• 公開日:2026.07.08
原発建て替えの現実味は? 「2040年代までに5基」を検証する
  • 北村 和也
image credit: Unsplash

6月初頭、新聞各紙の1面に「原発最大5基、建て替え」の文字が躍った。
初めて示された具体的な建て替え目標を前に、原子力政策がついに本格的な推進局面に入ったと映るかもしれないが、スケジュール、コストなどハードルは非常に高い。目標を立てたからといって現実がガラッと変わるわけではない。その理由を解説したい。

逆算して決めた“現実的な目標”

まず、日本の原子力発電所の現状を押さえておこう。

下の図がそれで、福島第一原発事故を受け、国内で再稼働済みの原発は15基に過ぎない。24基は廃炉が決まっている。一方、政府は第7次エネルギー基本計画(エネ基)で、2040年度に2割の電源を原発でまかなうことにしている。

日本の原子力発電所の現状(出典:資源エネルギー庁)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/049_01_00.pdf

しかし多くの原発が老朽化している。「60年運転」など、かなり強引に長い運転延長を可能にしたが、新設がなければ、必ず原発ゼロの日がやって来る。これをクリアするためには、廃炉分を建て替える、いわゆる「リプレース」が必須となる。

6月5日の原子力小委員会で“解決策”が示された。2割を確保するための必要量として、「2040年代までに約220万~550万キロワット(大型原発で2~5基程度)、2050年代までに約1270万~1600万キロワット(同11~14基程度)」と試算し、原発の建て替えを掲げた。だがこれは、政府の“公約”を守るための逆算に過ぎない。

目標を支える「次世代革新炉」

目標達成のためのベースにあるのは、なにより技術開発であろう。
そこで度々登場するのが、次世代革新炉である。エネ庁などの資料によると、革新軽水炉・小型軽水炉・高速炉・高温ガス炉・フュージョンエネルギーの5つを指す。

既設炉の最大限活用と次世代革新炉の開発・設置(出典:資源エネルギー庁、革新炉ワーキンググループ)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/048_02_s01.pdf

上図にもあるように、2040年のエネルギーミックスの原子力2割を実現するには、「次世代革新炉の開発・設置」を進める必要があるとされる。ここで、筆者ならずとも気になるのは『開発』の文字であろう。次世代革新炉は、いずれも現在開発中なのである。高速炉、高温ガス炉、フュージョンエネルギーはこれから実証を目指すレベルで、比較的実用化が早いとされる革新軽水炉と小型軽水炉が、期待の星となっている。

コスト、スケジュール共に厳しい実態

しかし、革新炉ワーキンググループ自らが、革新軽水炉の課題について、「実証試験等により更なるデータを収集していくことが必要」との認識を示している。

最も早くリプレースに手を挙げた関西電力は、この革新軽水炉を使うことを前提に、福井県の美浜原発での検討を始めた。

だが、スケジュールを見ると、2030年頃までに地質調査を行うことしか見えない。地元の同意、原子力規制委員会の審査から建設そのものにかかる期間などを含めると、最低20年以上はかかるとみられ、とても目標に間に合うとは思えない。さらに、建設費はこれまでの倍の2兆円かかるともいわれる。これまで限定的ながら原発の有効利用を語ってきた橘川武郎・国際大学学長でさえ、「やるやる詐欺」、「原発脳」といった厳しい言葉で批判している。

また、小型軽水炉(SMR:小型モジュール炉)は、海外などで計画や一部建設が行われているが、こちらも実情は厳しい。建設期間が予定を大幅に超え、併せて建設費が増大している。エネルギー経済・金融分析研究所(IEEFA)は、SMRの調査で建設期間が3~4倍かかっている実態を示している。同研究所は、後述するアメリカのニュースケール社の例を挙げて、2040年段階になっても洋上風力や太陽光発電+蓄電池に対してさえ発電コストはおよそ2倍と試算し、あまりにも高すぎると指摘している。


『Small Modular Reactors Still Too Expensive, Too Slow and Too Risky』(出典:エネルギー経済・金融分析研究所(IEEFA))

SMRの開発で注目されるのがアメリカのニュースケール社で、技術的に先端を行くとされ、日本の日揮ホールディングスやIHIが大型出資をしてきた。しかし、建設コストの増大などにより、米アイダホでのプロジェクトは2023年に“破綻”した。

リセットできない日本のエネルギー政策

仮に技術的に間に合っても、時間軸で考えれば「5基の建て替え」と「エネ基にある原発で2割」は実現できそうにない。何より、コストが合わないことは、旧一電を含めた発電事業側もわかっている。故に、目標の提示後、原子力小委員会では、「膨大な建設コストや事故賠償のリスクが課題」と業界側は強く主張した。コストは補填(ほてん)してくれ、責任は外してくれ、ということである。

今回の目標設定で、政府は「原子力の見通し・将来像」の提示によって「事業の予見性を高める」とする。しかし、ここまで説明した通り、目標を立てても実態が改善されるわけはなく、逆算のターゲットでは信頼感は作れない。

最初にありきは、その前の目標、「2040年を原発で2割」であった。それにこじつけるために、5基の建て替えと続いた。そしてそれを実現するには、大きな費用のサポートと事業者のリスクヘッジが必要だという話になった。

不幸なのは、そのつけを払わせられる国民である。莫大(ばくだい)なお金=税金がそこに投入される。ガソリン補助と同様に、その一部を再生エネ(ヒートポンプ、EVを含む)に充てるだけで、安全で大きな脱炭素ができるのに、である。担当する官僚であっても、本気で原発を続けて立て替えられると思っていないと想像される。

地震のリスクが決して消えることのない日本で、わざわざコストの高い発電施設を持つ理由はどこにあるのか。不可思議なエネルギー政策がリセットされないまま、責任の所在もどんどん闇に消えていく。実態をより広く知らせつつ、まともな政策を取り戻すために声を上げ続けるしかない。

written by

北村 和也(きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役

民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。

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