葉にすることが重要だと強調した。
「続ける」ことの意義
大丸有SDGs映画祭は2020年にスタートし、今年で7年連続7回目の開催となる。「大丸有SDGs ACT5」実行委員会事務局長で、三菱地所の大林悟郎氏は、その狙いを「映画を通じ、社会課題やその解決に動いている人の思い、熱量を感じてほしい。一つの正解ではなく、自分で考え、何か一つでも問いを持ち帰ってほしい」と語る。
SDGsという言葉が浸透する一方、自ら行動に移す人はなお多くないと大林氏はみる。達成期限の2030年が迫る中、「キャンペーンワードとして終わらせたくない」。未達の課題が多く残る現状を踏まえ、達成が難しいからと諦めるのではなく、「少なくとも2030年までは責任を持って走り続けたい」と、映画祭を続ける意義を語った。

同映画祭アンバサダーを務めるアーヤ氏も、映画祭ならではの価値を語る。報道で情報に触れるだけでは流れていってしまうことも、「映画で見ることで体験に変えられ、記憶に残る」と言う。「『社会問題を考えなければ』ではなく、映画の中にいる人たちに出会い、声を聞く場だと思って来てほしい」と話し、観た後に語り合う時間が、関心を「自分ごと」へと近づけるという。
10作品で問う「いま」
今年の10作品について、アーヤ氏は「日本国憲法の公布から80年の今年は、民主主義や自由、人権を問う作品が多くなった」と振り返る。世界の作品を日本に引きつけて考えること、医療の持続可能性や報道の自由などこれまで扱えていなかったテーマを取り上げること、を意識したという。
ラインナップは、働き方から多様性、ジェンダー、難民、気候変動まで幅広い。看護現場の過酷さを描く『ナースコール』、子どもの福祉について考える『CLOSE/クロース』、磯焼けで消えゆく海の森とそこに生きる人々を追う『ここにいる、生きている。~消えゆく海藻の森に導かれて~』、医師・中村哲の歩みを記録した『劇場版 荒野に希望の灯をともす』などが並ぶ。
多くの回で上映後にゲストトークを設けるほか、10月9日には皇居外苑・和田倉噴水公園で無料の屋外上映も実施する。会場は3×3Lab Futureや東京国際フォーラムなど大丸有エリア各所。観て、語り、動く—。その循環を、映画祭は今年も街に広げていく。
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眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













