
資源循環をデザインするスタートアップ、RECOTECH(レコテック)が開発・提供する資源循環データプラットフォーム「pool(プール)」が、横浜市の約1200施設に4月1日から本格導入された。2024年にフル機能で初導入した玉川髙島屋S.C.(東京都世田谷区)に続く大型実装で、試験導入時には施設職員のデータ登録・確認業務の時間を従来比で約7割削減する成果を得たという。「世代間責任を果たす」をミッションに掲げる同社の野崎衛・代表取締役CEOに、サービスの強みや循環型社会に向けた展望を聞いた。
「インテル入ってる」を目指す資源循環の裏方
——まずレコテックという会社と、サービス「pool」について教えてください。
2007年の創業なので、スタートアップと呼ぶには少し古いかもしれません。創業当時から「pool」の構想は持っていたのですが、当時は時代背景や力不足もあって、すぐにマネタイズすることは難しかった。転機は2019年です。東京オリンピックに少し関わらせていただいたことをきっかけに、新たな資源循環のレガシーが必要だと痛感しました。「いよいよ機が来たな」と。2020年に外部資本も入れて本格的な開発フェーズに入り、現在はpoolの普及が事業の根幹になっています。
ベンチマークにしているのは、かつてよく耳にした「インテル入ってる」(インテルが1990年代から展開した広告キャンペーンのフレーズ)のイメージです。誰も意識しないけれど、生活の裏側でpoolが動いている。下水道のように地面の中にあって、なくなったら困るインフラ。そういう存在を目指しています。
「ごみの見える化」から始まる資源循環
——poolの具体的な機能について教えてください。廃棄物管理というと難しく聞こえますが、現場では何がどう変わるのでしょうか。
poolは、施設や店舗から出る廃棄物のデータを一元管理するクラウドサービスです。「資源循環の始まりは、ごみの見える化から」というのがわれわれの考え方で、まず捨てているものを正確に把握しないことには何も始まらない。
現場のオペレーションはとてもシンプルです。タブレットやスマートフォンで品目を選んで、重量を登録する。わずか2〜3ステップで終わります。オプションで計量器やICカードリーダー、ラベルプリンタなどと連携することもできますので、300テナント以上が入る大型商業施設から小規模な店舗まで対応できます。

——登録されたデータはどのように活用されるのですか。
リアルタイムでダッシュボードに反映されます。廃棄物の総排出量、リサイクル率、CO2排出量、処理方法や品目の内訳といった指標がひと目でわかる。CSVやグラフの出力もできるので、環境報告書を作るためにデータをかき集める作業が要らなくなります。
テナントごとに専用アカウントを付与できるため、各店舗が自分のダッシュボードで廃棄コストやリサイクル率を確認できます。同業種の中での順位も表示されるので、「うちは上位20パーセントに入ってる」となると分別のモチベーションが上がるんですよね。また、電子マニフェスト管理システムのJWNETとも接続しており、マニフェストの発行が自動化され、コンプライアンスの確保にもつながります。
われわれは「資源価値の終わりを始まりに変える」と言っていますが、poolは単なる廃棄物管理ツールではなく、ごみを資源として循環させるためのデータ基盤です。見える化することで初めて、次にどんな手を打てばいいかが分かるようになる。それが出発点なんです。
「未来のペイン」をビジネスに変える
——「世代間責任を果たす」というミッションに込めた思いを教えてください。
私自身、学生時代から廃棄物に興味があったわけではなく、最先端のテクノロジーに憧れていた人間です。前職で廃棄物処理機械のメーカーに入り、バブル崩壊後の大量生産・大量消費の時代に、毎日ごみ置き場を回っていました。ごみがたくさん出るほど機械が売れるロジックに違和感を覚えたんですね。会社の成長と社会が良くなる方向が比例する仕組みを作らないと、モチベーションは続かない。

「世代間責任」と言うとき、未来の子どもたちのため、という「きれい事」だけではないんです。未来の人たちには会ったこともないし、信認を得たわけでもない。でも、選挙権もお金も持たない未来の人たちのバリューを今のバリューに「翻訳」することは、ものすごく頭を使う仕事です。金融機関からは「未来のペインはビジネスにならない」と言われがちですが、それを今の人がワクワクするビジネスに落とし込めるかが私たちの最大のチャレンジ。それを面白がれる人が、当社に集まっています。
——poolはサプライチェーン全体をデザインするとのこと。具体的な特徴は。
開発のコンセプトは「部分最適と全体最適を、サプライチェーン全体で見る」ことです。廃棄物業界の多くは、ごみ置き場という現場起点でシステムが作られています。でも集めた資源を最後に使うのはメーカーであり、彼らに「どんな材料、どんな情報があれば使えるか」という視点から逆算しないと、本当の循環は実現しません。
一方で、ごみ置き場の現場には、現場のペインがある。ここの「部分最適」と、メーカーから見た「全体最適」をマッチさせるのが私たちの提案です。海外を含めて部分最適のシステムは存在しますが、一気通貫でデザインされているのはpoolだけではないでしょうか。
玉川髙島屋で導入、作業時間7割減
——2024年11月、玉川髙島屋S.C.にフル機能で導入されました。
実は最初からpoolありきで提案したわけではありません。「持続可能なごみ置き場を作りたい」「テナントが選別に協力したくなる仕組みをつくりたい」というクライアント側のゴールがあり、それをブレイクダウンしていく中で「だからpoolが必要」となった。コンサルティングから入って実装に至ったのが正直なところです。

成果としては、ビル管理で廃棄物関連の作業時間が約7割減ったと聞いています。300以上のテナントの排出量データを手作業で集計していた従来の業務が、自動化されました。
——そして2026年4月からは、横浜市の約1200施設で本格導入されました。
日本最大の基礎自治体での採用は、相当なインパクトがあります。背景には、みなとみらい地区でのサーキュラリティ評価などのトライアルを通じて、横浜市の資源循環局の皆さんと信頼関係を築いてきた歴史があります。
横浜市の課題は、紙やExcelに分散した年間約40万件の廃棄物データ処理が、行政と回収業者の重い負担となっていたことです。サーキュラーエコノミーをやりたくても、エクストラの予算は組めない。であれば、まず本丸の業務をDXして既存のオペレーションコストの中から原資を捻出する。その先にサーキュラーシティを実装するという考え方が、双方で合致しました。

2025年12月から約200施設で実施した試験導入では、現場職員の業務時間が約7割削減されました。本番導入では、排出施設は入力負荷が最小化され、収集運搬事業者は照合作業が自動化、行政は事務効率化と資源動態の可視化が同時に実現する「3方良し」のオペレーションが構築されています。
大消費地を大供給地へ、設計事務所と連携
——今後、注力されるポイントを教えてください。
廃棄物分野では、デベロッパーや設計事務所といった「街を設計する側」との共創が重要だと考えています。20年前は新築ビルが完成した後に呼ばれて「ここで何とかしてくれ」と言われ、廃棄物置き場のスペースが全然足りないこともありました。先に捨てる方法を考えてから設計してほしい。最初にインフラをデザインしておかなければ、後で大変なことになります。
エリア単位でバルク(量)をまとめてこそ、メーカーが安定調達できる。トレーサビリティ情報を国のデータベースと連携させ、品質と保証の議論を突破する仕組みも今まさに進めています。3年から5年以内には、データ上で取り扱う資源量を大手廃棄物事業者と肩を並べる規模に成長させ、東南アジアを中心とする海外都市への展開も視野に入れています。
——最後にメッセージを。
構想期間が長かったですが、ここに来てどんどん実現しているという実感があります。横浜市をはじめ、自治体や国との接点も増えてきました。社会にインパクトを与えるビジネスの芽が、ようやく出てきたフェーズです。
経済成長と環境負荷をデカップリングする。そう口で言うのは簡単ですが、現実的にはとても難しい。それをテクノロジーの力で少しずつ可能にしていく。もうからないと言われ続けてきた環境分野で、しっかり利益を出しながら理想に近づいていく姿を示したい。それが、未来の人たちへの責任の果たし方だと思っています。

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。









