• 公開日:2026.05.15
社会課題を解決する共創の最前線 九州大の流域再生から高校生の異分野研究まで
  • 横田 伸治

サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内で開催された「イノベーション・オープン」では、環境省による「グッドライフアワード」の表彰と、NPO法人IHRP(Interdisciplinary High School Research Program)による高校生の研究発表の2プログラムが行われた。世代や専門領域の垣根を越え、社会課題解決と未来価値創造に挑むトップランナーたちの「共創」の最前線が共有された。

Day1 イノベーションオープン

パネリスト
河合潤・環境省 大臣官房地域政策課 地域循環共生圏推進室
林博徳・国立大学法人九州大学 流域システム工学研究室 准教授
鹿野雄一・国立大学法人九州大学 流域システム工学研究室 特任准教授

森垣穂香・NPO法人IHRP 副理事長
中渡寛人・NPO法人IHRP 参加者
園部亜唯彩・NPO法人IHRP 参加者
早川智晴・NPO法人IHRP 参加者
崎岡琉南・NPO法人IHRP 参加者

「ローカルSDGsの見本市」が示す、地域課題の同時解決

河合潤氏

環境省の河合潤氏は、持続可能な環境まちづくりを目指す同省の「地域循環共生圏」構想と、それを応援する「グッドライフアワード」を紹介した。

2025年度で13回目を迎えた同アワードは「ローカルSDGs事業の見本市」とも言える存在だ。2025年度は224件の応募の中から、「環境・社会・経済」の3側面をいかに一体として捉え、同時解決できているかを重視して審査された。河合氏は、「地域の課題はそれぞれ独立しているのではなく相互に関連している。3つの側面を一体で捉え、課題を解決し続けることが地域の持続可能性に直結する」と語った。

「八百万の神」をデジタルで可視化する流域再生の挑戦

(右から)林博徳氏、鹿野雄一氏

その第13回グッドライフアワードで、環境大臣賞最優秀賞を受賞した九州大学の林博徳氏と鹿野雄一氏は、福岡県野鳥川流域などを舞台にした「流域再生」の最前線を報告した。

林氏は、「アニミズム」や「八百万の神」といった日本古来の自然観を現代のアニメ文化と結び付け、自然と人間の新しい関係性を再定義。目に見えにくい生態系の価値を、鹿野氏が手掛ける「3Dデジタル生物」によって可視化する取り組みを紹介した。単なる自然保護にとどまらず、景観や遊び場、減災といった「新たな価値(Good Growth)」を流域全体で創出するプロセスにおいて、領域の枠を超えた多主体共創のモデルを示した。

「高校生の研究が未来をつくる」

森垣穂香氏

セッション後半は、全国の高校生に異分野融合の研究機会を提供するIHRPの発表に移った。冒頭、IHRP副理事長の森垣穂香氏は同プログラムの意義について「私たちは『高校生の研究が未来をつくる』という言葉を掲げ、文理や学校、地域の枠を超えて、社会をより良くしたいという熱意を持つ高校生たちが自ら専門家を巻き込み、探究を深める場を創出している」と語った。

半年間にわたり第一線の研究者らと議論を重ね、実際に社会課題解決の糸口を探ってきた高校生4人の発表も行われた。

家庭用メタン発酵発電の普及を目指して

中渡寛人氏

身近な生ごみだけを利用したメタン発酵によるバイオガス発電の実験に取り組む中渡寛人氏。「廃棄物を単なるごみではなくエネルギーに変える仕組みを、より家庭的に、身近に普及させたい」と語り、実証実験を通じて生活に根差したエネルギー循環のシステム構築を模索する。

ランニングで電力を生むデバイス開発

園部亜唯彩氏(右)

ランニング中の体の動きを電力に変えるデバイス開発に挑む園部亜唯彩氏は、キャンプで出会った仲間との議論や、自らコンタクトを取った大学教授からの知見を吸収し、肉体の部位ごとの推定発電量を算出。今後は「誰もが日常のランニングで使えるデバイスのプロトタイプ制作を続けていきたい」と意欲を示した。

iPhoneカメラでスポーツ傷害を予防

早川智晴氏

特別な設備を使わず、iPhoneのカメラなどの身近な技術でスポーツ傷害のリスクを可視化する研究を進める早川智晴氏。自らの身近な問題意識からスタートし、IHRPのメンターと共に研究手法を磨き上げた。「データに基づいた安全な判断で、防げたはずのけがを無くしたい」と話し、システムの社会実装を見据え、今後もさらなる技術のブラッシュアップに挑む。

音響解析による発話障がいの客観的評価への挑戦

崎岡琉南氏

崎岡琉南氏は、発語失行(AOS)や失語症といった発話障がいがある人の音声を音響解析し、客観的な評価指標を構築する研究に取り組んだ。母音の持続時間や音節の移行期間、フォルマント(声の周波数ごとの強弱)の変化を健常者と比較・分析。「一人ひとりの症状に合わせたリハビリや支援につなげたい」と、医療・福祉現場への貢献に向けた熱意ある発表を行った。

世代を超えた「共創」が未来の希望に

行政と大学が連携した流域再生、そして高校生たちが専門家を巻き込み社会課題に挑む姿。一見異なるアプローチだが、その根底には「多様な主体との共創」という共通のキーワードがあった。複雑化する現代の課題に対し、分野や世代を越えて情熱を掛け合わせることこそが、持続可能な未来を創る最大の原動力になるだろう。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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