
かつては、企業がサステナビリティを口にするのはイメージ戦略という意味合いが強かった。その後、規制や情報開示要件などが整うにつれ、サステナビリティへの取り組みはもはや避けることのできない義務となった。
そんな今、ビジネスリーダーがサステナビリティに向けた取り組みの原動力として、コンプライアンスと同様に重視していることがある。それはレジリエンスだ。次々と混乱に見舞われる世界を背景に、サステナビリティ戦略は新たな段階へと進んでいる。(翻訳・編集=遠藤康子)
サステナビリティ戦略を巡る期待と不安
持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)は2026年6月22日、企業が取り組む気候移行計画の進捗状況をまとめた年次報告書『Business Breakthrough Barometer 2026』を発表した。2026年版報告書の作成にあたっては、ビジネスリーダー500人以上を対象にしたアンケート調査と、企業幹部70人を対象にしたインタビューが行われた。
報告書によれば、ビジネスリーダーはサステナビリティへの取り組みが競争上の強みにつながるという考えを変えていない。また、気候変動に関連した分野への投資を継続・増加する企業が大半を占めている。その一方で、気候変動の物理的な影響や政策の転換、サプライチェーンの混乱、地政学的な分断によって、移行計画に狂いが生じるのではないかと懸念していることも浮き彫りになった。
しかし、とりわけ注目すべきは、より踏み込んだ点に関する結果だ。自社のサステナビリティ戦略を推し進めている主な原動力は何かという質問に対し、「コンプライアンス」「レジリエンスとリスク管理」という回答が共に最多で52%だった。それに続き、46%が「今後の成長機会」と回答した。
この結果から、企業によるサステナビリティへの取り組みが現在、どのような段階にあるのかが見えてくる。サステナビリティ戦略を突き動かしているのは、義務として規制を守ることであり、備えを万全にして自社を守ることである。
サステナビリティは自主的な取り組みから義務へ
企業は長年、サステナビリティへの取り組みをおおむね自主的なアクションと位置付けてきた。誓約を掲げる、報告書を公表する、各種のプロジェクトや活動を立ち上げる、目標を設定する、といった行動の多くは、正式な法的要件として求められる前から行われていた。しかし、状況は大きく変化した。
サステナビリティは、法規制や情報開示、調達、市場アクセスの一部として組み込まれるようになった。気候関連の報告基準やESG開示規則、デューデリジェンス要件、タクソノミーの枠組み、製品規制、カーボンプライシングの仕組み、セクター別の移行政策が定められたことで、企業が測定・管理・証明しなくてはならないハードルが上がったのだ。
従って、2026年版報告書でコンプライアンスがひときわ目立っていることは、当然だと言える。多くの管轄区域やセクターでは、サステナビリティに取り組むことはもはや企業の自主的な選択ではなく、法的な義務だ。サステナビリティにそれほど本気ではない企業でも、報告要件を満たし、顧客の期待や投資家の監視、法的リスクに対応しなければならない。
こうした規制の拡大で、組織内におけるサステナビリティの位置付けも一変した。企業は、データシステムやガバナンスの仕組みを整え、統制を図り、責任の所在を明確にし、法規制を読み解き、財務部門を関与させ、業務上の説明責任を果たす必要がある。
原動力としてのレジリエンスの強み
とはいえ、こうした変化の要因はコンプライアンスだけではない。サステナビリティへの取り組みを動かすもう一つの原動力は「レジリエンスとリスク管理」だ。これはつまり、より戦略的な視点に立つ必要があることを示している。
2026年版報告書で、コンプライアンスと同じ重みでレジリエンスとリスク管理が原動力に挙げられたことには、ことさらに意味がある。
企業は目下、混乱が常態化した状況で事業を行っている。熱波や水不足、暴風雨、洪水、山火事で資産や物流、インフラ、労働生産性、サプライヤーからの安定供給が脅かされることは日常茶飯事だ。また、地政学的な対立によってエネルギー市場や貿易ルート、産業政策、重要資源の確保を巡る体制が再構築され、マクロ経済的な圧力によってコスト、利益率、資本配分への目配りの必要性が増している。政策が安定せず先が読みにくいため、投資判断もいっそう複雑だ。移行規制やインセンティブ、技術の方向性に左右されやすいセクターは、特にその傾向が強い。
こうした状況では、レジリエンスが事業運営に直結する実践的なパワーとなる。要するに、リスクをあらかじめ予測し、衝撃を吸収し、事業モデルを適応させ、厳しい局面でもバリューチェーンを維持させていく力だ。
リスク管理に役立つサステナビリティ戦略
だからこそ、サステナビリティが戦略的な重大さを帯びてくる。十分に練り上げられたサステナビリティ戦略は、業績を左右し得る環境的・社会的な情勢を体系的に理解する手段となる。具体的に言えば、気候リスクと資産計画、水資源の確保とサプライチェーンの継続性、労働者の安全と熱波ならびに生産性、エネルギー戦略と価格変動、製品ポートフォリオと規制・需要・技術コストをつなぐ役割を果たすのだ。
その結果、サステナビリティはリスク管理の枠組みの一部として機能し始める。
2026年版報告書の投資に関する調査結果が、こうした見方を裏付けている。過去1年間で投資先としての魅力が増した分野を尋ねたところ、「発電・蓄電」「送電網」「再生型農業」「ゼロエミッション車」「強じんな建築物」が上位に並んだ。どれもが、エネルギー安全保障、コスト削減、強じんなインフラ、サプライチェーンの安定性、将来的な需要とのつながりを定量化しやすい分野だ。
一方、投資先としての魅力がさほど高くなかったのが「低炭素水素」や「たんぱく源の多様化」だ。サステナビリティとの関連性は高いものの、ビジネスとして成り立つか否かは、インフラや政策の安定、需要創出、技術の成熟、バリューチェーンの連携に左右されやすい。
コンプライアンス主導か、レジリエンス主導か
この2つを区別することで、企業の意思決定は大きく変わってくる。
幹部がサステナビリティ投資について検討する際は、その投資と事業の直接的な変動要因(コストや事業の継続性、リスクに直面する度合い、市場アクセス、顧客需要、競争上の立ち位置など)を結び付けられる方が、速やかに意思決定を下せるだろう。
コンプライアンスは最低限の行動基準を定め、レジリエンスは戦略の質を決定付ける。コンプライアンスを原動力にサステナビリティに取り組む場合は、自社は情報開示の要件を満たせるか、規制に対応できるか、外部の期待に応えられるかどうかを問うことになる。必要だとはいえ、そう問いかけても、事業がさらされるリスクの全体像を把握できることはまずない。
一方、レジリエンスを原動力にサステナビリティに取り組む場合は、もっと本質的な問いとなる。気候変動や移行リスクの影響を最も受けやすいのはどの資産、どのサプライヤー、どの市場、どのコミュニティか。エネルギーや水、物流、労働の混乱は、どの機能や領域で事業パフォーマンスに影響を及ぼす可能性があるか。どのような前提が資産配分を方向付けるか。リスクへの暴露を減らしつつ競争力を強化するのはどの投資か。
こう問うことで、サステナビリティは全社的リスク管理(ERM)やシナリオ分析、調達、オペレーション、財務、企業戦略と結び付いていく。
サステナビリティ戦略が成長を支える時代に
成長という側面も注目に値する。ビジネスリーダーの46%がサステナビリティ戦略の主要な原動力として「将来的な成長機会」を挙げているように、企業はサステナビリティへの取り組みを生かして、需要や技術、政策の方向性を見極めようとしている。移行によって、新たな市場が生まれると同時に、既存市場を取り巻く条件も変わっているからだ。
企業のサステナビリティ戦略の次なる段階は、コンプライアンス、レジリエンス、成長の3つが相互に作用することで形作られていくだろう。コンプライアンスが基準を定める。レジリエンスがビジネスモデルを強化する。成長が、市場が変わりゆく中で価値が創出されるのはどの領域かを指し示す。
企業におけるサステナビリティへの取り組みはいまや、変化の激しい経済に対応するための経営的規律だ。それと同時に、企業がリスクを把握し、資本を配分し、事業運営を維持し、バリューチェーンを適応させる上で役に立つものであり、環境・社会・規制が揺れ動く状況下で競争する企業を支えるものでもある。
企業が行動を起こしたきっかけはコンプライアンスかもしれない。しかし、サステナビリティに向けて行動を起こす理由として、レジリエンスの重要性が増している。
| <参考資料> 世界経済人会議(WBCSD)の年次報告書『Business Breakthrough Barometer 2026』 https://www.wbcsd.org/wp-content/uploads/2026/06/Buildings_Business-Breakthrough-Barometer-2026.pdf |













