• 公開日:2026.10.30
第7回 SB Student Ambassador 北陸ブロック大会
北陸の伝統を未来へ 高校生93人が持続可能なまちづくりを考える
  • 眞崎 裕史

サステナブル・ブランド国際会議の学生招待プログラム「第7回 SB Student Ambassador ブロック大会」の北陸大会が2026年10月17日、富山大学(富山市)で開催された。富山・石川・福井の北陸3県に滋賀県を加えた4県16校から93人の高校生が参加。「北陸3県発、伝統×未来の価値創出で挑む 持続可能なまちづくりを考えよう」のテーマの下、医薬品産業の人材確保や窓の断熱による健康投資などを巡り、活発な議論を交わした。

「幸せ人口1000万」を目指す富山

オープニングには、「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」を掲げる富山県の西経子副知事が登壇。同県は経済的な指標だけでなく県民一人ひとりの幸せを重視し、県外に住んでいても富山とつながる人たちを増やす考えだ。

西氏は、持ち家率や一人当たり県民所得などの客観的なデータで富山は幸福度が全国上位だが、主観的な幸福度を尋ねた調査では47位だったと紹介。その上で、「富山にはなんもないちゃ」と言ってしまうのはもったいないと語り、「富山のしあわせ」を募るキャンペーンへの参加を呼びかけた。富山の置き薬の「先用後利」は「サブスクの先駆け」とし、立山信仰とあわせて「富山は300年前から、この世もあの世もウェルビーイングだった」と述べた。

「ナラティブ」でイメージを覆す

基調講演には東北大会に続いて、宮城県気仙沼市発の廃漁網アップサイクルベンチャー、amu代表取締役CEOの加藤広大氏が登壇した。同社は、廃漁網を買い取り、高品質なリサイクル素材「amuca(アムカ)」へ生まれ変わらせる事業を展開している。

加藤氏は、漁具をごみとして扱う社会の仕組みそのものを「システムエラー」と捉え、その構造を変えるべく事業化に踏み切ったと説明した。また、サステナブル素材は「高くて売れない」というイメージを覆すため、デザイン性を前面に打ち出すことが重要だと指摘。「なんかいいなと思ったら、実は漁網だった」という順番が大切だと語り、自分なりの視点で価値や意味を見いだす「ナラティブ」の重要性を訴えた。

若者が働きたい会社・地域とは 池田模範堂

午後は2つのテーマ別教室に分かれ、協賛企業による講演とワークショップが行われた。

テーマ1「地域産業の未来」では、池田模範堂信頼性保証部長の奥野吉秀氏が講演。同社は1909年に富山県上市町で創業し、1926年に虫さされ薬「ムヒ」を発売した。ムヒは今年で発売100周年を迎える。

奥野氏は高校生を前に「300年続いた『くすりの富山』は、300年後も続いているだろうか」と問いかけた。富山県は人口当たりの医薬品生産額が全国1位だが、薬剤師の数は全国の増加傾向に反して減少。2024年度の製薬企業での薬剤師充足率は27%にとどまり、薬学部進学率も低い。この人材不足を解消するため、県と製薬業界は、富山大学薬学部薬学科に定員10人の地域枠を設けた。この枠では、卒業後に県内で薬剤師として9年間勤務すると、修学資金の返還が免除される仕組みだと説明した。

ワークショップでは「100年後も『ムヒ』を富山でつくり続けるために、若者が『働きたい』と思える会社・地域には何が必要か」を議論。Uターン者への家賃補助や転職直後の生活資金給付といった経済的支援、小中学校からのキャリア教育や祭りでの薬剤師ブース出展といった魅力発信、会社の周りの交通や商業の充実、薬剤師アイドルの創出など、バラエティーに富んだアイデアが提案された。

窓断熱から始める健康投資 YKK AP

テーマ2「住まいと環境」では、YKK APサステナビリティ推進部長の三浦俊介氏が講演した。同社はファスナーで知られるYKKのグループ会社で、1959年からアルミ建材の製造・販売を手がけている。

三浦氏は、家庭部門に求められる温室効果ガス66%削減という高い目標達成には、熱の出入りが最も大きい窓の断熱が鍵だと指摘。既存住宅の約7割は断熱性能が低いアルミ窓を使用しており、窓の断熱改修は冷暖房費の削減だけでなく、住宅内で多発する熱中症や冬場の健康リスクを軽減する「健康投資」としても価値が大きいと強調した。また断熱工事が地域の仕事を生み、経済循環にもつながる点を訴えた。

メンターを務めた、サステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ「nest」のブランドディレクター村瀬悠氏は、基調講演での加藤氏の「システムエラー」の話を引き合いに出し、理想と現実の差を課題として設定するよう助言した。

ワークショップでは「なぜ日本人は寒さを我慢するのか。『窓断熱』から始める健康投資のムーブメントを起こすには」を議論。熱の出入りを可視化するサーモグラフィーシートや、家の温度を調べるゲームアプリの開発、断熱性の異なる家で過ごす「24時間チャレンジ」企画、アルミ窓と樹脂窓を模型で比べる体験型の家庭科授業など、五感に訴えかける多様なアイデアが飛び出した。

「伝説」と「推し」で伝える

ワークショップ後、メイン会場に全員が戻り、2つのテーマそれぞれの代表チームが発表を行った。

テーマ1「地域産業の未来」の代表チームは「めでぃめでぃ富山~伝説を受け継ぐ~」と題して発表。「めでぃめでぃ」は薬(メディスン)から着想した呼び名で、ライチョウをモチーフにしたキャラクター「めでぃ~ちゃん」も考案した。

富山の薬の起源である、江戸城で腹痛の藩主を救ったとされる逸話をショートコントで披露し、ポップでキャッチーな表現が伝承の鍵だと訴えた。発表を受け、池田模範堂の奥野氏は「くすりの富山が若い世代に伝わっていないことがよく分かった。斬新でキャッチーなコピーで色んなアイデアを考え直しているのがいい」と評価した。

テーマ2「住まいと環境」の代表チームは、「推し窓革命~推しから変わる暮らしと未来~」と題して発表。色彩豊かなステンドグラスや外の景色を楽しめる大きな窓など、さまざまな窓の写真から「推し窓」を選んでもらう企画を起点に、データを活用した断熱性能の訴求、カフェなど商業施設への窓の設置、窓そのものを広告として活用する、という3段階の構想を提案した。

YKK APの三浦氏は「窓の会社で何十年も働いてきて、初めて推された」と驚き、「大人に無理だと言われても、自分の信念を持って調べまくって突破してほしい」と高校生たちにエールを送った。

最後に、基調講演に登壇した加藤氏が総評を述べ、「問いそのものを疑うこと」「自分の言葉で語ること」、そして若いうちに「調子に乗るほど頑張ること」の3つを呼びかけた。加藤氏の言葉は、参加した高校生たちの新たな挑戦を後押しするもので、未来のまちづくりへの可能性を感じさせながら、大会は幕を閉じた。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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