
結婚の平等の実現を目指す公益社団法人「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」(以下、マリフォー)とジェンダー平等社会の実現を目指す一般社団法人「あすには」は、参議院議員選挙(7月20日投開票)を前に、選択的夫婦別姓と同性婚の法制化に賛成する候補者が一目で分かるARカメラ「MARRIAGE VISION(マリッジビジョン)」を共同開発した。7月10日から無料で利用可能となり、全国全ての選挙区で有権者に活用されることを目指す。有権者の政治参加を促すとともに、候補者の意見を知る貴重なツールとなりそうだ。
選挙ポスターに「賛成」の文字が浮上
日本は主要7カ国(G7)の中で唯一、「同性婚」と「夫婦別姓」が法律で認められていない。同性婚については全国5地域の高等裁判所が、同性婚を認めないのは憲法違反とする判決を出しているものの、法制化に向けた政府の具体的な動きは見られない。選択的夫婦別姓については今年5月、28年ぶりに衆議院法務委員会で審議入りしたが、採決されず、秋の臨時国会での継続審議となった。
法整備の遅れが国連や諸外国からも指摘される中、マリフォーとあすにはは、参院選に向けた共同企画を開始。マリッジビジョンは街頭の選挙ポスターにスマートフォンをかざすだけで、同性婚と選択的夫婦別姓のそれぞれに候補者が賛成しているかどうかが、一目りょう然となる。
アプリのダウンロードは不要。利用方法はスマートフォンを使って、(1)ポスターの前で専用サイトにアクセスする(2)選挙区を選択する(3)カメラをポスターにかざす――の3つのステップだ。賛成候補のポスターを読み取ると、AR(拡張現実)上でカラフルな花束の3Dエフェクトとともに、「同性婚に賛成」「選択的夫婦別姓に賛成」の文字が浮かび上がってくる。法制化に「反対」や「無回答」などの候補については、画面は変化しない。法制化への候補者の賛否は、朝日新聞社と東京大学・谷口研究室の共同調査などの情報を基に判別するという。
同性婚と選択的夫婦別姓の法制化の早期実現を目指す両団体は、6月30日、東京都内でマリッジビジョンの発表会を開いた。マリフォー理事の松中権氏は「違憲判決が相次ぐ異例の状況でも、同性婚導入に向けた検討の動きは見えない。今回の参院選は大切なターニングポイントだ」と強調。あすには代表理事の井田奈穂氏は「愛する人との結婚が認められない。自分の名前で生きることも許されない。そのような日本で、参院選を『結婚の自由』について考える選挙にしたい」と述べ、候補者の意見を知るツールとして、マリッジビジョンの利用を呼びかけた。
選択肢がある社会は誰にとっても幸せ

続くトークセッションには、一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣(そうし)氏、弁護士の三輪記子(ふさこ)氏、臨床心理士・公認心理師のみたらし加奈氏も加わり、「参院選における選択的夫婦別姓と同性婚。選べない日本の結婚の現状と未来を考える」をテーマに議論した。
ゲイ当事者の松岡氏は「選択肢がある社会は、当事者だけでなく、誰にとっても幸せや自己実現、生きやすさにつながっていく。みんなが生きやすくなる社会を目指して、一票を投じてほしい」と力説。自身も性的マイノリティーというみたらし氏は「選べないことが、自身の否定などメンタルヘルスにも影響してしまう。法制化されて選択肢が広がると、希望を持てる社会につながるのではないか」と指摘した。マイノリティーが置かれた状況に警鐘を鳴らす三輪氏は「人権問題に優劣はなく、全て大事だ。候補者がどう考えているのか、表面的な言葉にまどわされず、深く考えて投票する人が増えてくれたら」と期待を込めた。
同性婚と選択的夫婦別姓を巡っては、経済界からも実現の要請が強まっている。日本経済団体連合会(経団連)は2024年6月に政府への提言「選択肢のある社会の実現を目指して〜女性活躍に対する制度の壁を乗り越える〜」を公表。旧姓の通称使用によるトラブルが「企業にとっても、ビジネス上のリスクとなり得る事象であり、企業経営の視点からも無視できない重大な課題である」とし、選択的夫婦別姓について一刻も早い実現を求めている。

参院選は7月3日公示、20日に投開票を迎える。有権者の多くが物価高など経済問題に注目する中、選択的夫婦別姓と同性婚の実現は、見過ごされがちなイシューかもしれない。しかし、切実な人権問題であり、喫緊の課題だ。マリッジビジョンも活用して、参院選を「日本の婚姻制度」を考える機会としたい。
マリッジビジョンはこちらから利用できる。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。