• 公開日:2026.07.16
子どもの権利から考えるこれからのビジネス――企業が知るべき視点
【子どもの権利とビジネス原則】第3回 子どもの権利を支える働き方とは 企業の責任と実践
  • 堀江 由美子

「子どもの権利とビジネス原則」の原則3が企業に求めるのは、「すべての企業は、若年労働者、子どもの親や世話をする人々に働きがいのある人間らしい仕事を提供する」ことだ。

原則3の特徴は、雇用や労働条件を従業員の問題としてのみならず、「子どもの権利の実現に直結する課題」と捉えている点にある。親が長時間労働を強いられれば、子どもと過ごす時間は減少し、低賃金であれば、保健医療や栄養、教育や子どもの健やかな成長を促す様々な機会へのアクセスが制限されるだろう。また若年労働者が危険な労働に従事すれば、その発達や将来の機会が損なわれる可能性がある。

日本では働き方改革の進展により一定の改善が見られるものの、依然として長時間労働、育児と仕事の両立の困難さ、男女間賃金格差、非正規雇用の多さなどの課題が残る。また、ひとり親世帯、とりわけ母子世帯では就業率が高いにもかかわらず貧困率が高く、「働いていても貧困」というワーキングプアの問題も深刻だ。

子どもの権利の観点から見ると、これらは単なる労働問題ではない。親の不安定な雇用や過重労働は、子どもの十分な生活水準への権利や保健医療、教育を受ける権利、家族との関係を維持する権利に負の影響を及ぼす。原則3は、企業に対して「子どもへの影響を考慮した雇用慣行」を求めるものである。

「家族にやさしい職場」の考え方

近年、ユニセフや国連グローバル・コンパクト、また本連載第2回でも紹介した「子どもの権利とビジネスセンター(The Centre for Child Rights and Business)」では、「家族にやさしい職場(Family-Friendly Workplaces)」の取り組みを推進している。

これは従来のワークライフバランスの考え方をさらに発展させたもので、ワークライフバランスが「従業員が仕事と家庭を両立すること」を目的とするのに対し、「家族にやさしい職場」は「企業が子どもの健やかな成長と発達を支えること」を目的とする。つまり、育児支援や柔軟な働き方は単なる福利厚生ではなく、子どもの権利を実現するための施策として位置付けられる。

image credit:Adobe Stock

企業に求められるのは、例えば父親の育児参加の促進、柔軟な勤務制度やテレワークの導入、子どもの看護休暇やケア休暇の拡充、保育・病児保育支援、生活賃金の確保、妊産婦の保護や搾乳・授乳スペースの設置などの母乳育児支援、その他子どものウェルビーイングを考慮した人事制度といった施策だ。重要なのは、「女性活躍支援」から「子どもの最善の利益を支えるための家族支援」へと視点を転換することである。ひとり親世帯の子どもの貧困を企業の雇用政策の課題として捉えることも、日本社会における喫緊の課題と言えるだろう。

サプライチェーンでの責任

原則3の実践は、日本国内だけでなく海外の生産拠点やサプライチェーンにも及ぶ。グローバル企業に求められるのは、第2回でも取り上げたように、単に児童労働を禁止し排除することではなく、若年労働者や保護者としての労働者を取り巻く社会・文化的背景を理解しながら、子どもの権利を守ることである。

まず重要なのは、若年労働者(一般的に15~17歳)を守ることである。多くの途上国では、若年者の就労自体は合法であり、家計を支える重要な役割を担っている一方で、職場において若い労働者は搾取やハラスメントを受けやすく、脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい。企業には、若年労働者を一律に排除するのではなく、危険作業への従事防止、夜勤や長時間労働の回避、教育継続への配慮、職能訓練や生活向上のサポートを行うことが求められる。

また、社会・文化的背景への理解も重要である。例えば中国や東南アジアの国々では、親が都市部に出て働き、子どもが地方で祖父母と暮らす家族が少なくない。南アジアでは女性の移動制約や安全確保が課題となる地域もある。さらに移住労働者の子どもは、教育や保健医療へのアクセスに困難を抱える場合がある。こうした状況では、企業が単に法令順守を確認するだけでは不十分であり、労働者とその家族の実態を理解し、地域社会に根差した支援を行うことが重要になる。

「WeCareプログラム」とは

「子どもの権利とビジネスセンター」では、こうした考え方を実践に移し、家族全体のウェルビーイング向上を通して原則3を推進している。その代表的な取り組み「WeCareプログラム」では、工場や農園の労働者に対して、子どもの発達、ポジティブ・ペアレンティング(子どもの身体や心を傷つけることなく、子どもの主体性を育み健やかな発達を促す子育てのアプローチ)、子どもの保護、教育の重要性などに関する研修を実施している。さらに、出稼ぎ労働者が多い地域では、親子が離れて暮らす状況を踏まえ、遠隔でのコミュニケーションや子どもの心理的ケアに関する研修も行っている。

また、若年労働者向けには、労働者としての権利、労働安全衛生、キャリア形成、金融教育、ハラスメント防止などの研修を提供し、安全で成長に配慮した就労環境づくりを支援している。

さらに「Child-Friendly Spaces(子どもにやさしい空間)プログラム」は、学校休暇中や農繁期に工場や農園の近隣に設置される保育・学習施設で子どもたちが安全に過ごせる環境を提供することにより、児童労働や事故のリスクを低減するとともに、親が安心して働くことが可能になるようサポートするものだ。

人的資本経営への示唆

原則3が示しているのは、子どもの権利への取り組みは、企業の人権尊重責任の周辺的なテーマではなく、企業の人事・労務・サプライチェーンの在り方そのものに関わる課題であるということだ。「子どもの権利とビジネス」というと、日本の多くの企業は、「自社は子ども向けビジネスではないため、関係が薄い」と捉えがちだ。しかし原則3は、「すべての企業には従業員がいて、その多くは親や養育者である」という極めて普遍的な出発点に立っている。子どもに直接サービスを提供していなくても、全ての企業は、職場やサプライチェーン上の従業員の働き方を通じて、子どもの生活や成長に大きな影響を与えているという認識を持つことが重要だ。

また原則3は、近年多くの企業で重視される人的資本経営とも親和性が高いテーマだ。育児離職の防止、女性管理職の育成、従業員のエンゲージメント向上、健康経営、DEI推進などは全て「家族にやさしい職場」とも重なる。つまり、子どもの権利への配慮はコストではなく、人的資本への投資であるという視点の転換が求められるだろう。実際、企業が「家族にやさしい職場」を推進することは、従業員の士気の向上や離職率の低下、経営層への信頼、生産性、企業の業績につながるという多くのデータがこれまでに示されている。

<参照サイト>

子どもの権利とビジネスセンター(The Centre for Child Rights and Business)
https://www.childrights-business.org/

子どもの権利とビジネスセンター「WeCareプログラム」
https://childrights-business.org/FamilyFriendlyWorkplacesWeCarePackage

子どもの権利とビジネスセンター「Child-Friendly Spaces(子どもにやさしい空間)プログラム」
https://childrights-business.org/ChildFriendlySpaces
written by

堀江 由美子

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 部長

共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGs、子どもの権利とビジネスをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言や社会啓発に関わる。

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