
フードロスの削減は、環境負荷の軽減だけでなく、廃棄コストの削減で企業の収益改善にもつながる重要な経営課題だ。そうした中、まだおいしく食べられるにも関わらず、売れ残る可能性のある食品を割引価格で販売するデンマーク発のフードロス削減アプリ「Too Good To Go」は、今年1月の日本でのサービス開始から約半年で国内登録ユーザーが約60万人(7月13日時点)に達した。なぜアジア初上陸の日本で急速な広がりを見せているのか。日本法人Too Good To Go Japanの大尾嘉宏人代表取締役に、日本市場が選ばれた理由や、サステナビリティと経済合理性を両立する仕組みについて聞いた。
Too Good To Go Japan 代表取締役
1994年に凸版印刷(現・TOPPANホールディングス)に入社。1999年に米国西海岸に駐在し、戦略的投資および提携案件を担当。2007年に楽天(現・楽天グループ)に転職後、国内外の子会社におけるPMIをはじめ、楽天グループ執行役員や楽天モバイル常務執行役員を歴任。2020年にはアゴダに参画し、日本法人の代表取締役および北アジア地区統括アソシエイト・バイスプレジデントとして、日本・韓国の事業を管轄。2025年7月より現職。
売れ残り食品を50%オフで販売
――まず「Too Good To Go」のサービス内容について教えてください。
その日に売れ残る可能性があるものの、まだ十分おいしく食べられる食品を店舗がアプリに出品し、ユーザーが予約・決済して、指定された時間に店舗で受け取るサービスです。ベーカリーやドーナツ店、お惣菜店、スーパー、飲食店など幅広い業態に広がっています。
特徴は2つあります。1つ目は、原則として通常価格の50%オフで購入できること。もう1つは「サプライズバッグ」という仕組みです。例えばパン屋なら、どんなパンが入っているかは受け取るまで分かりませんが、「パンの詰め合わせ」といった形で販売されます。店舗は販売状況に応じて柔軟に内容を決められ、利用者は開けるまでのワクワク感を楽しめます。

――2016年にデンマークでサービスが開始されたとのことですが、創業の背景を教えてください。
創業メンバーがホテルで食事をしていた際、ビュッフェの料理が大量に廃棄される様子を目にし、「これはもったいない。何とかできないか」と考えたことがきっかけです。そこから欧州の主要国、北米、オセアニアへ広がり、今年1月にアジア初進出の国として日本でサービスを開始しました。現在は20カ国で展開し、世界の登録ユーザーは1億2000万人以上、加盟パートナー企業は20万を超えています。
世界では毎年、食品の40%以上が廃棄され、それに起因する温室効果ガスの排出量は人為的排出量の約10%を占めるとされています。私たちは累計6億食以上のフードロス削減に貢献しており、世界的な環境・社会課題であるフードロス問題に真正面から取り組んでいます。
――サービス発祥の地の北欧はサステナビリティへの意識が高い印象があります。
北欧に限らず、欧州全体に共通する傾向だと思います。日本では「サステナビリティを意識しましょう」などと呼びかけることが多いですが、欧州ではそうした考え方が特別ではなく、普通の価値観として定着していると感じます。
日本市場で急速に広がった理由

――アジア初進出先として日本を選んだ理由を教えてください。
理由は3つあります。1つ目は、「もったいない」という価値観を持つ日本の文化です。Too Good To Goでは、店舗は廃棄していた商品を収益化でき、ユーザーはお得に購入できます。そして、フードロスが減ることで環境にも貢献できる。この「三方よし」のビジネスモデルは、「もったいない」精神と親和性が高いと感じています。
2つ目は、日本政府や自治体、企業がフードロス削減に積極的に取り組み始めたことです。事業系食品ロスを2030年度までに2000年度比で50%削減するという政府目標は、2020年で既に達成しています。納品・販売・消費の各期間を均等に分ける日本の商習慣「3分の1ルール」では、まだおいしく食べられる食品を廃棄せざるを得ない場合も多いため、ルールを「2分の1」に緩和する議論も始まっています。
3つ目は、市場規模です。日本は外食産業、小売業ともにマーケット規模が大きく、フードロス削減のインパクトも大きくなるという見立てでした。
――サービス開始から1週間で登録ユーザー数が25万人を超えたそうですね。この反響は想定していましたか。
想像をはるかに超える反響で、App Storeの総合ランキングでも1位になりました。約3カ月半で50万人を突破し、いまは約60万人に上ります。デンマークの本社も他国を上回る反響にとても驚いていました。大きな広告投資はしておらず、プレスリリースやメディア、SNSでの口コミを通じて広がりました。フードロスへの関心やインフレによる節約思考など、時代にマッチした部分はあると思います。
海外で実績を重ねる中でアプリ設計が洗練され、管理画面はとても使い勝手が良く、利用可能店舗も順調に増えています。スタート時は「クリスピー・クリーム・ドーナツ」「ファミリーマート」「NewDays」など、東京の新宿・渋谷・目黒エリアを中心とした約80店舗でしたが、6月からは埼玉、神奈川、千葉を含めた1都3県に提供エリアを順次拡大しています。
――日本市場向けに工夫した点はありますか。
日本は駅を中心に生活圏が形成されているので、駅名を指定しての店舗検索を導入しました。もう一つは、日本語の表現です。英語版では購入後に「You are a hero!(あなたはヒーローです!)」というメッセージが表示されますが、日本だと少し大げさに感じるので、「すてきです!」という表現にしました。「お得だから買った」という行動の先に、「結果として地球にも良いことをした」という小さな喜びを感じてもらえればいいなと思っています。ブランドメッセージの「おいしい選択。」は、Delicious(おいしい)、Delightful(うれしい)、beneficial(有益)という意味を表現し、「意識高い系」といった堅苦しいイメージではなく、心理的ハードルが下がるような言葉にしました。
「普通の経済活動」が社会貢献になる

――フードロス削減の成果はいかがですか。
1都3県の53店舗で導入しているクリスピー・クリーム・ドーナツでは、廃棄量を約30%削減できました。NewDaysでは余ったパンをサプライズバッグで出品してもらい、その販売率が99.6%に達しました。店舗側からは「廃棄コストが減り、売り上げにつながる」という評価をいただいています。
――ビジネスや暮らしにメリットのある取り組みが、フードロス削減につながっていますね。
消費者や事業者が「サステナブルな取り組みだから使う」のではなく、「普通の経済活動」が、そのまま社会貢献につながる仕組みになっていることが最大の特徴です。環境配慮型の商品は、「環境には良いけれど価格が高い」といったトレードオフが生まれがちです。しかしToo Good To Goでは、消費者は「お得だから買う」。店舗は「捨てるくらいなら販売して収益化したい」と考える。その経済合理性のある行動が、結果としてフードロス削減につながっています。
――先ほど、欧州ではサステナブルな考え方が「普通の価値観」とおっしゃっていましたが、いかに取り組みを日常にするかは継続のポイントだと感じます。
おっしゃるように、日本でも欧州のように、環境への配慮が特別な選択ではなく、日常生活の中で自然と選ばれる社会になってほしいと願っています。その実現に貢献できたら、このサービスは大成功だと思います。
誰かの食卓に届く世界を目指して
――大尾嘉さんは多様な業態に関わってきていますが、なぜToo Good To Goの事業に参画したのでしょうか。
これまで新しいサービスを日本に広げたり、認知度の低い事業を成長させたりする仕事に携わってきました。そのため、ITの力で人々の生活を便利にし、新しい価値を生み出すことが私のライフワークになっています。そんな中でToo Good To Goに出合い、「これは面白い」と直感しました。日本人にとってサステナビリティな行動を当たり前にする可能性を秘めており、経済合理性も高いため、日本の皆さんを元気にできるかもしれない。地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの削減で、日本の夏がちょっとでも涼しくなるかもしれないという期待感もあります。
――最後に、今後の展望をお願いします。
時間がかかるとは思いますが、まずは関東でサービスを広げ、先々は関西など他の地域でも展開していきたいです。少しでもフードロスが発生している場所があれば、どこでも対応していきたいという思いです。おいしい食べ物が捨てられてしまうのではなく、きちんと誰かの食卓に届けられる世界を目指していきます。
長嶺 真輝(ながみね・まき)
フリーランス記者
地方紙記者として10年間、地域の経済や政治、スポーツを取材。現在はweb媒体や雑誌への寄稿、書籍の執筆などを手掛ける。取材・文を担当した「日本バスケの革命と言われた男」(双葉社)が沖縄書店大賞優秀賞を受賞。













