
「婚姻の平等」を求める機運が高まる中、企業の賛同状況を可視化し、法制化を後押しするキャンペーン「Business for Marriage Equality」(BME)。発足から5年で、賛同企業・団体は約5倍と大幅に増加している。平等で多様性を受け入れる社会の実現に向けて、企業が果たすべき役割とは何か。公益社団法人「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」代表理事で、BME共同代表の寺原真希子弁護士に、企業の力や社会の変化、法制化への見通しを聞いた。(敬称略)
企業の賛同を可視化する意味

――BMEの活動は同性婚実現へ向けた世論喚起の一環とお聞きしましたが、「世論喚起」で企業の賛同を可視化する狙いは何でしょうか。
寺原 BMEはMarriage For All Japan、認定NPO法人虹色ダイバーシティ、LGBTとアライのための法律家ネットワークの3団体が共同で立ち上げたキャンペーンで、最終的な目的は同性婚の法制化です。日本では民法や戸籍法が異性間の婚姻のみを認めており、同性カップルは法的保護を受けられません。これを変えるには法改正を担う国会議員の賛同が必要で、「世論の高まり」が不可欠です。
世論喚起の分かりやすい形が、企業の賛同の可視化だと考えています。社員や取引先、株主、消費者など、企業が持つ多様なステークホルダーとの接点を利用し、「誰もが知っている企業が賛同している」という可視化を通じて、「社会全体が同性婚を支持している」という事実を広く示すことが狙いです。具体的には、BME のウェブサイトに賛同企業のロゴを一覧で掲載しています。札幌地裁判決(2021年3月)以降、判決理由の中で「企業の取り組みも世論高揚の一例」として取り上げられ、違憲判断にも一定の影響を与えています。
――賛同企業は発足当初の134社から641社(2025年7月15日現在)まで増加し、ソニーグループやパナソニック、資生堂など、日本の名だたる企業が並んでいます。この背景には、どのような社会変化があるのでしょうか。
寺原 2020年11月の発足当初は「政治問題」と捉えられることもあり、賛同企業は外資系が大半でした。同性婚という言葉自体、当時はまだタブー視される風潮もあったように思います。しかし札幌地裁での違憲判断や、全国各地でのパートナーシップ制度やファミリーシップ制度の拡大、各種世論調査での高い賛成率などを受け、企業の間でも「人権問題」としての認識が深まりました。こうした変化を受けて、日本の大手企業からも賛同表明が相次ぎました。今では毎月10社前後のペースで増えており、業界もさまざまです。
同性婚とビジネスの接点
――企業が同性婚に賛同するメリットは何でしょうか。
寺原 大きく分けて2つあります。第1に「人材の確保」です。グローバル人材の来日・就労には、配偶者のビザなど法制度が影響します。性的マイノリティーが自身のキャリアと人生を考えた場合、同性婚が認められていない日本を選ぶことはプラスではない、と捉えられることが少なくありません。実際、「日本のことは好きだけど、やむを得ず海外で働く」という知り合いを何人も見てきました。優秀な人材が流出してしまっています。第2に「社員エンゲージメント」です。性的マジョリティーの社員であっても、「多様性を尊重する企業」に所属することが誇りとなり、組織への帰属意識やパフォーマンスの向上などにつながります。
同性婚へのコミットメントは「企業の本気度」を可視化する指標にもなります。ダイバーシティの推進は、グローバル企業では特に重要。サステナビリティレポートなどでBMEへの賛同について記載する企業もあり、採用面でのアピールにもなっているようです。
――他方で、賛同企業は東京に集中しています。
寺原 そこは課題です。地方では特に、「声を上げにくい」という性的マイノリティーが多いと思います。そういう中で、今年5月には広島で企業交流会を開催しました。広島銀行やマツダなど地元の主要企業が参加し、誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けて、共通理解を得ることができました。特に地方では企業が賛同表明するだけで、当事者の心理的安全性の向上につながると思います。地方の企業こそ、私たちの活動に賛同していただきたいです。
同性婚の法制化は人権問題
――賛同企業の活動で、象徴的な事例をお聞かせください。
寺原 コスメブランド「LUSH」を展開するラッシュジャパンは、全国の店舗でチャリティソープ「結婚の自由をすべての人に」を販売し、店舗でトークイベントも行いました。各店舗のスタッフが事前研修を受けて、来店客に自らの言葉でメッセージを伝えました。実際に、地方の性的マイノリティー当事者から「店員さんが心から話してくれるので、初めてカミングアウトした」といった声も寄せられ、メディアでも広く取り上げられました。

――高裁の違憲判断が相次ぎ、2026年には最高裁で統一判断が出される見通しです。
寺原 次のステップは、国会での具体的な法改正です。与党の中でも賛成議員は増えていますが、法改正にはさらなる世論の高まりが必要です。特に与党内での「慎重派」を安心させるためにも、「これだけ多くの企業が同性婚を支持している」という事実が大事です。また、一足先に同性婚を実現した台湾の事例を見ると、法改正が近づくにつれて、反対派のバッシングが高まる恐れがあります。あらかじめ多くの企業の賛同を得て、当事者を守る「土台」作りを続けていかなければいけません。
――あらためて、同性婚法制化の意義をどう訴えますか。
寺原 同性婚の法制化は「人権」の問題です。婚姻には何百もの法的効果が付いていて、相続権、共同親権、配偶者控除、社会保障などのあらゆる面で、同性カップルは配偶者としての法的保護を受けられていません。結果として「国はあなたの存在を認めない」と言われているようなもので、個人の尊厳が日々傷つけられています。企業が賛同を示すことは、性的マイノリティーの尊厳の回復につながり、誰もが安心して働き、活躍できる社会づくりにつながります。また、社員や取引先、顧客、株主を含む多様なステークホルダーの一人ひとりを大切に考えていることの表明でもあります。世論を可視化する「橋渡し役」として、ぜひ力を貸していただきたいです。
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眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。