
西アフリカを襲った不作などでカカオ相場は歴史的な乱高下を見せるなど、いわゆる「カカオショック」が続く。背景には気候変動や病害、森林減少、児童労働といった構造問題があり、日本のチョコレートメーカー各社にとって持続可能な調達は避けて通れない経営課題だ。こうした中、ロッテは9月10日、都内で記者発表会を開き、ガーナで、カカオを強い日差しから守るシェードツリー(日陰樹)を植えるアグロフォレストリープロジェクトを始動すると発表した。2027年のガーナ独立70周年に向けた支援活動の第1弾で、約8000戸の農家に3年間で計50万本の苗木を配布する。産地の再生を通じ、調達基盤の強じん化を狙う。
カカオショックが問う産地の未来
発表会時点で、ロンドンのカカオ相場は1トン4500ポンド前後。カカオショック前の従来水準は2000ポンド前後で、2倍を超える水準にある。世界の生産量の約7割は西アフリカに偏在し、エルニーニョなどの異常気象や病害が供給を直撃する構造だ。ロッテ生産本部資材部の久保直樹部長は、2026/2027年クロップ(収穫)について「スーパーエルニーニョが予測され、今後の生産量が非常に懸念される」と語った。
カカオは苗木から収穫まで3〜5年を要し、一度被害を受ければ回復に長い時間がかかる。農家の貧困や児童労働、森林減少といった構造的な課題も重なり、産地の疲弊は供給の不安定化に直結する。
8000戸の農家に日陰樹50万本を配布
今回のプロジェクトは、ガーナ政府機関「Ghana Cocoa Board(COCOBOD)」の一部門で、農家への技術指導や苗木配布などを担うCHED(Cocoa Health and Extension Division)と共同で実施する。対象は同社の調達地であるアシャンティ州オフィンソ地区で、乾季に乾燥しやすく気候変動の影響を受けやすい地域だ。

3つの苗木育成センターを設け、カシアやココナッツ、カシューなど多様な樹種を育成・配布する。シェードツリーには、カカオの熱ストレスの軽減や土壌の保水性向上、生物多様性の保全などの効果が期待される。同社サステナビリティ推進部企画課の飯田智晴課長は、営農指導と組み合わせることで「1ヘクタール当たりの収量を平均450kgから750kg以上へ、約1.7倍に増やしたい」と説明した。
果実や木材による農家の収入源の多様化に加え、生産性の向上によって農地拡大に伴う森林減少圧力を抑える効果も見込む。苗木を配るだけでなく、定着の確認や研修・フォローアップを重ね、地域全体にアグロフォレストリーを根付かせる狙いだ。
ガーナ産カカオ、LSC調達100%に
同社は、農家までのトレーサビリティを確立したカカオ豆を「ロッテ サステナブルカカオ(LSC)」と名付け、児童労働の撤廃や森林減少への対応、営農指導などを通じて産地を支援してきた。2025年度のLSC調達率は84%に達し、調達量の約8割を占めるガーナ産はすでに100%を達成。2028年度までに全てのカカオ豆をLSCに切り替える目標を掲げる。

児童労働監視改善システム(CLMRS)はガーナのLSC調達先で導入率100%を実現し、GPSと衛星画像を用いた農園マッピングも実施率78%まで進んでいる。加えて、貯蓄組合の設立支援や女子の就学継続支援など、現地の実情に応じた取り組みも積み重ねる。飯田課長は「農家まで全てトレーサビリティが取れたことで、課題解決を一層加速できる新たなステージに入った」と話す。
サステナビリティは「未来投資」
ロッテが9月に公表した「サステナビリティレポート2026」は、パーパス「独創的なアイデアとこころ動かす体験で人と人をつなぎ、しあわせな未来をつくる。」の下、6つのマテリアリティと2048年(創業100周年)を見据えた「ロッテ ミライチャレンジ2048」を掲げる。同年度にはサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル(Scope1・2・3)達成も目標に据える。
持続可能な調達について同社は、リスクを抑える「事業基盤」領域の中核に位置付ける。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく2050年のシナリオ分析では、規制強化が進む場合に世界のカカオ生産量が現状より15%程度減少するとの結果も示され、産地支援は経営リスク軽減の鍵となる。実際、西アフリカで大幅な減産が起きた際にも、LSCとして契約していた分は全量を調達できた一方、LSC以外では一部で契約が履行されなかったという。

発表会後、経営戦略を担当する宮野啓治執行役員はSB Japan Newsの取材に対し、「われわれメーカーは調達がなければ物が作れない」とした上で、「気候変動や人口動態などで調達リスクが年々高まる中、社内では持続可能な調達への支出を『未来投資』と呼んでいる。最終的には私どもに戻ってくる」と語った。
ガーナについては60年以上にわたりビジネスを共にしてきた「特別な存在」と位置付け、「長期的に共存共栄を図りたい」と強調。飯田課長も、アグロフォレストリープロジェクトで得られた知見について「オープンにしていくべき」と述べ、産地全体への波及を見据える。
広がる産地支援の裾野
カカオ豆の持続可能な調達は、業界共通の経営課題となっている。
明治は2006年に農家支援活動「メイジ・カカオ・サポート」を開始。農家支援を実施した地域で生産されたカカオ豆や、第三者認証プログラムを通じて調達したカカオ豆を「明治サステナブルカカオ豆」と位置付けている。調達比率は2024年度に100%を達成したが、2025年度は製品戦略上の理由から99%となった。2026年度までに、全ての調達先で農園までのトレーサビリティの確立を目指している。
森永製菓は2008年から「1チョコ for 1スマイル」を展開。年間を通じた寄付に加え、特別期間には対象商品1個につき1円を寄付し、国際NGOプラン・インターナショナルや認定NPO法人ACEを通じてカカオ産地を支援している。江崎グリコは2021年の購入分から、農家支援を伴うカカオ豆の調達比率を100%としている。またガーナでは、認定NPO法人ACEと連携し、児童労働を予防・是正する「児童労働フリーゾーン」の構築を進めている。

ロッテのアグロフォレストリープロジェクトは、生産性の向上と環境再生を同時に狙う点に特色がある。カカオショックを受け、チョコレート業界では寄付やトレーサビリティの確保に加え、産地の生産基盤そのものを支える取り組みも広がっている。
宮野執行役員が発表会で「カカオ豆の持続可能な調達は事業のレジリエンスに直結する」と強調した通り、産地の持続可能性は事業の生命線でもある。3年間のプロジェクトで得た知見を地域全体にどう定着させ、産地と自社の双方に還元できるか。その実効性が問われるのはこれからだ。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













