
「リジェネレーション(再生)」の概念が、日本においても多様な形で実装され始めている。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、MEC Industry、MS&ADホールディングス、パタゴニアの3社が登壇し、具体的な取り組みが紹介された。日本の自然環境特有の「アンダーユース(自然の利用不足)」という課題に対し、企業はどのようにアプローチすべきか。各社それぞれの立場から議論された。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー / レスポンスアビリティ代表取締役 / サステナブル経営アドバイザー パネリスト 近藤勝宏・パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社 パタゴニア インパクト ディレクター 富田良知・MS&AD インシュアランス グループ ホールディングス サステナビリティ推進部 課長 森下喜隆・MEC Industry 代表取締役社長 |
統合型最適化モデルで日本の林業を再生する

三菱地所グループなどの出資により2020年1月に設立されたMEC Industryは、国産木材を活用するための新たなビジネスモデル構築を進めている。代表取締役社長の森下喜隆氏は、日本の林業が抱える従事者の減少や森の老朽化といった課題に触れ、「これまで個別事業者が部分最適を目指していたサプライチェーンを見直し、一気通貫による『全体最適モデル』を構築している」と力を込めた。
同社は自社工場(鹿児島県湧水町)でのプレファブリケーション(プレハブ工法、建築部材を工場であらかじめ製造すること)に取り組んでおり、木造建築における、木材調達・製造・販売・組み立てまでのプロセスを統合。森下氏は「南九州の豊かな資源、特に『大径材』を非住宅分野で積極的に活用することで木材需要を生み出し、林業に労働力を戻していきたい」と語り、地域の雇用創出や林業復活への熱意を見せた。
産官学民の共創で流域治水と自然保全を両立

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスの富田良知氏は、自然資本を生かした地域づくりを進めるコンセプト「MS&ADグリーンレジリエンス」の内容を紹介した。「単なる環境保護活動にとどまらず、産官学や地域社会と一体となった『コレクティブアクション』が必要」と呼びかけ、多様なステークホルダーとともに地域のネイチャーポジティブを後押しする重要性を強調した。
具体的な事例として、2020年7月の豪雨で大きな被害が発生した熊本県球磨川流域での「緑の流域治水プロジェクト」などを報告。「水災リスクの低減と自然環境の保全を同時に実現する、水災に強く緑豊かな社会への転換を図っていく」と述べ、保険グループならではの視点から生態系再生と防災・減災を両立させるアプローチを提示した。
「死んだ地球からは、ビジネスは生まれない」

パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社の近藤勝宏氏は、食品事業「パタゴニア プロビジョンズ」を通じた環境再生型農業へのアプローチを語った。環境保護活動家デビッド・ブローワー氏やパタゴニア創業者イヴォン・シュイナード氏の言葉を引き「『死んだ地球からは、ビジネスは生まれない』。われわれが本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」と強く訴えかけた。
同社が基盤とする「リジェネラティブ・オーガニック認証」は、「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公平性」の3つの柱で構成される。近藤氏は「単なるオーガニックの枠組みを超えて、農業を通じて地球環境を再生していくことが求められている」と述べ、根本的な原因にアプローチし続ける企業姿勢を示した。
日本特有の自然観を取り戻す

ファシリテーターの足立直樹氏は、登壇者らの発表を受けて「地方には山や海しかないと言われがちだが、それこそがこれからの重要な資本だ」と総括。「それを古い一次産業として捉えるのではなく、今の技術や考え方と組み合わせることで、価値や雇用が生まれる好循環を作っていけるのでは」と投げかけた。
これに対し近藤氏は、広大な土地の「オーバーユース(使いすぎ)」が問題となるアメリカなどとは異なり、日本では「アンダーユース」が深刻な課題だと指摘した。自然とともに発展してきた日本の里山や農地は、人の手が入らなくなることで荒廃が進んでいるとし、「それぞれの土地で人が自然の中に入り、ともに生きていくようなビジネスの在り方を発見していく必要がある」と提言した。
これを受け、森下氏は「海外ではまっさらな土地を面開発することが多いが、日本はある程度既存の開発が進んだ土地にどうリジェネレートを取り入れるかという、歴史やプロセスの違いがある」と指摘。富田氏も日本の生活圏にはかつて果樹や緑が身近にあったことに触れ、「日本人は自然と共生していく感受性が非常に高い。豊かな自然観がまた戻るような流れが出てくるといい」と期待を寄せた。
日本の風土に根差した独自の「リジェネレーション」は、自社の事業とサプライチェーンを根底から見直し、地域社会や自然との関わり方を再構築することから始まる。そうした流れが、今まさに本格化しつつあることを実感させるセッションとなった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。














