
2026年度内に出されると見られる同性婚訴訟の最高裁判決を前に、企業はいま、何をどのように備えるべきか。6月30日、都内の経団連会館で開かれた「work with Pride 2026」カンファレンスでは、「結婚の平等に向けて企業にできること」をテーマに、弁護士や経営者、経済団体、労働組合の代表者らが登壇。法改正前後に企業が取るべきアクションを整理した実践ツールも公開され、セクターを超えた議論が交わされた。
年内にも最高裁判決か、企業への影響は
冒頭のキーノートでは、公益社団法人Marriage For All Japan共同代表で弁護士の寺原真希子氏が訴訟の現状を解説した。
2019年に全国5カ所で提起された「結婚の自由をすべての人に訴訟」(同性婚訴訟)は6訴訟に拡大し、5つの高裁が現行法を「違憲」と判断。複数の高裁は、同性カップルにのみ婚姻とは別の制度を設けること自体が「新たな差別を生み出す」と退け、判断は「婚姻でなければならない」という方向に収れんしてきた。2026年3月には最高裁が大法廷への回付を決定しており、弁護団の見立てでは年内にも判決が出る可能性がある。

企業実務への影響について寺原氏は、法改正後は就業規則上の「配偶者」に同性の配偶者も自動的に含まれると説明。異性を前提とした条文があれば修正が必要になるが、既存のパートナーシップ制度は残して問題ないとの見解も示した。「法改正は大きな一歩だが、それが全てを解決するわけではない」と述べ、企業の継続的な関与の重要性を強調した。
企業に迫られる「準備」
同性婚の法制化に賛同する企業キャンペーン「Business for Marriage Equality」の賛同企業が700社を超えたことも報告された。あわせて公開されたのが、「同性婚アクション・プラン作成ワークシート」だ。法制化の前と後、社内向けと社外向けのマトリクスで企業のアクションを整理し、準備チームの組成から広報・マーケティング・システム対応までを網羅する構成になっている。

認定NPO法人虹色ダイバーシティ理事長の村木真紀氏はパネルセッションで、「最高裁の判決が出てから考えよう、他社の動向を見てから考えよう、では遅い」と指摘。同性婚実現時の第一波として約12万件の婚姻が想定されると試算し、冠婚葬祭や不動産、金融など直接影響を受ける業界は特に急ぐ必要があると訴えた。
企業側の実践者として登壇したテイクアンドギヴ・ニーズ代表取締役社長の岩瀬賢治氏は、全国約60カ所の結婚式場を運営する立場から、10年以上前から同性カップルの結婚式を受け入れてきた経験を共有した。
転機は2012年、新卒の最終面接でトランスジェンダーの学生が語った「幸せになりたいだけなのに、幸せになる場所がない」という言葉だったという。2014年にはLGBT研修を開始し、同性パートナーへの福利厚生の適用も社員との対話から制度化。「法改正を待つのではなく、準備を先に進めることが企業の責任だ。準備を怠ると、悪意なく大切な社員やお客さまを傷つけることがある」と強調した。

一般社団法人LGBT法連合会代表理事の神谷悠一氏は、同性婚の準備にはカミングアウトの環境整備が前提になると指摘。国内調査ではLGBTが同僚にいても嫌ではないと答えた人が84.9%に上る一方、別の調査では職場でカミングアウトしているレズビアン、ゲイ、バイセクシャル当事者は16.3%にとどまる。カミングアウトできなければ婚姻をオープンにできず、企業の制度も利用できない。
2026年10月にはハラスメント防止法が改正され、カミングアウトの強要や禁止がハラスメントとして明記される。神谷氏は「法改正は常識が変わるタイミングだ」と述べ、カミングアウトの自由を担保する環境づくりに着手するよう求めた。
経済界と経営者が語る「企業の役割」
パネルセッション「セクターを超えて実現する協働とは」では、経団連、経済同友会、連合の各代表者が壇上に並んだ。LGBTQプラスをテーマに、この3団体が登壇するのは初めてだという。モデレーターは一般社団法人work with Pride代表の松中権氏が務めた。

経団連ソーシャル・コミュニケーション本部副本部長の大山みこ氏は、組織としてはまだ同性婚への賛同表明に至っていないと率直に明かした上で、「1700社の会員企業を持つ総合経済団体として、前向きに大きな動きにしていきたい」と抱負を述べた。人材獲得、人権リスク、市場開拓の3つの視点から経営層を説得する切り口を示した。
経済同友会副代表幹事の田代桂子氏は「法制化される可能性が高い以上、もう賛成・反対という段階は過ぎている。法制化を前提に準備を始める時だ」と明言し、経済団体間の「共同勉強会」の実現を提案。連合総合政策推進局長の畠山薫氏は、2020年の春季生活闘争から同性パートナーへの福利厚生拡充を方針に掲げ、年々成果が積み上がっていることなどを報告した。
最終セッション「企業経営者が語る、結婚の平等のある未来」は資生堂サステナビリティ戦略推進室 DE&Iグループマネージャーの岡林薫氏がモデレーターを務め、当事者でもある経営トップの訴えが会場に響いた。
EY Japanチェアパーソン兼CEOの貴田守亮氏は、同性婚が法制化されてない現状では年金や所得税、配偶者ビザなどで不平等があり、「企業努力だけではカバーしきれない」と制度的な限界を指摘。米国で同性婚の法制化を最後に後押ししたのは、大企業が連名で最高裁に提出した意見書だったと紹介し、「日本でも企業が連携して法制化を後押しする力になれる」と述べた。
さらに、自身がASEANや韓国のEY組織も統括する立場から、「アジアの国々は日本の動向を注視している。LGBTに対する刑罰が残る国の従業員でさえ、当事者である私をリーダーとして受け入れ、日本がどうなるのかと期待を寄せている」と語り、日本企業の行動がアジア全体に波及する可能性を示した。

日本の菓子のサブスクリプションサービスを展開するBokksu創業者、ダニー・タン氏は米国で日本人パートナーと結婚したものの、コロナ禍で離れ離れになった末に離婚に至った経験を語った。海外のビジネスパートナーからは「日本はあれだけの先進国なのに、なぜ同性婚が認められていないのか」と問われることが多く、制度の遅れが国やブランドのイメージに影を落としていると指摘した。
元プロサッカー選手でwagamama共同代表の下山田志帆氏は、2017年に同性婚が法制化されたドイツでプレーした2年間がキャリアで最もパフォーマンスが高かったと振り返り、セクシュアリティをオープンにできる環境がチーム全体の力を引き出した実感を語った。日本に帰国後は「ドイツではオープンに話していたのに、自分のことを隠してしまう自分がいた」とも打ち明けた。企業向け研修を実施している経験から、「トップが自分の口でなぜこの取り組みをするのかを説明した研修は、参加者の課題の捉え方が根本から変わる」と、経営者のメッセージ発信の力を強調した。
カンファレンス全体を通じて浮かび上がったのは、同性婚の法制化が従業員の心理的安全性や人材獲得、グローバルな企業ブランドに直結する経営課題だという認識だ。最高裁の判決を「待つ」のではなく「備える」企業がどれだけ広がるか。その数と行動の質が、法制化後の日本社会の風景を左右することになりそうだ。
| <参考資料> 同性婚アクション・プラン作成ワークシート https://drive.google.com/drive/folders/14SgXs4KChckvi6Kut4h3B3-eoFEPnMSD?usp=drive_link |
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。











