
「ビジネスと人権」は、今や責任ある企業として取り組まなければならないテーマとなっている。欧州ではビジネスと人権関連の法制化が進み、日本においても政府による行動計画改定やガイドライン策定の動きが進んでいる。ESG投資も急速に拡大しており、企業の人権尊重の責任はますます重視されるようになっている。
では、「子どもの人権」への対応はどうだろうか? 国内のエンタメ業界で若年層への性暴力などが明るみになり、大きな問題となったことは記憶に新しい。近年ではデジタル広告による子どもを巻き込むトラブルも多発している。しかし、「子どもの権利とビジネス」に関する企業の取り組みは、あまり進んでいるとは言えないのが実情だ。
セーブ・ザ・チルドレン、UNGC、ユニセフで作成
「子どもの権利」は、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」がその基盤となる。この条約では、成長の過程にあり、保護や配慮が必要な子ども特有の権利と共に、大人と同様に社会に参画できる権利の主体としての子どものさまざまな権利が規定されている。では、ビジネスと人権における子どもの権利は、どのように捉えるべきか。そのガイドラインとしてぜひ活用していただきたいのが、「子どもの権利とビジネス原則」である。
2011年にビジネスと人権の取り組みの指針となる国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が策定された後、セーブ・ザ・チルドレン、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、ユニセフの3者が2012年に策定したのが子どもの権利とビジネス原則であり、ビジネスが子どもの権利の尊重・推進に取り組むための包括的な枠組みとなる。
国の行動計画やGPIFも重視する国内の潮流
子どもの権利とビジネス原則は、国内でも徐々に認知や活用が広がってきている。例えば、2025年12月に発表された政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(改定版)」では、取り組むべき優先分野の一つに「子ども・若者」が含まれ、インターネット利用の低年齢化に伴うリスク拡大や性暴力の増加といった近年の課題が挙げられた上で、子どもの権利とビジネス原則への取り組みがその中心に位置付けられている。
またこども家庭庁は、今年に入って「こどもとともに成長する企業構想」を掲げ、いじめや不登校、自殺や幸福度の低さといった日本の子どもを取り巻く厳しい状況や少子化の課題を背景に、「こどもまんなか社会」に向けた企業の取り組みを後押しするとし、子どもの権利とビジネス原則などの企業への普及や評価への活用が検討されている。
さらに、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、子どもの権利とビジネス原則が指標の一つとして含まれるESG指数を採用している。子どもの権利への取り組みが、企業の評価にもつながる時代となっているのだ。
| 「子どもの権利とビジネス原則」(日本語版) |
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1. 子どもの権利を尊重する責任を果たし、子どもの権利の推進にコミットする 2. すべての企業活動および取引関係において児童労働の撤廃に寄与する 3. 若年労働者、子どもの親や世話をする人々に働きがいのある人間らしい仕事を提供する 4. すべての企業活動および施設等において、子どもの保護と安全を確保する 5. 製品とサービスの安全性を確保し、それらを通じて子どもの権利を推進するよう努める 6. 子どもの権利を尊重し、推進するようなマーケティングや広告活動を行う 7. 環境との関係および土地の取得・利用において、子どもの権利を尊重し、推進する 8. 安全対策において、子どもの権利を尊重し、推進する 9. 緊急事態により影響を受けた子どもの保護を支援する 10. 子どもの権利の保護と実現に向けた地域社会や政府の取り組みを補強する |
コアバリューに「子どもの権利の尊重・推進」
これら10の原則のうち、全ての土台となるのが、原則1の「すべての企業は、子どもの権利を尊重する責任を果たし、子どもの権利の推進にコミットする」である。これは、企業のコアバリューに子どもの権利の尊重・推進を位置付けるという原則で、企業活動のあらゆる側面で子どもの権利の侵害を回避し、子どもに負の影響をもたらさないこととともに、子どもたちの課題に向き合い、子どもの権利を推進していくことが求められる。
子どもの権利の尊重の責任を果たすために、まず企業は子どもの権利に関する方針・指針を策定し、それを対外的にも公表することが求められる。また人権デューデリジェンスを行う際に、「子ども」という切り口を入れて、企業活動がどのような影響を子どもの権利にもたらしているか、全社横断的にリスクを洗い出して評価し、取り組むべき課題を特定し、対応することが求められる。子どもの権利への負の影響が引き起こされている場合には、是正措置を取ることが求められるが、苦情対応の手続きなどが子どもやその家族、またその利害を代表する者にとってアクセスしやすいよう配慮されている必要がある。
さらに原則1では、ステークホルダーとしての子どもとのエンゲージメント、子どもの声や意見に耳を傾けること、また事業および対外的な活動の中で、子どもの権利を推進するための支援を行うことも求められる。そして子どもの権利や子どもの権利とビジネス原則に関連した良い実践例を、サプライヤーや取引先、同業者等の間で推進することも推奨される。

子どもとの直接的あるいは間接的な接点が生じる部門は、一企業の中でも総務・人事、企画、調達、マーケティング、あるいは海外拠点など、多岐にわたるだろう。上述したような全社的なプロセスを通して、各部門がそれぞれの業務における子どもへの影響に対する意識を高め、子どもの権利の尊重・推進のための取り組みを進めることが重要だ。子どもの権利を中核に位置付けることで、企業はさまざまな領域での対応や行動の変化を迫られるだろう。
子どもの権利尊重が企業の持続可能性につながる
今後の連載では、子どもの権利とビジネス原則のいくつかの原則を取り上げ、それぞれの背景にある子どもの権利を巡る課題や、企業が子どもに与える影響を紹介する。これらが企業による子どもの権利の尊重・推進のための具体的な行動へつながることを期待している。
どんな企業にとっても、子どもは消費者であり、未来の従業員であり、企業が活動する地域社会や環境における構成員であり、重要なステークホルダーである。「子どもの権利」を尊重・推進することは、長期的な視点で見れば、その企業の持続可能性にも、社会の持続可能性にもつながってくる。企業が子どもの権利を中心に据え、行動することは、社会全体を変える大きな力になるだろう。

堀江 由美子
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 部長
共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGs、子どもの権利とビジネスをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言や社会啓発に関わる。













