
サステナブル・ブランド国際会議 2026(SB’26)サンディエゴが6月8〜10日、米国で開かれた。テーマは「ALL RISE(ともに立ち上がる)」。20周年の節目に当たる今年、サステナビリティの歩みは「踊り場」にあるとの認識が共有される一方、20年で着実に積み上げてきた成果への確信も語られた。現地参加したSB国際会議アカデミック・プロデューサー青木茂樹氏(駒澤大学教授)の印象に残った3つのセッションから、その現在地を探る。
テーマ「ALL RISE」に込めた意思
テーマの「ALL RISE」には、特定の誰かだけが成長するのではなく、人・社会・自然がともに豊かになる「グッド・グロース(良い成長)」を目指すという意思が込められている。個社の努力だけではシステムを変えられないとの認識から、業種やセクター、国境を越えた「コレクティブ・アクション(協働)」を提唱。
イノベーション、ブランド、サプライチェーン、パートナーシップなどあらゆる領域で協働を加速させることで、リスクを低減し、信頼を高め、新たな価値を創出する。20周年を迎えたSBのプログラムは、その考えのもとに設計された。
20年の歩みと「Both/And」の思想
プレナリー
プレナリーには、『Green to Gold』著者のアンドリュー・ウィンストン氏やP&GのCSO(最高サステナビリティ責任者)ヴァージニー・ヘリアス氏らが登壇した。
打ち出されたキーワードが「Both/And(両立)」だ。競争と協調、利益とパーパスという一見相反する概念を同時に追求する考え方である。サステナビリティが売上(トップライン)と利益(ボトムライン)の双方を向上させるとの認識が広く共有され、効率化によるコスト削減やブランド価値の向上、レジリエンスの強化がその根拠として示された。

イノベーション面では、クリーンテックの規模拡大に加え、衛星モニタリングによる違法漁業や強制労働の監視、バイオマイニングや代替プロテインなど新技術の進展が報告された。一方で、専門用語の多用によりステークホルダーに響くメッセージを発信できていなかったとの反省も共有され、共感を呼ぶナラティブやストーリーテリングの再構築が課題に挙がった。
15年にわたりSBコミュニティに関わってきたP&Gのヘリアス氏がこの場でCSO退任を発表し、後任が壇上に迎えられると、会場はスタンディングオベーションに包まれた。SB創設者のコーアン・スカジニア氏が築いてきたコミュニティの絆の深さを象徴する場面だった、と青木氏は振り返る。
川上から川下まで再生型農業を拡大
セッション「Better Together: Scaling Regenerative Agriculture Through Value Chain Collaboration」
穀物メジャーのADM、食品メーカーのゼネラル・ミルズ、小売のウォルマート、そしてミズーリ州の農家が登壇。バリューチェーン全体での再生型農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー)のスケールアップなどが議論された。
ADMは約200人の集荷担当者を通じて農家に再生型農法を提案し、技術サービスプロバイダーが地域の気候や土壌に合わせた営農指導を行う。表土流出量や温室効果ガス排出量、生物多様性などの指標で成果を管理する仕組みだ。約6000エーカー(約2400ヘクタール)で15年間、不耕起栽培とカバークロップ(被覆作物)を実践してきた農家からは、燃料費や労働コストの削減効果が報告された一方、導入の最大の障壁は「心理的な抵抗」だとの声もあった。

ウォルマートは2040年までのカーボンニュートラルを掲げ、排出削減プログラム「プロジェクト・ギガトン」を推進。さらに5000万エーカー(北海道の約2.4倍に相当)の陸地と、100万平方マイル(北海道の約31倍に相当)の海洋の保護・回復を打ち出す。ゼネラル・ミルズとウォルマートはADMを通じて共同出資し、農家へのインセンティブやプログラム運営を支えているという。青木氏は「以前は再生型農業がどこまで広がるか見えなかったが、今回は本気で取り組んでいると実感した。日本では考えられない規模の垂直連携だ」と驚いていた。
消費者の関心は揺らいでいない
セッション「Research Insights Series: Consumer Preferences and Behaviors」
消費者インサイトをテーマとしたセッションには、NYUスターン経営大学院サステナブル・ビジネスセンターのエイミー・スコズラス・コール所長らが登壇した。政治的な逆風下でも消費者のサステナビリティへの関心はデータ上、低下していないことが報告された。むしろ、サステナビリティについて語らないブランドに対しては「何か隠しているのではないか」という疑念が生じ、購買で避けられる傾向にあるという。企業側のグリーン・ハッシング(沈黙)が裏目に出ている格好だ。

「グッドライフ」の再定義も注目された。物的豊かさの追求から、精神的な安定や本質的な価値、地球との調和を重視する方向へと消費者の価値観がシフトしている。
サステナビリティ部門とマーケティング部門の社内対話の断絶も課題に取り上げられた。サステナビリティを既存ブランドへの「後付け」ではなく、ブランドの中核に据えた上でマーケティングがどう伝えるかという発想の転換が求められている。その成果を売上データで実証し、積み上げていくことの重要性も強調された。
青木氏は「企業のサステナビリティの取り組みが踊り場と言われながらも、生活者からの企業へのサステナビリティの期待はますます上がっているのが実態だ。企業の積極的なコミュニケーションと取り組みの透明性、そして社内外の連携でこれを示していく戦略性が大事だ」と述べた。
学び合う場としてのSBの意義
プレナリーでは、グローバルなピアラーニング(相互学習)の場としてのSBの役割があらためて確認された。2011年の初参加以来、15年にわたりSBに通い続けてきた青木氏は、今年の会場に「初めて参加した頃に近い空気を感じた」という。逆風の中でも集まったのは、サステナビリティに本気で向き合う人々だった。いわば原点回帰とも言える光景だ。「各企業がどんな課題をどう乗り越えたのか。それを率直に議論し、連携を模索する場の重要性は増している」と青木氏は話す。
20年かけて培われたコミュニティの結び付きは、停滞期にあっても前に進む力となっている。利益とパーパスの両立、バリューチェーン全体での連携、消費者との信頼構築。いずれも日本企業にとって共通の課題だ。来年2月の「サステナブル・ブランド国際会議 2027 東京・丸の内」で、その議論がさらに深まることを期待したい。

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。








