
多くの企業がDE&I(多様性、公平性、包括性)の推進を掲げる中、研修が形骸化したり、「自分ごと」になりにくいという課題も少なくない。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッション「体験型ワークショップ:FUNからはじめるDE&I」では、ヘラルボニーの神紀子氏と菊永ふみ氏が登壇。同社オリジナルのカードゲーム「PEACE(ピース)」を使い、マイノリティの立場を疑似体験する90分のワークショップを行った。参加者はカードゲームを入口に、多様な人と共に働く組織の在り方などを考えた。
| Day1 ブレイクアウト 神紀子・ヘラルボニー ウェルフェア事業部 シニアマネージャー 菊永ふみ・へラルボニー ウェルフェア事業部 コンテンツクリエイター |
インクルージョンは「フルーツポンチ」

ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに、主に知的障害のある作家のアートをライセンス管理し、プロダクト化や企業との共創などを展開する。同社の「ヘラルボニーアカデミー」は「80億人がちがいを面白がれるほうの世界へ。」をステートメントに掲げ、約50団体・5000人以上に研修・教育プログラムを提供してきた。
セッションではまず神氏が、DE&Iの基礎概念を整理した。ダイバーシティには性別や年齢など外見から認識できる「表層的ダイバーシティ」と、価値観や経験など見えにくい「深層的ダイバーシティ」がある。エクイティは公平性のことで、一人ひとり異なるニーズに合わせて土台(資源)を用意する考え方だ。また神氏はインクルージョンを食べ物に例え、「ミックスジュースではなくフルーツポンチ。一つひとつの食材が独立しながらも調和して、おいしい状態を目指す」と説明。このセッションでは、公平さをゲームで体感していった。
マジョリティが決めたルールから「こぼれ落ちる」

ここでバトンを受けた菊永氏は、生まれつきのろう者。手話を第一言語とし、手話通訳を介して進行した。「PEACE」は、ヘラルボニー契約作家・笠原鉄平氏が描いた「集いの習慣」をベースにしたオリジナルカードゲームだ。ニンゲン・ツリー・ロボットの3種類のキャラクター、1〜7の数字、赤・青・緑の3色で構成し、ルールは「異なるキャラクターをつなげていく」こと。同じ色か同じ数字で、異なるキャラクターのカードを出していく。ミッションは「みんなと一緒にPEACEを楽しむ」ことだ。
参加者は5〜6人ずつのチームに分かれ、それぞれが「役割カード」を引いた。ヘッドホン、メガネ、ミトンなどのアイテムを装着し、視覚や聴覚、身体機能に制限のある状態でゲームに臨む。前半は「灰色のマットの枠内のみ」というルールでプレイ。アイテムを身に付けた参加者からは、「青と緑が分からない」「柄が見えない」(メガネ着用者)「どうやってカードを持つの?」(ミトン着用の人)といった声が次々と上がった。

前半終了後、菊永氏は「みんなに楽しんでもらいたいと思って開発したゲームだが、マジョリティ側が決めているルールからはこぼれ落ちる人がいる」と語りかけた。枠の中でしか遊べないルールのせいで車いす役の参加者はカードに手が届かず、また、色の判別がつかない人、「ピース」と発語できない人もいた。上智大学の出口真紀子教授の言葉を引いて、菊永氏は「マジョリティが労なくして得る優位性、それは『無意識の特権』と言える。これは自動ドアのようなもので、マイノリティは、そのドアを手でこじ開けている状態」と続けた。
ルールを「自分たちでつくる」発想の転換
後半は発想を反転させた。前半のマットの制約は撤廃。紙コップ、紙とペン、紙皿、レジャーシート、椅子、付箋など自由に使えるアイテムが用意され、各チームで「みんなが楽しめるルール」を考えた。

チーム名「お花見」の代表者がマイクを持ってルールを発表。シートを敷いてお花見気分を演出し、「ピースは体で体現する」「ノートで気持ちを伝える」「緑は使用しない」とのルールを設定した。ミトン着用のメンバーがカードをつかみやすいよう、紙皿に1枚ずつ並べる工夫も加えた。別のチームは「青いカードを黄色いカードに替えた。『ピース』を言葉と同時にジェスチャーで伝える」と発表。出すカードを「木の4の青です」と声に出すルールも作ったという。
できることを前提にした仕組みづくりへ
後半のプレイ後、菊永氏は2つのポイントを示した。1つ目は「1人がみんなに合わせるものか、みんなが一緒に楽しめるものか」という視点の違い。「ろう者の私が発語を学んでみんなに合わせるのではなく、みんなが手話で会話してくれたら、私はもっと自然に話せる」と例を挙げた。2つ目は「できることを前提にした仕組みの開発」だ。菊永氏は「例えば見えにくい人に『青のツリーの4だよ』と口頭で教えるのは、支援する/される関係。フラットな関係とは、みんなができることを前提にした仕組みをつくることだ」と語った。

あるチームは車いすの人、耳が聞こえない人、手が動かせない人、自分の体が動く人で構成されていた。そのチームの発表者は「最初はお互いに気を使いすぎて楽しめなかった。そこで全員で協力し、制限時間内に全員の手札がなくなったら終わりというルールに変えた。カードをみんなで見えるように並べ、『これ出せるよ』と言い合ったら、障壁がなくなって楽しくできた」と振り返った。
ユニークでチャレンジングなカードゲームに、あちこちで対話と笑い声が上がった。PEACEを初めて体験したという女性は、「役割カードで体験することで、障害のある人の気持ちを感じることができた。みんなが協力しながらルールを作ることは新鮮で、職場の研修でも応用したい」と笑顔で話した。
菊永氏は最後に、「ルールや仕組みに正解はない。違いをリスペクトし、建設的な意見を言い合える組織の環境設計、仕組みづくりが重要だ。様々な人と対話することでしか、真のDE&Iはつくれない」と力説し、セッションを締めくくった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。














