• 公開日:2026.04.20
九州産木材で天神に自然と文化の循環を 三菱地所「(仮称)天神1-7計画」の挑戦
  • 眞崎 裕史

Sponsored by 三菱地所株式会社

「(仮称)天神1-7計画」(左から2番目の建物)の南東側イメージ図。道向かいに「ふれあい広場」があり、建物と広場が一体的な緑地空間を形成する(三菱地所提供)

福岡・天神のランドマークとして32年間愛され続けた「イムズ」跡地に、オフィス・ホテル・商業からなる複合ビル「(仮称)天神1-7計画」が誕生する。開発コンセプトは「福岡文化生態系」。ビルという枠組みを超え、天神エリア全体に文化と生活の循環を生み出すことを目指す。MEC Industryが製造する九州産CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)を外装に大胆に活用した、サステナブルな建築設計も大きな注目を集めている。2024年5月に着工した本計画に携わる3氏が、その思いと挑戦を語った。

interviewee
林 春佳

三菱地所九州支店 第1ユニット 兼 イムズ開発推進室

interviewee
大浦 匡博

三菱地所設計九州支店 チーフアーキテクト

interviewee
那須 恭介

MEC Industry 技術部 設計管理課 デッキ班長 兼 商品開発課 木有活班長

「福岡文化生態系」に込めた思い

―― まず「(仮称)天神1-7計画」(以下、1-7計画)の概要と、開発コンセプト「福岡文化生態系」に込めた思いをお聞かせください。

林春佳(以下、林):本計画は、天神ビッグバン(*1)の一環として天神の中心部で進めているオフィス・ホテル・商業の複合開発で、2027年5月末の竣工を予定しています。もとは三菱地所初の都心型商業施設「イムズ」(IMS:Inter Media Station)が建っていた場所で、そこでの再開発プロジェクトです。1-7計画を通じて、人々に愛される心地の良いまちづくりを目指すとともに、木材活用や緑化などの取り組みにより、サステナブルにも貢献していきたいと考えています。

林春佳氏

私自身、2年前に福岡に赴任したのですが、地元の方とお話しすると、「初デートの思い出がイムズ」「お母さんが若い頃よくイムズに遊びに行っていた」などという声を本当によく聞きます。イムズは単なる商業施設ではなく、人々の生活の記憶に深く刻まれていたビルでした。そのイムズの精神を受け継ぎながら、今の時代に合った新しい価値を創りたい。そんな思いでたどり着いたのが「福岡文化生態系」というコンセプトです。

―― 「生態系」という言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。
:このビルで生まれた文化が、ビルの中だけではなく街全体まで染み出し、逆に街で育まれたものがまたビルの中に入ってきて互いに循環し、新たな価値が生まれていく。ビル単体ではなく、天神1丁目、さらには天神エリア全体を一体的に魅力的な場所にしていきたいという思いを「生態系」という言葉に込めています。

大浦匡博(以下、大浦):天神ビッグバンによる再開発で、天神には高い競争力を持つ先進的なビルが次々と誕生しています。一方で、もともとあった若者文化の発信地としての魅力や、市民目線の親しみやすさが失われていると感じる方もいるかもしれません。

そうした背景の中で、本プロジェクトが掲げているのは「街に生活を取り戻そう」というテーマです。かつてのイムズは、ビルの真ん中に大きな吹き抜けがあって上から下まで目線が通り、ギャラリーや劇場では若手アーティストの発表の場があった。いろんな文化が交差し、人の記憶に残る空間でした。そういう生活拠点をこの場所に再び作ることが、この計画の狙いの一つです。

:具体的な取り組みとしては、エリアマネジメント団体であるWe Love天神協議会との協働により、本計画地に隣接する「きらめき通り」を期間限定で歩行者専用道路化したイベントを開催し、ビルの就業者やホテル・商業の来客者はもちろん、市民の皆さまやイムズ時代に天神で遊んでいた方々が集える、街に関われる機会を創出する工夫も進めています。

きらめき通りで実施した歩行者専用道路化イベントの様子(三菱地所提供)

また、1-7計画にはアメリカ・シアトル発のライフスタイルホテルブランドである、エースホテルが入ります。アジアで2施設目・九州初進出となるこのホテルは、地域のローカルな文化に溶け込むことを大切にし、ラウンジやルーフトップバーなどのパブリックスペースを宿泊客だけでなく地元の方にも使ってほしい、むしろ地元の方が楽しめる場所にしたい、という思いを強く持っているホテルです。アートや音楽などを通じて地元を盛り上げ、文化を作り上げることを大事にするこのホテルは、われわれが目指す「天神という街全体を豊かにしたい」という思いと非常にマッチしていると感じています。

多様な方の交流でにぎわうエースホテル・シドニーのラウンジ(三菱地所提供)

九州産CLTが天神の「森」に生まれ変わる

―― 建物外観に木質素材をふんだんに使ったデザインが目を引きます。その設計思想を教えてください。

大浦:外観は、新しい風を呼吸し、大地に根付き、育つ森、というイメージをもってデザインしています。世界や全国、地元から天神に流れ込んでくる人・文化・情報・アイデアを取り込み、また外へと放ち、循環させる。その動きをサーキュレーターのように表現しました。

大浦匡博氏

木の板を積層させて作るCLT製のルーバー(細長い格子状の外装パネル)を無数に配置することで、ファサードに奥行きが生まれます。ガラス張りのビルが「内と外」しかないのに対し、1-7計画では室内と街の風景の間に中間領域ができ、街との親近感が生まれます。コンピューター・シミュレーションで、ルーバーの角度と日射や視線の抜けの関係を一枚一枚計算することで、日射の熱による室内温度への影響を約40%削減しながら居心地の良さを生み出す配置になっています。

また、駐車場の出入り口を、隣接する「ワンビル」(ONE FUKUOKA BLDG.)と共用化したことで、四囲のどこを歩いても「裏」がない設計を実現しました。天神1丁目は、天神中央公園、市役所前のふれあい広場、アクロス福岡の森、薬院新川の桜並木など、実は驚くほど緑豊かなエリアです。しかし街を歩いているとそれに気付きにくい。1-7計画は、そうした隠れた街の魅力を可視化し、来訪者をエリアの豊かな環境へといざなうハブとしての役割も担っています。

「(仮称)天神1-7計画」の位置図(三菱地所提供)

日本初のCLT外装への挑戦

―― CLTを建物の外装に使うことは日本初(*2)の事例と聞きました。どのような経緯でこの素材が選ばれたのでしょうか。

大浦:設計当初はアルミやコンクリートのルーバーを検討していましたが、ちょうど三菱地所グループとしても国産木材の積極的な活用に取り組む中で、2022年にMEC Industryの鹿児島湧水工場が本格稼働を開始し、三菱地所グループ内でCLTの製造・供給体制が整ったことで「CLTでいけるんじゃないか」という話が生まれました。国内初の取り組みなので、強風・地震・振動・音・経年劣化・保護塗料・防腐・防蟻など多岐にわたる課題をクリアしなければなりませんでした。

強度検証ではスーパーコンピューターによる風と振動に対するシミュレーション、音については大学の風洞実験室でのモックアップ実験による風切り音の確認、促進対候性試験や実物大暴露試験による塗料の選定など、多くの課題について施工者・設計者・MEC Industryが連携しながら1年〜1年半かけて検証してきました。CLTは木板を直交積層することで強度を数値化し、安全性を確認できる材料です。自然の良さを残しながら人が手を加えることでコントロールできる。これが外装にCLTを選んだ大きな理由です。

MEC Industryで製造されたCLT(MEC Industry提供)

そもそも、私たちがなぜこれほどのチャレンジに踏み切れたのか。それはイムズのチャレンジ精神そのものだと思っています。収益効率よりも街の記憶を優先し、ビルの真ん中を大胆に吹き抜けにしたイムズの精神が、30年余りの時を経て、今度はCLT外装という形でここに現れているのではないでしょうか。

那須恭介(以下、那須):CLTはヨーロッパで開発された技術で、強度の低い木材を有効活用するために生まれました。九州の杉は温暖な気候のために成長が早く、年輪が広い分、強度が低い。MEC Industryが九州・鹿児島に拠点を置いた理由の一つに、その生育速度から径が大きくなり、有効活用されていない木材が多いということがあります。そんな杉材ですが、CLTにすることでその弱点を補い、構造材として使うこともできます。今回の1-7計画は厚さ150mm・210mm・270mmの3種類のCLTを使用し、最大で長さ8.8メートルにもなるルーバーもありますが、CLTならではの安定した強度があってこそ実現しています。

那須恭介氏

1-7計画において、MEC Industryでは原木の調達から製材、CLTの製造・加工、防腐防蟻処理・塗装まで一貫して担いました。自社工場内で対応できない部分は外部に委託しながら製造に係る工程管理に対応し、品質管理の各段階では設計・施工・MEC Industryの3者が立ち会い確認を重ね、採用される製品の製造はほぼ完了しています。先行して実施してきた曝露試験でも塗料の性能に問題がないことが確認できており、品質には自信を持っています。

―― サステナビリティの観点からは、本取り組みをどう位置付けていますか。

:1-7計画では、九州産CLTパネルを建物外装に約450立方メートル使用しています。日射熱を約40%削減する省エネ効果とともに、固定されるCO2は約259トンに上ります。全館の使用電力を再生可能エネルギー由来とすること、40本以上の高木や900平方メートル超の緑地を設けることも合わせて、省エネ性能や環境・健康配慮を多角的に評価する「LEED GOLD(BD+C: Core and Shell)」「ZEB Oriented」「CASBEE福岡」「CASBEE ウェルネスオフィス Aランク」といった各種環境認証の取得を予定しており、一部はすでに取得済みです。

さらに2025年12月には、福岡市の「天神ビッグバンボーナス」に加えて「都心の森1万本プロジェクト」の一環として創設された「グリーンボーナス」認定を受けました。壁面・広場・テラスなどの緑化や、植栽やベンチなどを組み合わせた憩いスペースの創出などをはじめとして、市民や来街者が心地よく滞在できる空間づくりを目指した多面的な取り組みが高く評価されています。

「(仮称)天神1-7計画」の模型。木材がふんだんに使われた外装が特徴的だ

大浦:木に関しては、数字だけでなく、その背景にあるストーリーにも注目してほしいと思っています。MEC Industryが鹿児島県湧水町に国内初の一貫製造工場を設立した背景には、国産木材を活用することで、九州の森林、ひいては国内の森林を守るという思いがあります。手入れされずに放置された森林は荒廃し、CO2吸収力も失われていく。木材を適切に使い、そして、植える・育てるという適切な森林循環を促すことで生態系を守る。そのMEC Industryの活動を最も力強く具現化しているのが、このプロジェクトです。三菱地所グループ全体のサステナビリティへの取り組みを、ここ天神で体現しています。

那須:今回の取り組みを見た業界の方たちは「外装にCLTが使えるんだ」と実感するのではないでしょうか。これまで事例がなく、避けられてきた外装利用という分野が安全に実現できることが1-7計画によって示されることで、CLTを外装材として活用するという選択肢が業界全体で広がっていくと期待しています。

日本は国土の7割が森林で、世界有数の森林保有国でありながら、国産木材の消費量は十分ではない。木材消費量が減ると林業に携わる労働力も減り、森林保全が適正に行われなくなってしまいます。CLTが様々なシーンで活用され、新たな可能性を産み出していくことが、林業振興や山の保全、ひいては地方創生にもつながっていくと信じています。

グループ一体で目指す、人々に愛されるまちづくり

―― 三菱地所グループの各社が連携して実現したことの強みについて教えてください。

大浦:三菱地所グループの最大の強みは、会社が違ってもほぼ同じ会社といえるほど近い関係性でコミュニケーションが取れる点です。福岡の設計チームと開発チームは同じビルで隣部屋の扉をノックすればすぐに相談ができる環境、鹿児島のMEC Industryともチャットツールですぐに相談できる。途中でいくつか難しい局面もありましたが、グループ内でのコミュニケーションの取りやすさが問題を解決してくれました。

:工事現場の仮囲いも、全周を建物外装と同じくMEC Industryが製造する九州産の無塗装杉材で行っています。街の人たちが写真を撮ったり、手で触れたりしてくださる姿をよく見かけます。また、工事終了後の仮囲い撤去材を廃棄するのではなく、什器(じゅうき)などとして新たに再活用する検討を、九州大学の学生と協力して行っています。1-7計画開業後の恒常的な設置を目指して、イベントや公開空地での試験的な設置も行っており、建材のアップサイクルという観点でも新たな試みです。

仮囲いは工事終了後も再活用が検討されている。イベントで什器として試験設置された(三菱地所提供)

イムズが皆さんの記憶に残り愛されたように、この新しいビルもイムズの精神を受け継ぎながらも今までにない新しい価値を見出し、それ以上に愛されるビルになってほしいと思っています。ファサードの木のルーバー、外構の緑や植栽帯、エースホテルのアート空間まで、アイレベルで「楽しい」「心地いい」と感じてもらえる空間づくりを徹底しています。「なんだか居心地いいかも」「またここに来たい」と感じてもらえることが、私たちの一番の喜びです。グループ一体で全力で取り組んでまいりますので、ぜひ完成を楽しみにしていてください。

九州産の無塗装杉材で行われた仮囲いの前で「(仮称)天神1-7計画」への思いを語る(左から)那須氏、林氏、大浦氏

*1 天神ビッグバン:規制緩和などを活用して民間ビルの建て替えを促進することで、天神地区に新たな空間と雇用を創出する福岡市のプロジェクト。耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを促進するとともに、みどりや文化・歴史などが持つ魅力に磨きをかけ、国際競争力が高く安全安心で環境にも配慮した魅力的なまちづくりに取り組むもの。

*2 高層ビルでの外装ルーバー採用は日本初。三菱地所グループ調べ(2026年4月時点)。

※役職はインタビュー当時のものです。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

Related
この記事に関連するニュース

「健全な地球」こそ経営の基盤 アシックスのサステナビリティ戦略とは
2026.02.24
  • ニュース
  • SBコミュニティニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
森の価値を再定義し、製紙業の枠を超える――磯野裕之・王子ホールディングス代表取締役社長執行役員CEO
王子ホールディングス
2026.02.16
  • インタビュー
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
  • #生物多様性
検索するほど森が広がり、再エネが増える――検索エンジン「Ecosia」とは
2026.01.30
  • ニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
物流の脱炭素をどう実現するか――スカニアが提唱する、既存インフラを生かした現実解
2026.01.16
  • ニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素

News
SB JAPAN 新着記事

九州産木材で天神に自然と文化の循環を 三菱地所「(仮称)天神1-7計画」の挑戦
2026.04.20
  • インタビュー
  • スポンサー記事
Sponsored by 三菱地所株式会社
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
【子どもの権利とビジネス原則】子どもは企業の重要なステークホルダー
2026.04.17
  • コラム
  • #人権
ESGデータを経営の「武器」に AI活用の現在地と展望
2026.04.16
  • ニュース
  • SBコミュニティニュース
  • #情報開示
  • #テクノロジー
  • #AI
人権DDは「形式」から「実効性」へ。企業と投資家の目線は
2026.04.15
  • ニュース
  • SBコミュニティニュース
  • #人権

Ranking
アクセスランキング

  • TOP
  • ニュース
  • 九州産木材で天神に自然と文化の循環を 三菱地所「(仮称)天神1-7計画」の挑戦