• 公開日:2026.06.25
SB-J エディターズ・ストーリー
【編集局コラム】6月が終わっても、「虹」はかかり続けるか
  • 眞崎 裕史

取材現場で心を動かされた言葉、記事にはならなかった小さな発見、そして、日常の中でふと感じたサステナビリティのヒント。本コラムでは、編集局メンバーの目を通したそんな「ストーリー」を、少し肩の力を抜いて、ゆるやかにつづっていきます。

今回の担当は眞崎です。

曇天の下、はじける笑顔

関東甲信地方の梅雨入りが発表された6月7日、曇天の東京・代々木公園に虹色があふれた。アジア最大級のLGBTQ+イベント「Tokyo Pride 2026」。2日間で延べ約27万人が詰めかけ、256団体が協賛した。熱気に包まれた会場で、私は思いを巡らせた。プライド月間の6月が過ぎても、「虹」はかかり続けるだろうか、と。

「ハッピープライド!」。小雨がちらつく空の下でも、はじける声と笑顔が記念撮影におさまっていく。色とりどりの衣装やレインボーフラッグが会場を彩り、企業・団体のブースがイベント広場を埋め尽くした。大学の出展や若い参加者の姿も目立つ。

ブリヂストンのブースで、八道真志(やじ・まさし)さんと出会った。山口県の防府工場でタイヤの成型に携わる。自身の在り方を、男性にも女性にも当てはまらない「ノンバイナリー」だと感じている。「男、女じゃなくて、『自分』かな」。4、5歳の頃に「男の子なんだから、女の子とおもちゃで遊んじゃダメ」と言われた経験が強く残っており、違和感を長く抱えてきた。5年前に大病を患ったことをきっかけに、自分と向き合い始めたという。

Tokyo Prideへの参加は今年で2回目だ。アライ(LGBTQ+の理解者・支援者)である上司に声をかけられ、人見知りながらブースのボランティアに応募した。前年はメンバーとほとんど話せなかった反省から、今年は「一人一人とツーショットを撮る」と目標を掲げ、ブリヂストンのメンバー全員と言葉を交わした。「LGBTQ+の当事者でも言い出せない人は多いと思う。自分が発信することで、誰もが自分らしさを表現できる社会になれば」。落ち着いた語り口に、強い覚悟がにじんでいた。

ブリヂストングループは2018年に策定した「グローバル人権方針」で性的指向や性自認を理由とする差別・ハラスメントを明確に禁じ、同性パートナーへの福利厚生の適用拡大やアライコミュニティ活動などを段階的に進めてきた。

パナソニック コネクトとNPO法人プライドハウス東京が企画・運営する企業連合プロジェクト「Pride Action30」も、LGBTQ+への理解を広げるアクションを展開する。ある大手メーカーの出展者は「外資系企業には思うように活動できず、悔しい思いをしている人もいる。私たちは反DEIの波にのまれず、しっかり進めていく」と力を込めた。こうした企業の持続的な取り組みは、確実に厚みを増している。

問われる7月以降

もっとも、多様性尊重をうたう企業活動の全てが、「実質」を伴うわけではない。Tokyo Pride 2026の会場でも、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は「STOP PINKWASHING」を訴えた。ピンクウォッシュとは、LGBTQ+支援を掲げながら実態が伴わない姿勢への批判だ。会場ではLGBTQ+との接点が不明瞭なブースも目に入った。

毎年6月になると、プライド関連のプレスリリースが続々と届く。協賛報告、パレード参加レポート、限定パッケージ商品の告知。企業の参画自体には意義がある。だが問われるのは、7月以降だ。ロゴは元に戻り、限定商品は棚から消える。では社内制度は変わったのか。通年での取り組みはあるのか。華やかな「6月の虹」と、地道な制度改革。その間にある距離を、企業には見つめてほしい。

「婚姻の平等」賛同が700社を突破

法の動きも転換点にある。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)は最高裁大法廷に回付され、2026年度中の判決が見込まれる。2023年施行のLGBT理解増進法は差別禁止の実効性を欠くとの声が根強いが、世論は動いている。電通グループの2026年の調査ではLGBTQ+当事者層の回答割合が10%を超え、同性婚の法制化への賛成は67%に達した。婚姻の平等を後押しする企業キャンペーン「Business for Marriage Equality」も賛同企業・団体が700社を超えた。

アジアではタイが2025年に同性婚を法制化し、2019年の台湾に続いた。G7で唯一、同性カップルの法的保護を国レベルで持たない日本が、最高裁の判断でどう動くか。企業も社会も、傍観者ではいられない。

レインボーは続くか

Tokyo Pride 2026のパレードには、当事者やアライら約1万5000人が参加した。「ハッピープライド!」の掛け声、カラフルなのぼり、そして笑顔が沿道にあふれる。カメラを構えていると、年配の夫婦と思しき2人が横を通り過ぎた。

「虹色がトレードマークなんだよ」

「へー」

「いろんな人がいるよ、ってことなんだよ」

「なるほどねぇ」

何気ない会話に、理解が静かに広がる手触りを感じた。しかし、理解と制度と日常の間には、まだ距離があるように思う。6月が終わった後もレインボーフラッグを掲げ続ける覚悟が、企業にはあるか。八道さんのように日常の中で発信する個人と、それを支える仕組み。その両輪がかみ合うところにこそ、「6月だけではない虹」は生まれる。

<参照サイト>

電通グループ「LGBTQ+調査2026」
https://www.japan.dentsu.com/jp/assets/pdf/news/2026006-0526.pdf

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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