
プラスチック汚染問題の解決に向け自主的なコミットメントを掲げる「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」に参画する、キリンやサントリーなど有志企業8社が10月1日、環境相と経産相に対し、高度な資源循環を推進するための共同提言を行った。日本国内でのプラスチック容器包装のリユースや水平リサイクルを加速させるため、実行する企業に経済的なインセンティブを付与するなど、公益的な観点に基づく国の制度設計を通じて、市場の変容を後押しする必要性を訴えている。
「努力する企業が報われる仕組み」に
共同提言を行ったのは、ウーバー イーツ ジャパン、キリンホールディングス、サントリーホールディングス、日本航空、ニッスイ、ネスレ日本、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの8社。

いずれも、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニア型経済から、サーキュラーエコノミーへの転換を主導する立場の企業として、世界自然保護基金(WWF)ジャパンが事務局を務める「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」に名を連ねる。 今回の提言は、国連による「国際プラスチック条約」の策定交渉が行き詰まる中、日本においては既存の政策に経済的インセンティブを組み込み、「努力する企業が報われる仕組み」を制度化すべきだ、としてまとめたものだ。
具体的には、容器包装リサイクル法(容リ法)に加え、プラスチック資源循環促進法や資源循環高度化法などで推進されている、同種の容器包装への水平リサイクルや、より高品質な用途への再生材の利用、リユースの拡大といった「高度な資源循環」を実行し、一定の基準に達した事業者(企業)に、経済的なインセンティブを増やすとともに、手続き上のコストを軽減する制度を構築するよう提案している。
例えば、容リ法に基づいて自主回収による高度な資源循環を行った事業者に対し、「再商品化」にかかる費用の控除を拡充するといった形で、「ボーナス・マルス」の仕組みを導入することを挙げた。 ボーナス・マルスとは、成果に応じて、ボーナス(インセンティブや報酬)と、マルス(ディスインセンティブや課金等)を組み合わせる考え方で、欧州の環境政策に見られる。
WWFジャパンによると、現行の容リ法で自主回収を行う事業者は、再商品化の費用に加えて収集費用も負担しなければならず、「高度な資源循環に積極的に取り組む明確なメリットはない」のが実情だ。今回の提言はそうした制度の問題点を是正し、プラスチック汚染問題の解決に先行して取り組む企業にインセンティブを与えることで、全体の底上げを促す狙いがある。
「社会全体で適切なコスト負担」が不可欠
さらに提言書は、サーキュラーエコノミーの構築に向け、消費者の購買行動を変容させるために「社会全体で適切にコスト負担することも不可欠だ」と指摘。回収や再資源化のコストを、メーカーを中心とする企業や自治体だけでなく、消費者を含めた全てのステークホルダーで分担する制度設計の必要性にも言及している。
こうした発想の背景には、EUで2025年2月に発効した包装・包装廃棄物規則(PPWR)や各国のデポジット制度のように、海外でも高度な資源循環を求める制度が広がっていることがある。共同提言の文書からは、日本においてもそうした流れと同様に、リユースやリサイクルの仕組みを公共のルールとして強化し、企業の自主努力を制度的に後押しする姿勢を抜きにしては、高度な資源循環はこれ以上進められないという危機感が伝わる。
提言に際して、キリンホールディングス常務執行役員の藤川宏氏は、同社が国内で製造するペットボトルのリサイクル樹脂使用率が2022年末の8.3%から2024年末には36%に向上したことを示した上で、「(プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025の)参画企業間で情報を共有する中で、企業の環境対応には共通する構造的な課題があることが分かってきた。コストだけではなく、消費者の行動変容や制度整備が循環促進の鍵だ」とコメントしている。
サーキュラーエコノミーの構築に向けて社会的コストを分担するとはどういうことか――。WWFジャパン 自然保護室 サーキュラーエコノミー・マネージャー 兼 プラスチック政策マネージャーの三沢行弘氏は、サステナブル・ブランド ジャパンの取材に対し、「日本の資源循環の大きな問題が、質の高いリサイクルシステムがビジネスとして成立しないこと、資源が国外に流れていることにある」と指摘。
ペットボトルを例に、「消費者が分別せずに捨ててもマイナスのインセンティブがない」「回収者にとっては国外に売る方が経済的に有利」「飲料業界ではリサイクル樹脂のコストを価格転嫁すると買ってもらえない」といった構造的問題を挙げ、「こうした複数のプレイヤーの判断に影響を与えるための、制度としてのインセンティブが不可欠だ」と強調している。
廣末 智子(ひろすえ・ともこ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。