
キリンビールは7月22日、フラッグシップブランド「キリン一番搾り生ビール」を通じて全国47都道府県の食の生産者を支援するブランドアクション「一番搾りACTION」を、7月下旬から開始すると発表した。気候変動や担い手不足に直面しながらも「新しいおいしさ」づくりに挑む生産者を、売り上げの一部で応援する。同社はこの取り組みを、CSV経営を推進する上での「大きな活動の柱の一つ」と位置付ける。都内で開かれた発表会には同社執行役員の今村恵三氏のほか、俳優の堤真一氏、小芝風花氏、支援対象の生産者らが登壇し、日本の食の未来へ熱い思いを語った。
9割の生産者が課題を実感
キリングループはCSV(Creating Shared Value)経営を10年以上推進し、「健康」「コミュニティ」「環境」の3領域で社会課題に取り組んできた。ビールカテゴリーでは「晴れ風ACTION」で日本の風物詩の保全・継承を、「グッドエールJAPAN」で自治体連携による地域活性化を展開している。今回、旗艦ブランドである一番搾りでアクションを開始し、CSV経営をさらに深化させる構えだ。

背景には食の生産現場が直面する危機がある。同社が一次産業の生産者1000人に「業界全体として感じる課題の影響」を尋ねた調査では、「気候変動」(93.3%)、「異常気象・自然災害」(91.8%)、「原油高」(91.7%)など大半が影響を実感していると回答した。一方で「おいしいものを届け続けたい」(88.7%)、「工夫や挑戦で課題を乗り越えたい」(80.6%)と前向きな意思も示された。
消費者2000人への調査でも87.5%が日本の食を「日本の誇り」と感じ、78.0%が「生産者の挑戦を応援したい」と回答。しかし「十分応援できている」のはわずか6.4%にとどまり、「普段の買い物で応援できるなら参加しやすい」との回答は77.7%に上った。一番搾りACTIONは、この消費者と生産者の間をつなぐ仕組みとして設計された。
売り上げ連動の寄付と「コイン」で応援
具体的には、全国からの公募・審査で各都道府県1件ずつ生産者を選出した。「一番搾り」の売り上げ1本当たり0.1円を自動的に寄付するほか、専用サイトで消費者が応援したい生産者に「コイン」を送れる仕組みも設けた。寄付金は生産機器の購入や後継者育成などに充てられ、2026年の寄付総額は5500万円程度を見込む。支援対象の「新しいおいしさ」は、気候変動や原料高騰などの厳しい環境下でも、生産者が創意工夫と挑戦によって生み出す「独自性または先進性を有する食」と定義した。

選ばれた生産者は多彩だ。福井県のみやざき農園は高温に強い県産ブランド米「いちほまれ」を手掛け、岩手県の北三陸ファクトリーは「磯焼け」による餌不足で身入りが悪くなった「痩せウニ」を、再生養殖によって高品質な食材に生まれ変わらせる。宮城県のさとうみ羊牧場は、養殖ワカメの未利用部分を発酵飼料に活用して漁業と畜産をつなぐ循環型の羊肉「南三陸わかめ羊」を生産。沖縄県の読谷テロワールは輸入に依存してきたバニラを国産で栽培し、高齢化が進む読谷村の新たな農業の柱に育てようとしている。
堤真一氏「日本の食に感謝」
発表会で今村氏は「一番搾りは36年にわたり日本のおいしい食とともに歩んできた。食の恵みへの感謝を形にし、おいしい未来に貢献したい」と語った。
一番搾りのCMに出演する堤氏は、みやざき農園訪問を振り返り、「ピンチをチャンスに変えるという生産者の方たちの努力を知り、あらためて日本の食に対する感謝の気持ちが生まれた。この企画が日本の食、ひいては自然を守ることにつながっていくことを願っている」と述べた。小芝氏は岩手県のウニ養殖現場での体験から「当たり前のようにいただいていた食べ物が、当たり前ではなかったと知った。とにかくおいしいものを届けたい、という生産者の思いに感銘を受けた」と話した。

支援対象の生産者も登壇した。みやざき農園の宮嵜恵介氏は「『おいしい』と言ってもらえることが生産者の活力になる」と語り、北三陸ファクトリーの眞下美紀子氏は「食文化を豊かにしていきたい」と意気込みを見せた。
「力強いピラーにしたい」
発表会後、今村氏はSB Japan Newsの取材に応じ、一番搾りACTIONの位置付けについて「酒類事業からCSV経営を力強く進めていきたい。ビールと食という普遍的なテーマに、フラッグシップの一番搾りが継続的に取り組む意義は非常に大きい。キリングループのCSVにおける、力強い活動の柱の一つ、ピラーとして取り組む」と語った。
また、同社の調査でビール購入時に「社会貢献」を重視する消費者が増えている点に触れ、「社会貢献アクションがブランドを選ぶ新たな選択軸になっている」と指摘。一番搾りACTIONの期間については「覚悟を持って未来に向けて続ける」と強調した。「企業が何をしようとしているか、全て透けて見える時代。その場だけ良いことを言っても見抜かれる」とも述べ、長期的なコミットメントこそが信頼につながるとの認識を示した。
食の持続可能性がビールの前提
一番搾りACTIONは、日常的な購買行動を生産者支援に直結させ、生産者の挑戦を可視化して消費者とつなぐ仕組みだ。寄付にとどまらず消費者・企業・生産者の三者をつなぐ設計は、CSV経営の実践として注目に値する。
おいしい食があってこそのビール。生産者や食材が持続可能でなければ、ビール産業自体も持続できない。一番搾りACTIONは、その問いに対する同社の回答と言えるだろう。旗艦ブランドを通じた長期的なコミットメントが、どこまで生産現場の課題解決につながるか。その実効性が問われるのはこれからだ。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。







