
新聞、テレビのマスコミやWEBサイトなどの記事の内容が互いに食い違うことは決して珍しくないが、ことEVに関しては、正反対で極端に違う例が最近よく見られる。
ある記事で、ある日本メーカーのEV用蓄電池生産縮小の原因が世界のEV需要の低迷にあるとする一方、一週間後には、世界のEV販売が新車の3割になるという記事が同じ新聞に載っていた。
さて、EVの本当の実力はどちらなのか、「正しい現在位置」をお話ししたい。
世界のEV販売は、順調に拡大している
リードに書いた記事の話をもう少し詳しく示しておく。ここで使っている「EV」とは、BEV(バッテリーEV)とPHEV(プラグインハイブリッドEV)の総称で、IEA(国際エネルギー機関)の統計でもそうなっている。
ソースをはっきりさせるため、きちんと新聞社名も載せる。
まず、日経新聞の5月12日朝刊に登場したのが、「パナソニックHD、新型EV電池の量産延期 世界で需要低迷」という記事である。子会社パナソニックエナジーが「電気自動車(EV)用の新型電池の量産開始を延期」し、その原因として「世界的なEV需要の低迷に伴い納入先のEVメーカーからの発注が滞っている」とある。記事の最後には、「背景には世界的なEV需要の失速がある。米国を含む各国が購入補助金政策を取りやめたことで価格が高止まりし需要の低迷を招いた」と解説を重ねている。
ところが、10日を待たずに出た記事は、「EVシェア、世界で3割 今年、IEAが拡大予測 エネルギー危機で需要増」(日経新聞5月21日朝刊)であった。EVのシェアが伸びている根拠として記事で紹介されているのはIEAの報告書で、これによれば、2026年世界の電気自動車(EV)の販売台数が前年比約1割増の2300万台に達し、新車全体の28%を占めるという。
「あれっ」と思うのは、筆者だけではないであろう。2つの記事は矛盾しないのであろうか。合理的に考え、「イラン情勢もあって2026年は拡大しているが、2025年は厳しかったということでは」と想像もしてみる。
ところが、記事の元になったIEAの統計から以下のグラフを引っ張り出すと、実は、2025年も順調に拡大をしていることが分かる。

出典:IEA、Global EV Outlook 2026
「Global EV Outlook 2026」の数字では、2025年に販売された新車のうち4台に1台がEVで2024年から毎年20%以上の成長を続け、2000万台以上の販売数に達した。確かに2020年代の前半は年に5割近い伸びもあったが、全体のボリュームが増えてきた中での2割増は、変わらず“驚異”の部類であろう。
上のグラフでは、中国(オレンジ)のシェアが少し落ち、欧州が2024年の停滞から3割増えて400万台を越え、一方、トランプ政権のEV優遇策廃止でアメリカ(緑)での2026年の売れ行き(推定)は下がると見られている。また、今年は前述の主要3エリア以外の地域(灰色)で急増が見込まれている。
東南アジアなどでの急拡大と、極端に低迷する日本
今回のテーマは、記事の真贋(しんがん)を問うものではなく、結果を評価するつもりもない。
ただし、取り上げた新聞記事に矛盾を感じる原因は、例えば、対象としている「世界」が必ずしも全世界ではなく、特定企業の売り先国である可能性がある。例えば、パナソニック系会社の主たる顧客がアメリカのメーカーであれば、2025年末から始まったアメリカのEV需要の停滞と連動している。ホンダのEV開発からの大幅な撤退発表が3月にあったが、それもアメリカ市場を主なターゲットにしていたことが背景にある。
しかし、前述のような書きぶりは、決して取り上げた特定記事に限らず、他の新聞などマスコミを含め、影響を受けやすいSNSにまで及んでいる。その結果、「EVは世界で売れておらず、トレンドから外れたもの」という“空気”が日本で作られている現実がある。これは、一部だけのものではないであろう。
そんな、“エセ”ファクトが蔓延(まんえん)する背景の一つに、日本でのEV売れ行きの極端な低迷がある。新車に占めるEVシェア率は2025年が全体で2%台の後半で、2026年に入って増加傾向にあり同年3月は過去最高の4.15%を記録したものの、それでも下図の通り、世界の状況からはかけ離れている。

出典:IEA、Global EV Outlook 2026
世界では、EVシェア率がほぼ100%のノルウェーを先頭に、中国などが50%越えを示し、特に東南アジアの諸国がこの5年で驚くほど伸ばしている。いずれも日本車の「上得意」であっただけに、EVラインナップが少ない日本車は苦戦を強いられていて、各国でガソリン車を含め2桁という大きなシェアを落としている。
「エセファクト」が招く悪影響
現在の中東情勢を踏まえると、EVへの転換は短期的に見て当然の対処である。また、中長期的にも脱炭素化に向けガソリン車からの転換は必須である。遅れた日本はある意味、危機に瀕(ひん)しているといってよい。曖昧なメディアの対応は結果として、誤解を招いたり、事実を隠してしまったりという逆効果を生む可能性をはらんでいるのである。
別の記事で、充電サービスを提供している中部電力の子会社が民事再生となったと読んだ。日本でEV普及が遅れている原因の一つに充電設備の不足が挙げられているのに、この結果である。また、先日、モビリティの充電サービスを行っている企業(大手のエネルギー会社などが出資)の関係者に会ったが、マスコミの記事が事業展開に水を差している可能性があると嘆いていた。
エネルギーや脱炭素に関し本当に起きていることを知ることは、エネルギー安全保障の確立や温暖化を防止するためのイロハである。生成AIもそうであるが、元データをたどることなど基本に返り、課題解決に正しく向かっていくことを強く目指したい。
北村 和也(きたむら・かずや)
日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。










