
サステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ「nest」。第5期となる2026年度の7月定例会は、日本製紙連合会との共創プログラム「めぐる紙から、つづく暮らしを考える」のDay2として、愛知県春日井市の王子製紙春日井工場と王子ネピア名古屋工場を訪れた。5月のDay1では「紙の博物館」(東京都北区)で紙の歴史やリサイクルの仕組みを学んだメンバーら。今回は製造の最前線に身を置き、紙の循環を五感で体感した上で、「炭素の循環を活(い)かす新しい紙製品」を考えた。工場見学からワークショップまで、紙と脱炭素の未来に向き合った次世代たちの姿をレポートする。
月産6万トンを支える仕組み
1952年に操業を開始した春日井工場は、月産約6万トンの生産能力を持つ王子グループの基幹工場の一つだ。敷地面積は、東京ドーム約18個分に当たる約84万平方メートル。印刷用紙や包装用紙などに加え、同じ敷地内にある王子ネピア名古屋工場ではティッシュやトイレットロールなどを生産している。住宅地に囲まれた立地ながら、ボイラーやパルプ設備を敷地中心部に集約するとともに、騒音や臭気を抑える設備を設置、また、事務所や社宅、緑地帯で囲むことで、影響が無いようにしているという。
メンバーらは渡部司工場長らの歓迎を受けた後、バスで構内を巡った。名古屋港の専用埠頭から1日延べ約200台のトレーラーでチップが運ばれるチップヤードでは、アカシアやユーカリなどの広葉樹チップが樹種別に山積みにされていた。案内役の春日井工場事務部、賀川博昭グループマネージャーは「広葉樹は繊維が短くて滑らかな紙に、針葉樹は繊維が長くて丈夫な紙になる。製品に合わせて配合を変えている」と、原料と紙の関係を解説した。

続く古紙ヤードには、1ベール1トンの古紙が常時5000~6000ベール積まれているという。賀川氏は「新聞の購読が減り、古紙の量も品質も下がってきている」としつつも、「紙の繊維は理論上、7回程度は原料として再利用できる」と説明し、循環素材としての紙のポテンシャルを強調した。

バスを降りたメンバーらは春日井工場内に足を踏み入れ、紙をすく抄紙機や、紙の表面に薬品を塗って光沢や印刷適性を高める塗工設備などを見学。大きな機械音が響く中、原料のパルプが紙になるまでの一連の流れを間近で「体感」した。続いて訪れた王子ネピア名古屋工場では、トイレットロールの裁断・包装ラインなどを見学。衛生管理が行き届いたクリーンな環境の中、完全自動化されたラインでロールが次々とパッケージされていく様子に、メンバーらは目を見張っていた。

炭素の「出身地」で変わる意味
工場見学を経て、「炭素の循環を活かす、新しい紙製品を考えよう」をテーマにワークショップを開始。nestの村瀬悠ブランドディレクターがまず、「紙の循環」と「炭素の循環」の違いを整理した。鍵となるのは炭素の「出身地」。木や紙に含まれる生物由来の炭素は、もともと大気中のCO2が光合成で固定されたもので、紙を最終的に燃やしても地表上の炭素総量は増えない。一方、石油由来のプラスチックを燃やすと、地中に封じ込められていた炭素が大気中に放出され、総量が純増する。
この違いを踏まえて村瀬氏は、紙が脱炭素に貢献するアプローチとして「固定する」(植林でCO2吸収を増やす)、「置き換える」(化石由来品を紙に代替する)、「貯めておく」(紙製品を長く使う・循環させて炭素を紙の中にとどめる)の3つを示し、ワークを促した。


5チームに分かれたメンバーは、まず身の回りの石油由来品について付箋(せん)を使って洗い出し、「脱炭素のインパクト」と「次世代の感性」の2軸でマッピング。環境インパクトが大きく、かつ自分たちがワクワクするものの中から、紙に置き換える対象を選んだ。日本製紙連合会のスタッフの助言も受けながら活発に議論し、「新しい紙製品」の構想を固めていった。


ガチャからデニムまで、次世代が描く紙製品
あふれるアイデアを模造紙1枚にまとめ、いよいよ発表の時間を迎えた。
「神カプ」チームが目をつけたのは、ガチャガチャのカプセルだ。テープもノリも使わない紙だけのカプセルに「ペリペリ剥(は)がして開ける」構造を採用。開封すると元に戻せず、「これ以上使えない、手放したくなる」状態にすることで、その場での回収とリサイクルを促す。ガチャは若者の間でトレンドになっており、「紙カプセルが当たり前になれば、サステナビリティへの意識も自然に上がるはず」と訴えた。
「MOKU ~目の中に木!?~」チームは、プラスチック製カラーコンタクトレンズを木材セルロース由来の素材に置き換える製品を提案。植物由来の「くすみカラー」で美容と環境を両立させ、専用目薬でpHを変えると色が変わる仕組みで1枚を長期間使えるようにする。使用済みカラコンの回収ケースをプリクラショップなどに設置し、回収すると新色のお試しや割引が受けられる特典で循環を後押しする、と説明した。

「必勝!! 脱プラ祈願」チームは、大量に消費されるプラスチックの菓子包装に挑んだ。袋を紙と薄いフィルムの二重構造にし、使用後にフィルムを剥がすと紙面におみくじや「アタリ」が出現。分別行動そのものを楽しみに変える設計で、「身近なものから若者の意識を変える」と力を込めた。
「めぐるぐるファン」チームは、温暖化で市場が拡大するプラスチック製ハンディファンに着目。紙と木で作る扇子型ハンディファンを提案した。素材を紙と木のみにすることで完全な分別を可能にし、壊れたら専用の「Fun Fanボックス」で回収。代わりに色やデザインを選べる新しいファンが届くサブスクリプションの仕組みだ。「レトロブームと流行の融合。浴衣のような和服にも合う」と、扇子をルーツとするデザイン性もアピールした。

「時代は巡る 紙デニム」チームが問題視したのは、安価な服の大量消費・大量廃棄。紙の糸で作るデニムなら軽くてやわらかく、使うほど風合いが出る。ファスナーを全廃して全てボタンにすることで素材の分別を容易にし、リサイクルショップと連携して回収に特典をつける。さらに「あえて洗わない」という選択肢まで提案し、「紙だから印刷しやすく、デザインの幅も広がる」と可能性を語った。

それぞれに共通していたのは、「循環させる仕組み」と「長く使いたくなる価値」の両面を製品設計に組み込んでいた点だ。ワークショップの導入で学んだ「置き換える」「貯めておく」の視点が、アイデアの骨格にしっかりと反映されていた。
講評に立った王子ホールディングスの三戸部公郎・広報部長は、「どのチームの発表もユニークで、若い世代ならではの視点に刺激を受けた」と評価。「紙の糸で洋服を作る取り組みや、パルプモールドでトイカプセルを作る試みはすでに進めている」と明かした上で「普及にはコストの壁があるが、欧州では脱プラの法規制が進んでおり、日本もその方向に向かっていく可能性がある。若い皆さんの柔軟な発想が、紙の新しい可能性を開く力になる」とエールを送った。
Day1で紙の歴史と環境貢献を学び、Day2で紙の製造現場に立ち、原料から製品、そしてリサイクルまでの循環を体感。その上で新しい紙製品を構想し、業界の最前線に立つプロフェッショナルと直接対話した。この2回の共創プログラムを通じて、メンバーたちは身近な素材である「紙」の中に、脱炭素社会への具体的な回路を見いだした。次世代の感性と、長年紙を作り続けてきた業界の知見が交差したとき、循環型社会の輪郭がよりくっきりと浮かび上がる。その可能性を実感できるプログラムとなった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。











