
イラン情勢を受けホルムズ海峡を巡る緊張が高まり、エネルギー価格の高騰や供給不安が現実味を帯びる中、今夏も全国で猛暑が予想される。電気代を気にしてエアコンを控えれば命に関わる一方、エネルギー危機は暑さ対策の足かせとなりかねない。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)は5月23日、シンポジウム「気候変動から命を守る エネルギー危機時代の猛暑対策」を東京都内で開催。研究者やスポーツ界の実践者らが、命を守るための知見と行動を共有した。
「酷暑日」が新設、熱中症は気象災害
気象予報士で同会理事の井田寛子氏は、最高気温40度以上を表す「酷暑日」が今年、気象庁により新たな気象用語として定められたと報告した。2025年8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、2024年までの国内最高記録41.1度を0.7度更新。極端気象アトリビューションセンター(WAC)の解析では、この記録的高温は地球温暖化なしにはほぼ起こり得なかったという。
厚生労働省の人口動態統計によると、熱中症による死亡者は2024年に初めて2000人を超えた。井田氏は台風や線状降水帯といった水害の例を引きながら、「熱中症は気象災害だ」と強調した。気象庁の3カ月予報では、今年6、7月とも沖縄から関東で平年より高い確率が60%以上で、全国的に厳しい暑さとなる見通しだ。
「暑熱関連死」は熱中症の7倍に
東京大学大学院教授の橋爪真弘氏(環境疫学)は「暑熱関連死」の概念を紹介した。熱中症による死亡者は直近5年平均で年1500人程度、その多くが65歳以上だが、暑さの健康影響は熱中症にとどまらないと言及。死亡診断書に循環器・呼吸器疾患などが死因と記載されていても、背景に暑さがあれば「暑熱関連死」として捉える必要があるという。

日々の死亡者と気温のデータを突き合わせて推計する統計学的手法によると、2015年からの5年間で、死亡診断書に「熱中症」と書かれた死者は約5000人だったのに対し、暑熱関連死はその約7倍に達した。橋爪氏は「ニュースで『今週、熱中症で15人が亡くなった』と聞いたら、その背後で100人ほどが暑さをきっかけに亡くなっている」と指摘。今世紀末に気温が3度程度上昇すれば、人口当たりの暑熱関連死は全都道府県で2〜4倍に増えると予測されるという。
また、環境省の第3次気候変動影響評価報告書から気温とメンタルヘルスの関連にも触れ、現時点で全自死者の約4%が気温に誘発され、今世紀末には5度程度の上昇で最大6.5%まで増えるとの見通しを示した。熱中症警戒アラートについては、「基準以上で起こる熱中症死亡は全体の2〜3%にすぎず、97〜98%はアラートが出ていない時に起きている」と注意を喚起。特に5、6月の初夏はリスクが高いとして、暑さに体を慣らす「暑熱順化」と水分補給の重要性を訴えた。
緩和と適応、両輪での備えを
国立環境研究所気候変動適応センター長の肱岡靖明氏は、日本の気温上昇が100年で1.4度と、世界平均の0.79度を大きく上回ると指摘。今年2月に公表された第3次気候変動影響評価報告書では、暑熱による死亡リスクが重大性・緊急性ともに最高の「レベル3」と評価された。

コメでは高温で白未熟粒が増えて等級が下がる問題があり、高温耐性米の品種改良など対策が進む。だが「おいしいコメを作って流通に乗せ、消費者に届けるのは簡単ではない」。治水の分野では、過去最大の降雨量を基準とした計画から、初めて温暖化を見込んで転換された点を「画期的だ」と評価した。
肱岡氏は「一番大事なのは、温室効果ガスを削減する緩和策。そこを頑張った上で、生じる影響に備える適応策も合わせて考えていくことが重要だ」と訴えた。
Jリーグが進める気候アクション
Jリーグ気候アクションアンバサダーでガイナーレ鳥取アンバサダーの長谷川アーリアジャスール氏は、スポーツ現場の取り組みを報告。2017年までは台風などで中止になる試合は年2試合程度だったが、2018年以降は年約9.5試合に増えた。高温で子どもが外でサッカーも公園遊びもできない状況も出てきている。

Jリーグは2023年から全公式戦を100%再生可能エネルギーで運営し、各クラブに気候アクションアンバサダーを配置。小学校でのワークショップなどを通じ「意識が変わる」(2024-2025年)、「行動が変わる」(2027年)、「仕組みが変わる」(2030年)を目指す。ガイナーレ鳥取は、耕作放棄地で芝生を生産する「しばふる」事業や、芝生圃場(ほじょう)の一部で太陽光発電と農業を両立するソーラーシェアリングを展開。米子市の小学校10校の校庭芝生化につながったという。
再エネ転換と気候変動を「自分ごと」に
後半のパネルディスカッションでは、朝日新聞編集委員の香取啓介氏が、2026年4月末にコロンビアで開かれた「サンタマルタ会議」を紹介。57カ国が参加し、化石燃料からの脱却を気候変動対策だけでなく、モラル、健康、エネルギー安全保障などの観点から再定義する流れができたと報告した。
日本環境ジャーナリストの会副会長でNHKエンタープライズの堅達京子氏は「ホルムズ危機をきっかけに、世界では化石燃料を輸入するより自前で再エネに転換する方が安全保障に役立つという流れが進んでいる。再エネへの転換を、自分のエネルギーと命を守る行動として捉え直す視点が必要だ」と語った。
橋爪氏はエアコン使用について「熱中症予防に効果があり、ためらうべきではない」とした上で、「電気代が高くなる中、もったいないと使用を控える人もいる。背景にある貧困などの社会的問題も同時に考える必要がある」と指摘。一人暮らしの高齢者は暑さを感じにくく熱中症にかかりやすいとして、見守りや、エアコンと室温をリンクさせる技術、経済的支援を組み合わせた対応を求めた。
肱岡氏は最後に「(熱中症による死亡者)2000人という数字ではなく、自分自身、そしてパートナーや子どもがどうなるかを考えてほしい。そう思えば『直面したくないから緩和策をしよう、適応策に取り組もう』となるはずだ」と訴え、気候変動を自分ごととして捉える重要性を強調した。猛暑と電力危機が重なる夏を前に、命を守るための備えが問われている。
| <参考資料> ・極端気象アトリビューションセンター(WAC) https://weatherattributioncenter.jp/ ・第3次気候変動影響評価報告書(総説) https://www.env.go.jp/content/000377713.pdf |
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。














