
異常気象はその激しさも頻度も年々増しており、各方面に甚大な損害を与えている。企業もまた財務面で大きな痛手を負い、今後はいっそう深刻な影響を受けることが予測されている。しかし、いまだもって気候リスクを狭い視野でしか捉えていないのが現状だ。
非営利団体CDPが先ごろ発表した報告書によると、企業はより広い観点に立ち、売上や投資、調達、保険など部門を横断した経営課題として気候リスクをすぐさま見直す必要があるようだ。(翻訳・編集=遠藤康子)
異常気象の影響は多方面に
気候変動の影響を立証するデータは着々と増えている。企業は何年も前から気候変動のあおりを受けており、財務面への打撃はもはや見過ごせないレベルに達した。企業の財務業績や保険市場、インフラ計画、サプライチェーン、投資判断には、異常気象がいかに深刻な影響をもたらすかが如実に表れている。
組織による環境への取り組みを評価する国際的な非営利団体CDPは2026年5月、「Disconnected Defenses: Extreme Weather Risk Across Corporates, Cities and Financial Systems(連携の取れていない備え:企業・都市・金融システムを脅かす異常気象リスク)」と題した報告書を発表した。異常気象が企業や行政、保険会社、金融機関に与える影響を分析し、多くの経営者がすでに目の当たりにしている問題を数字で裏付けた内容だ。洪水や暴風、熱波、干ばつ、豪雨は、生産の中断、物流の遅れ、資産の損壊、保険約款の改定といった混乱を招いたり、資金調達のハードルを上げたりする可能性があると指摘している。
同報告書によると、CDPに情報を開示した企業が異常気象で2025年に被った1年間の財務影響は、総額で29億ドル(約4650億円)に達した。最大の要因は豪雨で、実体経済部門と金融部門の企業を合わせた損失額は15億ドル(約2400億円)だった。
こうした影響の要因が事業の1カ所に集中しているケースはめったにない。たとえ設備そのものが無事でも、企業は生産の落ち込みや納品の遅れ、コストの上昇、資産の損壊、保険料の引き上げという形でそのしわ寄せを受けることになる。洪水で倉庫が被害を受けたり、暴風で生産が止まったり、干ばつで水資源が手に入りにくくなったりするだろう。熱波でエネルギー需要が増し、生産性が落ちる場合もある。
異常気象をきっかけにした影響は、事業運営やコスト、資産、人員の面に表れてくる。
すぐ目の前に迫る気候リスク
報告書によれば、CDPに2025年1年間の情報を開示した企業1万1261社のうち、異常気象を財務的な重要リスクに位置付けているのはわずか3890社だった。そうした企業はそれぞれ独自に短・中・長期の計画を立てて、異常気象が財務に与える影響規模を予測しており、その総額は7140億ドル(約115兆円)に上った。最大要因として想定されているのは洪水で、その規模はおよそ3890億ドル(約62兆9000億円)。次いで、ハリケーンや台風が1260億ドル(約20兆3700億円)、豪雨が820億ドル(約13兆2600億円)、干ばつが520億ドル(約8兆4000億円)となっている。
異常気象の発生予測時期も注目に値する。企業はリスクとなり得る異常気象を報告しており、そのうちの48%は、今後2年以内という近い将来の発生が想定されているのだ。2年は、多数の企業が予算の策定や保険の更新、資本支出、調達計画、事業継続の見直しの時間枠として用いる期間と一致する。異常気象で物理的なリスクが生じるのは、そう遠くない未来だと考えているのだ。
ところが、企業が気候リスクを評価する際に想定する範囲となると、得てして非常に狭い。自社の資産がハザードマップのどこに位置しているのかを把握する程度で、利益率や契約、サプライヤー、物流、保険、投資判断まで踏み込むことはあまりない。
企業が真に問いかけるべき問い
企業が気候リスクを評価する際に目を向けるべきは、異常気象が襲った後に何が待ち受けているかだ。生産スピードが落ちたら売上にどう響くか。物流ルートが途絶えたらどんな追加コストが生じるか。サプライヤーからの納品が止まったら在庫はどうなるか。保険の補償範囲が縮小されたら資金調達の面でどんな影響が出るか。周辺インフラが不安定になったらどんな支障が生じるか――こうしたことを想定しなくてはならない。
CDPは報告書で、財務的な影響の具体例を挙げている。例えば、売上の減少、生産能力の低下、業務の混乱、コストの上昇、資産の減損、サプライヤー関連の問題、保険料の引き上げ、資金調達の制約などが考えられるという。これらを踏まえれば、企業が既存の経営判断に気候リスクを反映させなくてはならないのは明らかだ。立地戦略や調達、水管理、物流、保険、資本配分はどれもみな、同一の議論で扱わなくてはならない。
社内管理がしっかりしていても、事業を取り巻く周辺のシステムが機能不全に陥れば、重大な影響を被りかねない。緊急時の対応手順や事業の継続計画が策定されていれば、確かに役立つだろう。しかし、リスクは他にも、道路の浸水や停電、サプライヤーの不在、公共インフラの損壊、保険補償額の改定といった形で入り込んでくる。気候リスクに対する脆弱(ぜいじゃく)さは、自社設備だけで決まるものではない。事業を展開している地域のインフラや物流網、緊急サービス、保険市場、現地の対応力にも左右される。
従来の想定ではもはや不十分
リスクのありかを確認したら、次は、成長計画や投資計画、保険の補償範囲、運営予算、事業継続計画などの土台となった判断が混乱下でも持ちこたえられるかどうかを検証しなくてはならない。多くの企業は相変わらず、異常気象が起きてもインフラは通常通りに機能し、サプライヤーはすぐに回復し、水とエネルギーは引き続き確保でき、保険は信頼できる後ろ盾の役目を果たすだろうと考えている。しかし、近年は異常気象の激しさや頻度が増し、そうした前提は揺らいでいる。
従来の前提を洗い出して視覚化すれば、適応の意味するところが変わるし、柔軟性が必要なのはどこか、どの依存関係が脆弱か、備えが足りないのはどこか、後で復旧するより事前に投資した方が安く済むのはどこかを見極められるようになる。それにはまず、責任の所在を明らかにすることが不可欠だ。データは誰が持っているのか、リスク状況は誰が把握しているか、対応を指揮するのは誰か、投資を承認するのは誰か、気候シナリオが事業課題になった時に説明責任を負うのは誰か――こうしたことをはっきりさせなくてはならない。
企業のサステナビリティ部門にできるのは点と点を結ぶことであり、企業のレジリエンスを左右する意思決定の場は他にある。財務、リスク管理、事業運営、調達、保険、内部監査、戦略、取締役会などの部門がそれぞれ、気候の物理的リスクによって自らの担う戦略や計画がどう影響を受けるのか、把握する必要がある。
レジリエンスは善意からは生まれない。財務に影響が及ぶ前に真のリスクを特定し、全社的な対応策を事前に講じておくことで初めて手に入るものなのだ。










