• 公開日:2026.09.16
子どもの権利から考えるこれからのビジネス――企業が知るべき視点
【子どもの権利とビジネス原則】第5回 子どもへの影響に配慮した広告・マーケティングとは
  • 堀江 由美子

今回取り上げるのは、「子どもの権利とビジネス原則」の原則6、「子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動を行う」である。広告・マーケティングは、企業と子どもとの接点が最も日常的に生じる領域の一つだろう。

少子化やインターネット普及による社会の情報化を背景に、家庭の中で子どもは「消費者」としてその発言力や影響力を増し、両親や祖父母など、家族の消費をけん引するまでになっている。そして多くの企業は、子どもを含む消費者の欲求を刺激し、消費行動に影響を及ぼすため、子どもやその保護者に向けた広告やマーケティング活動を戦略的に展開している。

子どもの発達特性と広告・マーケティングの影響

広告・マーケティングの子どもへの影響を考える際に重要なのは、子どもは発達段階にあるという点である。アメリカ心理学会の調査(2004)によると、一般的に、4-5歳未満の子どもは番組と広告の区別がつかず、7-8歳未満の子どもは、購買意欲を刺激するという広告の狙いを理解できず、見聞きした情報を信じやすく、その影響を大人よりも受けやすいとされている。

このため、原則6は、企業に対して単に法令を守ることだけでなく、子どもの発達特性や脆弱(ぜいじゃく)性を理解した上で、子どもに負の影響を及ぼさない広告・マーケティングを行うことを求めている。さらに、広告を通じて子どもの肯定的な自尊心の向上、健全な生活習慣や多様性の尊重、非暴力といった価値の促進に貢献することをも求めている。

日本の子ども向け広告規制の現状

海外の多くの国では、子どもを対象とした広告やマーケティングに関する法律や規制が存在する。例として、スウェーデンは12歳未満、カナダのケベック州は13歳未満向けの広告を禁止、イギリスでは肥満対策として子どもに対する高脂肪・高糖分・高塩分の食品・飲料の広告を規制している。またEUで2024年から全面適用されているデジタルサービス法(DSA)では、18歳未満への行動ターゲティング広告を規制している。

一方、日本では、2025年12月に改定された「『ビジネスと人権』に関する行動計画」において「子どもに負の影響を及ぼすデジタル広告コンテンツへの対策」が取り組み事項として挙げられるなど、関心は高まっているものの、子どもに対する広告やマーケティングに関する法律や規制はいまだ存在しない。業界ごとの自主規制の規制力も限定的であり、子どもは、彼らへの影響に関する配慮が必ずしも十分に施されていない多くの広告にさらされている。

子どもへの影響に配慮した広告ガイドライン

こうした課題を背景に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、2015年にグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、有識者、企業、その他関連機関等から構成される「子どもの権利とマーケティング・広告検討委員会」を設置し、「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン」を策定、2016年に発表した。

ガイドラインでは、子どもを対象とした広告・マーケティング、また子ども以外を対象とした広告においても、子どもがそれを見ることで影響が及ぶ可能性を考慮し、暴力や差別的な表現、広告と番組の区別がつかない手法、友人関係を利用して購買をあおる手法など、多岐にわたって配慮を求めている。

デジタル広告で複雑化する広告・マーケティング

近年、デジタル技術の急速な発展に伴い、日本ではインターネット広告費がマスメディア広告費を上回り、日本広告審査機構(JARO)に寄せられる苦情もインターネット広告がテレビ広告を上回るようになった。国民生活センターにはデジタルコンテンツに関連した子どもの被害や相談が毎年多く寄せられ、消費者としての子どもの脆弱性への配慮の欠落が問題につながるケースが散見される。

そこで2023年、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、上述の「検討委員会」とともに2016年版ガイドラインを補う「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン 2023年増補版」を策定、公表した。増補版では、インターネット広告・マーケティングの留意点をはじめ、広告の定義の明確化、子どもの参加の視点、そして実務で活用できるチェックリストなどを追加している。

©Save the Children

インターネット広告では具体的にどのようなリスクが発生しているのか。1つには、広告手法の高度化・複雑化により、広告であることが明示されずに巧みに作りこまれ、それが広告だと子どもが理解しないまま個人情報を提供し、課金や定期購入が発生するといったリスクである。対応策として、広告であることを平易な言葉や文字、映像、音声などで子どもにも分かりやすく示すことや、オンラインゲームのアイテム購入やアプリ内課金などで子どもの購買意欲や射幸心を過度に刺激する手法を避け、契約や支払い過程について明確に丁寧に説明するといった十分な配慮が必要だ。

2つ目に、外見上のコンプレックスや、仲間外れにされるといった危機感をあおるような広告、差別的あるいは過度に性的な表現の広告が、自己肯定感の低下や、ステレオタイプや差別意識、商業主義的な価値観を植えつけるリスクである。こうしたリスクは、従来のマスメディア広告にもあるが、とりわけインターネットでは同じ広告が何度も繰り返し表示され、表現上子どもに負の影響をもたらし得るものも多く見られるため、より一層の配慮と対応が必要になる。

AIによる新たなリスク

現在、広告・マーケティングの在り方をさらに変えつつあるのがAIである。従来のターゲティング広告では、閲覧履歴などをもとに関心領域を特定し、広告を配信してきた。AIによる分析が高度化すれば、子どもの不安、孤独、外見へのコンプレックスなど、広告への反応に影響し得る特徴をさらに細かく推測し、「どのようなメッセージなら購買につながりやすいか」を予測することも可能になる。

これは「子どもに広告を見せる」という問題にとどまらず、子どもの意思決定に働きかける問題となり、子どもの権利の観点からは新たなリスクになると考えられる。生成AIによって広告とコンテンツの境界がさらに曖昧になり、AIで生成したキャラクターやインフルエンサーが商品を紹介した場合、子どもにとってはそれが広告であることがさらに認識しづらくなると考えられる。

これらは単なる広告表現の問題ではなく、オンラインサービスの設計・運用も含み、デジタル社会においていかに子どもの権利を守るかという課題そのものである。

子どもの最善の利益を基準に広告を見直す

原則6は、子ども向け商品を扱う企業だけの課題ではない。SNS、動画配信、ゲーム、EC、美容、食品、エンターテインメントなど、多様な分野の企業広告や情報発信が子どもに届く可能性を持っている。デジタル技術やAIによって広告はますます個別化・不可視化していく。だからこそ企業には、法令や業界ルールの順守を超えて、「この広告は子どもの最善の利益にかなうものか」と常に問うことが必要だ。広告主・広告会社のみならず、行政、オンラインプラットフォーム、インフルエンサー、学校や保護者などを含む「共同ガバナンス」の体制づくりが今後求められるだろう。

子どもは現在の消費者であると同時に、未来の市民であり社会の担い手でもある。企業が子どもの権利を尊重した広告・マーケティングを実践することは、持続可能な社会と市場を育てることにつながる。デジタル・AI時代の広告においてこそ、原則6の重要性はこれまで以上に高まっている。

<参考資料>

「Report of the APA Task Force on Advertising and Children」(2004年)
https://www.apa.org/pi/families/resources/advertising-children.pdf

「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン 2023年増補版」
https://www.savechildren.or.jp/partnership/crbp/pdf/fm2023.pdf
written by

堀江 由美子

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 部長

共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGs、子どもの権利とビジネスをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言や社会啓発に関わる。

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