• 公開日:2026.09.10
変化を迎えたサステナビリティ情報開示の規制環境 財務部門との連携がカギ
  • Krutika Sharma
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企業の持続可能性に関する情報開示をこれまで一手に引き受けてきたのは、言うまでもなくサステナビリティ部門だ。単独で、手探りしながら、ノウハウや手法を少しずつ積み上げてきたわけだが、規制や基準の改定が相次ぎ、一部門だけで対応することがますます難しくなっている。

サステナビリティ情報開示にはさまざまな要件があり、データの正確性を担保できる財務部門の存在感が増している。新しい規制環境の中で両部門の能力を生かすために、企業はどのような体制づくりをしていけばいいのだろうか。(翻訳・編集=遠藤康子)

適応が求められる企業の情報開示体制

過去20年間、企業にとってのサステナビリティ情報開示は、ナラティブを組み立てる作業を意味した。担当チームがデータを収集して報告書にまとめ、独立した文書として年に1度公表する。幅広い人を対象にした内容で、保証の基準も低かった。

しかし近年になって、以下の3つの規制や基準の前提要件が変わり、サステナビリティ情報開示に関係する体制に実質的な影響が及んでいる。

1. EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)

欧州連合(EU)理事会は2026年2月、サステナビリティに関する複数の規則を簡素化するオムニバス指令を採択した。これを受け、CSRDは今後、従業員が1000人以上かつ年間売上額が4億5000万ユーロの組織を対象に、限定的保証の取得を義務化する。また、データ来歴の文書化と取締役会による承認、簡素化された欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づく報告も求められる。

2.欧州単一電子フォーマット(ESEF)

財務報告書などの提出時に使用が義務付けられているESEFでは、サステナビリティ情報開示の際もiXBRLタグ付けが必要となる。iXBRLを使用することで、サステナビリティ報告書の機械読み取りと、EUタクソノミー(分類体系)への対応が可能になる。

3. IFRSサステナビリティ開示基準

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定めるIFRSサステナビリティ開示基準のS1号(全般的要求事項)とS2号(気候変動)は、投資家向け報告書にサステナビリティに関するリスクと機会を盛り込み、資本配分の意思決定と並行して、気候リスクについて議論することを求めている。

以上を総合すると分かるように、サステナビリティ情報開示の体制に必要となってくるのは、監査を念頭に置いた手順、履歴を管理・追跡できるデータ、外部審査に耐えられるシステムだ。これらはどれも、基本的には財務部門が担う機能だが、複数の部門にまたがる機能にもなりつつある。サステナビリティ情報開示のためのデータ基盤を構築するにあたっては、ITや法務、調達、事業運営がそれぞれ役割を果たすことになるからだ。

これからの情報開示に不可欠な財務部門

サステナビリティのデータ収集はもはや当たり前であり、CSRDやISSBの適用対象企業なら、かなり前から取り組んでいるはずだ。とはいえ、そうしたデータは第三者保証を得るためではなく、任意で情報を開示するために収集されたものが多い。CSRDに関する最新調査では、「的確なCSRDデータを収集するのは非常に難しい」と回答した企業は83%に上った。また、「ESG監査への準備ができていない」と回答した企業は29%だった。

具体例を挙げよう。ある企業のサステナビリティ部門が、適切な手法と最新の換算率を用いて、スコープ2排出量を正確に算出した。しかし、定量化された元データまでさかのぼることができなかったり、入力値の来歴が不明だったり、正式な承認手続きが整っていなかったりした場合、第三者保証ではその数値が認められない可能性がある。数値が間違っているからではなく、正確であることを証明できないからだ。こうした不備をなくすには、財務部門が長年かけて築いてきた厳格なプロセスが必要となってくる。

独立調査会社ヴェルダンティクスが、サステナビリティ部門のリーダーを対象に実施した2024年グローバル調査では、「ESG戦略の資金調達とガバナンスで最も影響力があるのは最高財務責任者(CFO)である」と回答した人が73%を占めた。また、ビジネスコンサルティング会社プロティビティが実施する「Finance Trends Survey」では、CFOの優先事項を毎年ランキング化しており、2025年にはESGの順位が前年の14位から9位に大幅アップし、比較対象中で最大の伸びとなった。こうした傾向はもはや空論ではない。財務部門は実際に、情報開示の仕組みに積極関与し、主導権を握り始めている。

財務とサステナビリティの統合を成功させる3要素

こうした状況にうまく対応している企業は、業務の再配分にとどまらず、財務部門とサステナビリティ部門の関係そのものを見直している。経営コンサルティング会社A.T.カーニーと気候変動プラットフォーム「We Don’t Have Time」は2024年、広範な業種・地域のCFO、500人を対象に調査を実施した。その結果、経営戦略にサステナビリティを統合している企業のCFOのうち、「統合によって2025年の収益が伸びる見込みだ」と回答した人は90%を超えた。統合は単なるコンプライアンス対応ではなく、ビジネスとして妥当ということだ。

こうした取り組みで本格的な成果を上げている組織には、共通点が3つある。

  • データの所有権を共有する:排出量やエネルギーデータ、社会的指標を、財務データと同じガバナンスに組み込んでいる。財務部門はアカウンタビリティ(説明責任)の体制を、サステナビリティ部門は「何を測定すべきか」「なぜ測定すべきか」を決める専門性を提供する。どちらの部門も相手の役割を代替できない。

  • 報告作成を初めから共同管理する:サステナビリティ部門が報告書を作成し、財務部門が最終検証するのではなく、報告サイクルの初期段階から、部門をまたいで責任を共有できる体制が整っている。

  • 収集と検証が可能なシステムを構築している:サステナビリティ情報開示のプロセスは、スプレッドシートを使った仕組みから、データの来歴が残り、監査が可能な文書を作成できるプラットフォームへと移り変わっている。こうしたシステムづくりに注力した企業は、必要な作業を早めに完了でき、監査もスムーズだ。

社内の体制を変えることは決して容易ではない。主導権を巡って対立したり、重要データの扱いについての見解が相違したりすることはよくある。財務部門はESGの専門知識を十分に理解できないかもしれず、サステナビリティ部門は自分たちの領域から追い出されるような気持ちになるかもしれない。いずれにせよ、試行錯誤を繰り返しながら進めていくことが肝心だ。

サステナビリティ部門がこれから担うべき役割

サステナビリティ部門は、規制による義務化が始まるずっと前から、ESG開示システムをゼロから作り上げてきた。社内で支持を得られないことなどもあったはずだが、それでも指標を定め、枠組みを整えてきた。そうした積み重ねは、会社の説明責任を支える重要な土台であり、大きな意味を持つ。

財務部門がサステナビリティ情報開示に大きく関与する動きは、サステナビリティ部門のこれまでの取り組みを正すものではない。むしろ、成熟した結果であり、本来ならサステナビリティ部門が担う必要のない仕事から解放されると言ってもいいだろう。

最高サステナビリティ責任者(CSO)が役割を最大限に発揮できるのは、タクソノミーに対応したり、監査でデータ収集手法を擁護したりすることではない。組織は何に取り組むべきか、バリューチェーンとどう関わるか、規制を超えてどこまで踏み込むか、といった方向性を定めることこそ、CSOの役割だ。財務部門の仕事が「現状」を監査可能な記録に起こすことなら、サステナビリティ部門の仕事は「目指すべき状態」を示すことである。

ただし、情報開示プロセスが財務へと過度に偏ることにはリスクが伴うので、注意が必要だ。第三者保証や定量化ばかりに目が向くと、数値化の可能な事柄が強調され、重要でも数値化しにくい事柄がどうしても軽視されてしまう。企業活動による社会への影響や、生態系への依存、長期的なレジリエンスといった問題は、監査で好まれる形にしにくい。検証のしやすさを優先するあまり、情報開示の妥当性が失われるようでは不本意だ。専門性はそうしたリスクを抑止する力になる。

新体制づくりに向けた3つの問い

新たな仕組みづくりに取り組む際、大きな見落としがないよう、次の3つを問いかけよう。

  • 各データポイントの責任者は誰か:情報開示に必要な全ての指標について、データ責任者・検証担当者・承認担当者を割り当てよう。責任の所在があいまいなところにこそ、ミスが集中する。

  • 各数値は元データまでさかのぼれるか:さかのぼれない場合は、次の保証サイクルが始まるまでにトレーサビリティを確保しよう。これはシステムとプロセスへの投資であって、単なるデータ品質の問題ではない。

  • 報告サイクルの開始前に、財務部門とサステナビリティ部門は共通の運用モデルに同意しているか:納期が迫っている時にガバナンスの問題を解決しようとすると、場当たり的な結論になってしまうものだ。事前の合意が何よりもシンプルな改善策だ。

全社で取り組むサステナビリティ情報開示

サステナビリティ情報開示の体制を統合する流れは、すでに起きている。必要なデータを全社的な監督体制に組み込めば、根拠を示して正当化することが容易となる。グリーンウォッシュに厳しい目が向けられるようになった今の時代は、それが戦略的な強み、防御力となる。CFOの役割が拡大しているのは、規制による副次的な影響ではない。情報開示に本気で向き合うことに伴う必然の結果である。

<参照サイト>

「CSRD & CSDDDへの対応:2025年に発表された新たな開示規則」
https://www.councilfire.org/blog/navigating-csrd-csddd-new-reporting-rules-for-2025

「ファイナンス・トレンド調査」
https://www.protiviti.com/sites/default/files/2025-09/fintrends25-foresee-booklet-0925-na-en-protiviti-2025.pdf

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