
世界経済フォーラムは6月12日、148カ国を対象とした「ジェンダーギャップ指数レポート2025」を発表した。それによると、世界全体のジェンダー平等の達成率は68.8%(男女が完全に平等な状態を100%とする)で、前年の68.4%からわずかに改善。一方で、進捗のスピードは依然として遅く、パンデミック以前の水準を下回る状況にある。今回の調査は2024年のデータに基づいたもので、レポートは、2025年以降、米国トランプ政権による関税政策など、地政学的なリスクが低・中所得国を中心に雇用を脅かし、ジェンダー格差を再び悪化させることへの警鐘も鳴らしている。
教育・健康は向上も、政治・経済の格差埋まらず
レポートは、男女間の格差を、「教育」「医療」「経済」「政治」の4分野で測定。2025年版では、148カ国全体で教育(95.1%)と医療(96.2%)が高水準にある一方で、経済は61.0%に、政治は22.9%にとどまり、依然として深いギャップが残ることが浮き彫りとなった。
そこから読み取れるのは、教育を受ける機会は向上しているものの、その経済的リターンが不均衡であることだ。世界の労働力人口の41.2%を女性が占めているにもかかわらず、賃金格差や管理職比率の是正は進んでいない。特に政治分野では、女性議員や女性閣僚の割合は世界で増加傾向にあるものの、国家元首に就いている女性はごくわずかだ。
調査の始まった2006年から2024年までのデータをもとに、レポートは、「世界全体で完全なジェンダー平等を達成するには少なくとも123年を要する。これは前回の推計からは11年短縮しているが、1世紀以上はかかる」とする悲観的な見通しも示す。
欧州諸国が上位独占 日本は118位と低迷続く

2025年版のランキングでは、アイスランドが92.6%で16年連続の首位を維持。2位にフィンランド(87.9%)、3位にノルウェー(86.3%)が続き、上位10カ国のうち8カ国を欧州勢が占めた。これらの国々は、教育・健康分野で高スコアを維持するだけでなく、女性の政治参画や経済界におけるリーダーシップが進んでいる。
アジアではフィリピン(78.1%、20位)が最も順位が高く、バングラデシュ(77.5%、24位)、シンガポール(74.8%、47位)などが続いた。韓国は68.7%で101位、中国は68.6%で103位だった。
日本は66.6%で、前年と同じ118位。G7諸国では最下位で、唯一70%台に届いていないばかりか、G20やアジアの中でも低位にある。その要因としては政治参画の低さ(前回の11.8%が今回は8.5%に)が大きく、中でも女性閣僚の割合が前年の25%から10%に下落し、先進国の中でも際立って低い水準にあることが響いた。経済への参画は前回の56.8%から61.3%に微増しているものの、女性管理職比率は127位と世界最低レベルだ。
トランプ政権による関税問題やAIの影響に警鐘
レポートでは、さらに今後のジェンダー格差に影を落とす要因として、地政学的リスクや技術革新の影響を挙げた。
とりわけ、米国トランプ政権による関税問題が貿易に影響を及ぼし、「低・中所得国の輸出産業に打撃を与え、男性に比べて女性への影響がより長期にわたり、回復が困難となる可能性がある」として懸念を示した。こうした国々では、輸出依存型の業種に従事する女性が多く存在するため、政策の影響を受けやすいと見越してのことだ。
またレポートは、AIに代表されるテクノロジーの進展や人口動態の変化が進む中で、女性のキャリアが阻まれ、「ここ数十年で女性が生み出してきた経済的成果を覆すリスク」が潜在することにも言及する。
そのような先行きの懸念も踏まえ、世界経済フォーラムのマネージングディレクターを務めるサーディア・ザヒディ氏は、レポートの中で、政府と企業、市民社会のリーダーらに向け、「世界経済の不確実性が高まる中、ジェンダー平等の推進こそが経済再生の重要な原動力となる」と危機感を持って訴える。
日本政府は先日公開したSDGsの進捗に関する「自発的国家レビュー」報告書の中で、「政治・経済分野における女性の参画の拡大が喫緊の課題」とした上で、企業に対し、「2030年までに女性役員比率を30%以上とする」ことや、「男女間の賃金格差の開示義務化」の方針を示したが、これらをどこまで具現化できるのか。
SDGsの達成期限まであと5年に迫った今、その鍵を握る目標5番「ジェンダー平等を実現しよう」を世界全体で加速させなければ追いつかない時に来ている。
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廣末 智子(ひろすえ・ともこ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。