
日本DX大賞実行委員会は7月22日、23日の2日間、東京都内で「日本DX大賞2026 サミット&アワード」の表彰式を開催した。5回目を迎える今回は過去最多の186件の応募があり、「支援」「地域DX」「庁内DX」「サステナビリティ」「価値創造」「業務変革」の全6部門で大賞・優秀賞・奨励賞の計24プロジェクトが表彰された。2日間にわたり、受賞者によるプレゼンテーションやパネルディスカッション、講演なども行われ、DX推進の事例や知見が共有された。大賞受賞者とパネルディスカッションの一部を紹介する。
りんご園から建設現場まで 6部門の大賞受賞者
日本DX大賞は、単なるデジタルツールの導入にとどまらず、現場の課題に向き合い、業務プロセスや組織風土そのものを変革した事例を発掘・表彰するプロジェクト。総務省やデジタル庁、経済産業省などが後援する。
支援部門の大賞は、ふくおかフィナンシャルグループ。約7年間で4000社を訪問し、地域の中小企業に対して戦略策定から業務改革、IT導入まで伴走する取り組みが評価された。銀行単独ではなく地域のITベンダーなどと連携し、支援の輪を広げている点が高く評価された。
地域DX部門は横須賀市が受賞。AI×ビッグデータを活用し、生活習慣病の予備軍段階でリスクを予知する「攻めの予防」モデルを構築した。40人規模の実証における高い継続率に加え、トップから現場までの強いコミットメントが評価された。
庁内DX部門は福島市・富士フイルムシステムサービス。住民基本台帳と被災者台帳を連携させ、申請主義では届きにくい被災者にプッシュ型で支援を届ける仕組みを開発した。平時の利用が有事の備えとなる設計が、他自治体への横展開モデルとして選ばれた。
サステナビリティ部門の大賞は、もりやま園(青森県弘前市)。「廃棄ゼロ・労働生産性4倍を目指す りんご園のDX革命」と題し、一次産業の構造課題に真正面から取り組んだ。一農園の実践から業界全体を盛り上げ、次世代へつなぐ姿勢が高く評価された。
価値創造部門は学校法人追手門学院が選ばれた。効率化に偏りがちな学校DXにおいて「学生の体験価値」を起点に据えた点が評価された。試行錯誤の過程を学生の学びにつなげ、卒業後もつながる仕組みへの発展性も注目された。
業務変革部門は大成建設が受賞。建築DX標準基盤「T-BasisX」により、人手不足や資源高騰といった業界課題に対して、現場の業務を根本から変えるラジカルな変革に取り組み、確実な成果を上げている点が高く評価された。
実行委員長の森戸裕一氏は「審査員からも『甲乙つけがたい』という声を多くいただくほど僅差の審査だった」と振り返り、「表彰して終わりではなく、ここから受賞者の挑戦が本当にスタートする」と述べた。
変わり続ける組織は、どうつくられるのか
2日目のビジネスデーでは、「変わり続ける組織は、どうつくられるのか」と題したパネルディスカッションが行われ、業務変革部門ファイナリスト4社が登壇した。組織変革の起点や社内の抵抗をどう乗り越えるか、変革への熱量をいかに維持するかについて意見が交わされた。

大阪ガスの出光啓祐氏は「ボトムアップと組み合わせないとうまくいかない」と述べ、経営層への学びの場と現場のディスカッションを両輪で回してきた経緯を語った。東京ガスネットワークの阿部蔵人氏は「魅力のある現場をエコシステム全体で作っていきたい」と語り、パートナー企業との対話を重ねながら現場主導で変革を定着させてきたと説明した。
三共電機の三橋進氏は「DXは目的ではなく、あくまでも過程」と述べ、小さな成功体験の積み重ねが従業員の自走を生み、業務の9割自動化につながったと振り返った。大成建設の中谷晃治氏は「監視のためのツールではなく、見守るための支援ツール」と現場に伝え続けたことが、建築DX標準基盤「T-BasisX」の全社標準化を後押ししたと語った。
4氏の議論を受け、モデレーターの志水静香氏は小さな成功を祝うことの重要性を挙げ、「近道はなく、地道な取り組みの継続こそが変わり続ける組織をつくる」と締めくくった。
農業、食品ロス、除雪…現場から問うDX
セッション「持続可能な社会と事業のつくり方」では、農業、食品ロス削減、除雪、水道インフラという異なる現場からDXの実践者が集い、それぞれの取り組みを共有した。

松江土建(島根県)の松林幸男氏とソフトウェアメーカー、フォーラムエイトの新田純子氏は、熟練者の経験に依存してきた除雪作業を、点群データと高精度測位で可視化し、若手技術者でも安全に作業できる仕組みを構築した事例を紹介。クラダシの吉田柾長氏は、食品メーカーの滞留在庫を買い取るビジネスで培った需要予測ノウハウを、AIを活用した「食品ロス原因療法型DX」の仕組みとして外部展開する取り組みを説明した。
もりやま園の森山聡彦氏は、通常は廃棄されていた摘果りんごをシードルとして商品化し、廃棄ゼロと収益向上を両立させる取り組みを語った。会津若松市上下水道局の遠藤利哉氏は、紙と定規に頼っていた水道管の継手(つぎて)管理をIoTで電子データ化し、業務時間の短縮と技術継承を実現した事例を紹介した。
各登壇者は資金、制度、組織内の「やらされ感」など、DX推進で直面した壁とその乗り越え方についても議論を交わし、「自分ごと化」や「対話」が共通のキーワードとして浮かび上がった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。







