• 公開日:2026.05.27
「環境かコストか」の二項対立を乗り越える 三井化学が捉えた「エコバリュー派」の実像
  • 眞崎 裕史

Sponsored by 三井化学株式会社

サステナビリティ経営が広く浸透する一方で、現場の事業部門では「環境対応はコスト増。消費者にその価値は伝わるのか」という根強い課題が残る。この壁を越える鍵を探るため、三井化学は2025年に2度にわたる消費者調査を実施した。価格が上がっても環境配慮製品を選ぶ「エコバリュー派」の存在を浮き彫りにし、その心を動かすコミュニケーションの在り方を提示。なぜ素材メーカーが消費者リサーチに踏み込んだのか。同社グリーンケミカル事業推進室の三國達也氏と油井賢司氏に、調査から見えてきた市場の可能性や、環境配慮製品を事業機会へと転換するヒントを聞いた。

interviewee
三國達也

三井化学 グリーンケミカル事業推進室 ビジネス・ディベロップメントグループ マネージャー

interviewee
油井賢司

三井化学 グリーンケミカル事業推進室 ビジネス・ディベロップメントグループ 事業開発推進リーダー

コストと「価値の伝わりにくさ」が課題

――まず、ブランドオーナーから日頃聞かれる環境対応の悩みについて教えてください。

三國:私たちはバイオマス化を進める「BePLAYER®」とリサイクルを進める「RePLAYER®」を2022年にプロジェクト化し、本格的な活動を始めました。お客さまと対話を重ねる中で繰り返し聞こえてくるのが、コストの課題です。そして裏表の関係になりますが、「コストをかけて環境対応しても、その価値が消費者に伝わるのか」という不安の声でした。

定量的に把握したいと考え、2024年10月にブランドオーナー向けにアンケートを実施したところ、課題のトップは「コストがかかる」(36%)で、「世の中に環境価値を評価してもらいにくい」(22%)が続きました。同様のスキームで実施した今年1月の調査でも、依然としてコストは大きな課題として残っており、新たに「調達」の課題も上がってきています。特に経営層では上記の3項目全てにおける課題感が現場レベルと比較してより高くなっており、経営課題化している様子がうかがえます。

サステナビリティ対応の課題として「コスト」に続き「環境価値を評価してもらいにくい」が挙がった

――そうした課題を踏まえて、2025年に2回の消費者調査を実施されました。素材メーカーが消費者リサーチに踏み込むのは珍しいことではないでしょうか。

三國:そうですね、驚かれることも多いです。ブランドオーナーの皆さんの中に、「日本の消費者の環境意識は依然として低い」という固定観念が残っているのを感じる場面もありました。価格がある程度上がってしまうのは現状不可避ですが、その状況下でも環境配慮製品を選んでくれる層が、リアルにどのくらいいるのか。定性的な印象ではなく、数値で示すことに意義があると考えたのです。

油井:この固定観念とコストの壁を多くの企業が乗り越えられずに事業化に至らない、ということが課題だと感じています。

エコバリュー派が25%から32%へと拡大

――2025年2月の調査(クロス・マーケティングとの共同調査)では、価格が高くても環境配慮製品を選ぶ「エコバリュー派」が市場の25%存在することが明らかになりました。さらに8月の調査(早稲田大学・川上智子教授監修)では、その比率が32%にまで上昇しています。このボリューム感をどう評価されますか。

三國:市場の4分の1から3分の1が、価格が上がっても環境配慮製品を選ぶというのは大きな発見でした。シャンプー、お弁当、冷蔵庫、自動車という商材を提示して10〜30%の価格上昇を許容するかを聞いたところ、2025年8月時点で32%が価格が多少高くても環境配慮製品を購入すると答えています。

「エコバリュー派」は市場の約3分の1を占めている

2月から8月にかけて7ポイント増えた背景には、2025年夏の記録的な猛暑があると見ています。気候変動を皆さんが少しずつ実体験として感じるようになり、自分の体験も含めて環境対応にお金を払ってもいいと考える方が増えてきている。市場のポテンシャルが明確に見えてきたと言えます。

油井:他の調査でも近い結果が出ています。例えばボストン コンサルティング グループが定期的に実施している消費者意識調査では、環境負荷の少ない製品に対して10%以上のプレミアム(上乗せ料金)を支払う意向を持つ人が約3割いるという結果が示されています(※)。私たちの調査も含めて、環境への意識が高く、価格受容性のある層が一定数存在することは、事業性として十分な可能性を示していると思います。

※BCG「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査(第10回)」(2025年1月実施)

環境価値は判断軸の「一要素」になりつつある

――エコバリュー派は単に「環境に良いから選ぶ」のではなく、品質や耐久性、ブランド、「どのような点で環境に良いかの分かりやすさ」など、複数の軸で意思決定しているのが特徴的でした。

三國:まさにそこがポイントです。機能と品質という従来の価値、いわゆる機能的価値と情緒的価値に加えて、環境価値が判断軸の一つに加わってきている。例えばスマートフォンを買い替えるとき、新しい機能で興味を持っても、最終的には画面サイズや容量など、自分に必要な最低限のスペック、条件を確認しますよね。それと同じように、環境価値も「機能OK、品質OK、環境OK」と確認する条件の一つになりつつあるのではないかと感じています。

三國達也氏

実際、2回目の調査でエコバリュー派が「買わない」と判断した理由を見ると、「バイオマスプラスチックの具体的な原料や含有率が不明で、製品の素性がわからない」「CO2削減の具体的なデータがなく、環境に良いという主張の信頼性に欠ける」など、かなり細かい情報まで吟味していることが分かります。情緒的なストーリーで入口を広げつつ、最終的にはデータで判断する。両輪のコミュニケーションが必要だということです。

――エコバリュー派は環境意識こそ高いものの、実際に「環境配慮行動ができている」と答えた人は「ややできている」を合わせても48%にとどまります。意識と行動のギャップはなぜ生まれるのでしょうか。

油井:現状、店頭に並ぶ製品で「環境負荷が低い」と明示されているものは、ほとんど見当たりません。仮に書かれていても表現がシンプルすぎて、どれだけ環境貢献につながるのか分からない。自分で調べてまで買う人は限られますから、関心はあっても、買いたくても買えないという状況になっているのだと思います。

そこにコストの壁が加わるわけですが、しっかりコミュニケーションを取れば、選択的に買いたいという意思は生まれるはずです。コミュニケーションの仕方こそがポイントなのだと思います。

タンジブル訴求が購入意向と価格受容性を引き上げる

――2回目の調査では、サステナブル消費行動を促すフレームワークとして提唱されている「SHIFTフレームワーク」(Social influence, Habit formation, Individual self, Feelings and cognition, Tangibilityの5要素から成る)の中の概念「タンジビリティ」に注目し、抽象的なメッセージと具体的なメッセージの効果を比較しています。プラスチック食器、スニーカー、コーヒーメーカーの3商材で、いずれもタンジブルな訴求の方が購入意向、価格受容性ともに高い結果が出ました。

三國:特に印象的だったのはコーヒーメーカーの例です。「Kitchen 2 Kitchen」、つまりキッチンから出た廃食油などを原料に再びキッチン製品に生まれ変わらせるストーリーを伝えたコンセプトでは、エコバリュー派の最適価格が6000円となり、素材説明のみのコンセプトの4833円を1000円以上、上回りました。プラスチック食器の「ロングライフデザイン」、スニーカーの「カーボンフットプリント7.5kg CO2e」も同様で、具体性と物語性が購買行動を後押しすることが定量的に確認できたのです。

市場の最大3割のポテンシャルがある中で、いち早くそこを取りに行く。その手法の方向性も提示できた調査だと考えています。サステナビリティは元来、機会として捉えるものだと言われてきました。環境対応を入口にイノベーションを生み出し、企業の競争力強化につなげていく。そのためにも、まずトライしてみる価値はあると感じています。

タンジブルなコミュニケーションの一例

――タンジブルなコミュニケーションを実践しているブランドは、まだ少ないのが実感でしょうか。

油井:そうですね。グリーンウォッシュへの懸念や、何をどう訴求すれば良いかという悩みの中で、明確な訴求に至らないケースが多いのだと思います。とはいえ国が示すガイドラインに沿った形で発信できる環境は整っていますし、今回の結果を見れば、シンプルな訴求でも購買力は上がり、明確に訴求すればさらに上がる。製品の主要な価値の一つとして前面に打ち出していくことが、事業性の観点からも有効なのではないかと思います。

三國:結局は「言行一致」だと思います。環境対応をしっかり実行していれば、コミュニケーションも自信を持ってできる。企業の取り組みと発信が一致していれば、グリーンウォッシュを過度に恐れる必要はありません。真摯(しんし)に、誠実に伝えることを心がけることが重要だと感じています。

付加価値の組み合わせがコスト派の心も動かす

――調査では、シャンプーの詰め替えやすさや冷蔵庫の省エネといった環境以外の付加価値を組み合わせることで、エコバリュー派だけでなく市場の多数派であるコスト派の価格受容性も上がることが示されました。

油井:消費者にとってのインセンティブが明確であることが何より大事です。機能や利便性、ランニングコストといった購入者にとっての直接的なメリットを訴求しつつ、そこに環境というプラスアルファを加えていく。これが、環境対応を事業として成立させていく上での一つの考え方になると思います。

三國:加えて、規制の動きにも目を向けたいところです。いずれ環境対応が義務化されれば、誰もがやらざるを得なくなる。その時に優劣を分けるのは、先んじて環境を事業機会として捉え、真摯に取り組んできた企業ではないでしょうか。先行してマーケットシェアを取りに行く意味でも、規制下での競争に備える意味でも、いまアクションを起こす意義は大きいと感じています。

素材メーカーとして「選択肢」を広げる

――三井化学はBePLAYER®(バイオマス)とRePLAYER®(リサイクル)を通じて、企業の環境対応を素材面から支援されています。ブランドオーナーにとって、御社の素材はどのような武器になりうるでしょうか。

油井賢司氏

油井:私たちの強みは、石油由来のナフサからバイオマスナフサやケミカルリサイクル由来の廃プラ分解油に置き換え、マスバランス方式という手法を用いることで、私たちが提供する化学品やその誘導品である樹脂製品など、幅広い製品を環境対応製品として提供できる点にあります。

選択肢を広げることは調達力の強化につながり、ひいては販売力の強化にもつながります。事業性の追求と環境リスクへの対応を同時に実現できる選択肢を、お客さまにご提供できるのが私たちの役割だと考えています。

――最後に、ブランドオーナーやマーケティング担当者に向けたメッセージをお願いします。

三國:環境対応のコスト負担は、自社だけで抱え込もうとすると行き詰まりがちです。サプライチェーン全体でコストや負荷をすり合わせ、共に取り組む発想に切り替えれば、長期的にはサプライヤーにとってもメリットがある話につながります。そういう関係づくりこそ、サプライチェーン全体での競争力強化に直結すると感じています。

油井:環境対応をリスク対応のコストとして捉えるのではなく、「事業機会・差別化の機会」として捉える視点が広がっていくとうれしく思います。今回の調査結果が、その気づきや一歩を踏み出すきっかけになればと考えています。

三國:私たちは今年、調査の先にある実証実験にも踏み込んでいきたいと考えています。市場全体の傾向は見えてきましたから、次は個別ブランド向けの深掘り調査や、売り場での販売実証など、より具体的な検証に取り組むフェーズです。業種や分野を問わず、いろいろなブランドオーナーさんと連携できればと思っています。海外との比較調査も準備中です。「環境対応を事業として成立させる」という共通のゴールに向けて、ぜひご一緒に実証実験を進めていきましょう。

<参考資料>

「環境か、コストか。私たちの最適解は~環境配慮製品の市場創造に向けた消費者インサイトを探る~」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/form_wpdl_16_ja/

「環境価値で選ぶ時代へ ―エコバリュー派が拓くサステナブル市場―」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/form_wpdl_18_ja/

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。

BePLAYER®、RePLAYER®
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

素材に〇〇な情報メディア「素素–SOSO–」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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