• 公開日:2026.06.05
子どもの権利から考えるこれからのビジネス――企業が知るべき視点
【子どもの権利とビジネス原則】第2回「排除」から「是正」へ 企業が取り組むべき児童労働対策の最前線
  • 堀江 由美子

本連載第1回で紹介した「子どもの権利とビジネス原則」は、原則2で「すべての企業活動および取引関係において児童労働の撤廃に寄与する」と定めている。

国際労働機関(ILO)とユニセフの2025年報告書によると、世界の児童労働の状況は、近年改善傾向にあるものの、5~17歳の子どもの8%に相当する約1億3800万人の子どもが依然として児童労働に従事しているとされ、そのうち約5400万人は危険で有害な労働に従事している。

特に深刻なのはサハラ以南アフリカで、全体の63%を占め、次に中央・南アジアが12.4%、東・東南アジアと北アフリカ・西アジアがそれぞれ8.9%と続く。産業別では、カカオ、コーヒー、パーム油などの農業や水産業が61%、家事労働や市場での販売などサービス業が27%、鉱物採掘などの鉱業や建設業、衣料・靴といった製造業などの工業が13%で、子どもたちが働く産業は多岐にわたる。

児童労働の背景には、貧困、教育機会の不足、紛争や自然災害、社会保障や子どもの保護制度の弱さ、女子は教育を受けなくて良いといった差別的な考え方、親が教育を受けていないことによる無関心、児童労働を当然視する地域社会など、複合的な要因が存在する。加えて、消費者がより安価な商品を求めることで価格競争が起こり、開発途上国の生産者が低賃金の劣悪な環境で働かされる構造も児童労働の根本的な原因の一つだ。

「解雇して終わり」では子どもを守れない

児童労働は、子どもの心身の健やかな成長と発達を阻害し、教育の機会を奪う深刻な子どもの権利の侵害であり、企業にはサプライチェーン上で児童労働を撤廃する責任が強く求められる。従来、企業の児童労働対策といえば、「監査で発見し、排除する」ことが中心だったが、近年では、解雇するだけでは子どもたちがより危険な労働や搾取に追い込まれるリスクがあるため、児童労働が生じる根本的な原因や構造に目を向け、サプライチェーン全体を通じて企業が責任を持つという考え方に変化している。

子どもの権利とビジネス原則の原則2でも、以下のような点が重視される。

1.サプライチェーン全体への責任

企業は取引関係全体で児童労働の予防を徹底し、是正に対応する責任がある。子どもの保護の観点から、供給先・請負業者・下請業者などに対して、子どもの権利の侵害につながるような圧力をかけない。

2.排除だけではない、子どもの保護と支援

児童労働が見つかった場合には、単に職場から排除するのではなく、子どもがさらなるリスクに陥らないよう保護し、教育復帰、家族の収入向上、地域支援、安全な移行など、子どもの最善の利益に基づく是正と支援を行う。

3.若年労働者への配慮

合法的に働く若年労働者については、安全、健康、教育継続、適切な労働時間を保障する。

4.協働の重視

児童労働の根本的な要因の持続可能な解決のため、同業者、地域社会、NGO、労働組合、政府、子どもたちと協力して、業界レベル、地域レベル、国レベル、国際レベルの取り組みで協働する。

これらの点は、今年2月にモロッコで開催された第6回児童労働撤廃世界会議の成果文書においても、児童労働の撤廃と予防を強化するための策として国際社会に呼びかけられている。特に、児童労働を発生させる根本原因の是正のためには、現地行政との連携と企業の取り組みを掛け合わせてアプローチすることの重要性が強調された。

発見から72時間で現地へ

こうした国際潮流を実務レベルで推進している組織の一つが、「子どもの権利とビジネスセンター(The Centre for Child Rights and Business)」である。2010年にセーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンが中国で設立した社会企業で、現在30カ国以上で活動し、これまでに100社以上の企業に対しグローバル・サプライチェーンで子どもの権利を守るためのサービス提供を行っている。

児童労働の関連では、児童労働予防の方針策定、人権デューデリジェンス、サプライヤー研修、是正支援などを提供している。特に特徴的なのが「児童労働是正プログラム」で、児童労働が発見された際には72時間以内に現地確認を行い、単に子どもを解雇するのではなく、子ども本人、家族、企業、学校などをつなぎ、連携しながら、教育や生活支援、月次フォローアップなどで子どもの安全な将来への移行を支援する。

コバルト鉱山での過酷な労働により、手に深い傷が残るコンゴ民主共和国の少年(©Save the Children)

例えばバングラデシュの縫製産業では、15歳の少年の児童労働のケースが確認された後、職業訓練や教育支援を受け、最終的には就労が認められる年齢に達した後に正式雇用へ移行している。またコンゴ民主共和国では、14歳の少女が是正プログラムを通じて学校へ復帰し、「子どもとして普通の生活を送れるようになった」と語っている。貧困や地域環境などの構造的要因に向き合いながら、教育継続を支援の中心に据えている点が特徴となる。

日本の「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」

日本における代表的なマルチステークホルダー型の取り組みとして紹介したいのが「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」だ。持続可能なカカオ産業の実現に向けた産官学民の協働の場として国際協力機構(JICA)が運営しており、業界団体、製菓企業、商社、コンサルティング企業、NGO、研究機関等の約80団体が参加している。

同プラットフォームでは、児童労働、農家の貧困、森林破壊などの課題をサプライチェーン全体の問題として捉え、解決に向けた共創・協働の場を目指している。会員の有志が立ち上げた児童労働撤廃分科会では、調達・リスク調査・是正措置・生産地支援・情報公開等の各セクターに期待される具体的な行動を示す「児童労働撤廃に向けたセクター別アクション」を策定し、年次レポートを通じて取り組みの進捗を公開している。

日本企業に求められる4つの転換

子どもの権利とビジネス原則の原則2は、子どもたちが働かなくても保護・発達・教育を享受できる環境を、企業活動全体を通じて実現することを求める原則だ。

そのためには、日本の企業には以下のような取り組みのさらなる強化が期待される。

  • 監査中心主義からの転換――監査だけでは非公式労働や搾取は把握できないことがあり、地域社会やNGOとの連携が不可欠となる。

  • 「是正」の重視――児童労働の発見時には、教育復帰、家族支援、地域支援など、子どもの最善の利益に基づく対応が求められる。

  • 調達慣行の見直し――過度な価格圧力や短納期は、サプライチェーン下層での児童労働を誘発し得る。責任ある購買や生活所得への配慮が重要となる。

  • マルチステークホルダーでの協働――企業単独ではなく、政府、NGO、地域社会、国際機関、子ども自身との協働が求められる。

紛争や物価高騰といった現在の経済・社会の不安定化は、サプライチェーンの不透明性、家計の悪化、教育機会の喪失を招き、児童労働のリスクを急速に高める要因となっている。企業にはサプライチェーン全体での対応とともに、「子どもの権利をどう実現するか」という観点から児童労働を捉え、その根本的な要因の解決への取り組みが求められている。

※6月12日はILOが制定した「児童労働反対世界デー」です。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンも会員となる児童労働ネットワーク(CL-Net)の「ストップ!児童労働キャンペーン」にぜひご参加ください!

<参照サイト>

・子どもの権利とビジネスセンター(The Centre for Child Rights and Business)
https://www.childrights-business.org/

・子どもの権利とビジネスセンターの「児童労働是正プログラム」
https://childrights-business.org/ChildLabourRemediation

・開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム
https://www.jica.go.jp/activities/issues/governance/platform/

・開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォームの「児童労働撤廃に向けたセクター別アクション」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/governance/platform/child_labor.html

・開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォームの年次レポート(2024-2025年)
https://www.jica.go.jp/activities/issues/governance/platform/__icsFiles/afieldfile/2026/05/14/child_labour_elimination_report_2025.pdf
written by

堀江 由美子

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 部長

共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGs、子どもの権利とビジネスをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言や社会啓発に関わる。

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