• 公開日:2026.10.13
子どもの権利から考えるこれからのビジネス――企業が知るべき視点
【子どもの権利とビジネス原則】第6回 気候危機の時代に企業は子どもの声を聴いているか
  • 堀江 由美子

連載最終回となった今回は、「子どもの権利とビジネス原則」の原則7「環境との関係および土地の取得・利用において、子どもの権利を尊重し、推進する」を取り上げたい。

子どもの権利と環境問題は切り離せない

近年、「ビジネスと人権」の取り組みは世界的に加速し、日本でも多くの企業がサプライチェーンを含む人権リスクの把握と対応に取り組んでいる。一方で、企業活動が環境や土地利用を通じて人々の暮らしに深刻な影響を与える事例は、依然として後を絶たない。特に開発途上国や新興国では、大規模インフラ開発、鉱物資源の採掘、再生可能エネルギー事業、農地開発などを巡り、環境破壊や土地収奪、人権侵害が繰り返し指摘されている。

「子どもの権利とビジネス原則」の原則7は、企業に対し、自社やサプライチェーンの事業活動を通じて生じる環境への負の影響を最小化し、土地取得や利用において十分な協議、情報提供、補償を行い、人々の土地や生活基盤を不当に奪わないことを求めている。大規模開発による強制移転や水質・大気・土壌の汚染、森林破壊などは、地域社会全体に影響を与えるが、その中でも最も大きな影響を受けるのが子どもたちである。

影響評価に「子ども」という視点を

従来、環境問題と人権問題は別々に議論されることが多かった。しかし近年では、森林破壊や生物多様性の損失などは、いずれも人々の権利に直接影響する人権問題として認識されるようになっている。特に子どもは身体的にも社会的にも脆弱(ぜいじゃく)であり、大人よりも深刻な影響を受けやすい。

例えば電気自動車や再生可能エネルギーの普及に伴い、リチウムやコバルト、ニッケル、銅などの重要鉱物の需要が増加しており、それに対応するため鉱物資源の採掘は急速に拡大している。そしてその影響で、水質汚染や森林破壊、住民移転の問題が各地で報告されている。脱炭素に寄与する事業だから許されるということではなく、その過程で地域住民、とりわけ子どもの権利が犠牲になってはならない。

こうしたリスクに対応するため、企業には環境・人権デューデリジェンスの強化が求められる。重要なのは、環境や人権の影響評価を行う際に、「子ども」という視点を意識的に組み込むことである。事業によって安全な水へのアクセスが失われれば、子どもの健康や発達にどのような影響を及ぼすのか。土地収用や住民移転によって家族の生活基盤が失われれば、子どもの教育機会や保健サービスの利用、遊び場、安全な生活環境にどのような影響が及ぶのか。こうした問いを事業判断の中に取り入れることが求められている。

気候変動が子どもにもたらす影響

原則7の重要性は、気候変動の影響が年々顕著になる中で、さらに高まっている。世界各地で頻発する猛暑、洪水、干ばつ、森林火災、暴風雨は、もはや将来世代のみならず、現在を生きる子どもたちの権利にも深刻な影響を及ぼしている。学校の閉鎖や教育機会の喪失、安全な飲料水や食料へのアクセスの悪化、感染症や栄養不良の拡大など、その影響は多岐にわたる。セーブ・ザ・チルドレンの報告書によると、2020年に生まれた子どもたちは、1960年に生まれた世代と比べて、生涯を通じて格段に多くの異常気象や災害を経験することが示されている。

こうした状況を受け、2023年に国連子どもの権利委員会は「一般的意見26号(特に気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)」を採択した。これは気候変動や環境破壊から子どもの権利を守ることが締約国の義務であることを明確に示した包括的な指針となる。

一般的意見26号では、環境問題が子どもの権利の問題として明確に位置付けられ、子どもたちが清潔で健康かつ持続可能な環境で生活する権利を有すること、そしてその権利を守るために政府だけでなく企業にも重要な責任があることが示されている。企業活動による環境汚染や温室効果ガス排出、生物多様性の損失が子どもの権利に負の影響を与える場合、企業はその影響を特定し、防止し、軽減するための措置を講じなければならないということだ。

求められる「子どもの参加」の視点

さらに、一般的意見26号が強調する重要なポイントが「子どもの参加」(子どもの意見表明権)である。気候変動に関する国際会議や政策形成の場では、近年、子どもや若者の参加が広がっている。企業活動においても同様に、子どもを単なる保護の対象としてではなく、自らの意見を持つ権利の主体として、また事業の重要なステークホルダーとして捉える必要がある。

従来、環境影響評価や住民協議といえば、大人の住民や地域リーダーとの対話が中心であったが、気候変動や環境破壊の影響を最も長期間にわたって受け続けるのは子どもたちである以上、地域開発や資源開発、再生可能エネルギー事業、あるいは気候変動対策の取り組みにおいても、子どもたちがどのような影響を受けるのかを評価し、その声に耳を傾け、政策や企業の意思決定に反映させることが求められる。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2022年に15歳から18歳の日本の子ども1085人を対象に実施した気候変動と経済的不平等に関する調査では、約半数の子どもが、大人の取り組みは不十分であり、もっと行動すべきだと考えていた。また、既に何らかの行動を起こしている子どもは他国のデータと比較して多くはないものの、4割近くの子どもが今後行動を起こしたいと考えていることが示された。子どもたちは、決して受け身ではないのだ。

コソボ共和国で気候変動に関するデモを行う若者たち ©Laura Hewison /Save the Children 

その象徴的な例が、世界各地で広がる気候訴訟である。若者や子どもたちは、気候変動対策の不十分さが自らの権利を侵害しているとして、政府や企業に対し行動を求める訴訟を起こしている。2023年に米国モンタナ州で子ども・若者16人が原告となり州政府を訴えて勝訴した例をはじめ、気候変動による負の影響を司法が「人権侵害」や「憲法違反」と認める画期的な判断が相次いでいる。

日本でも若者たちによる気候アクションが広がっている。気候変動対策を求める提言活動やキャンペーンへの参加だけでなく、近年では気候訴訟を含め、意思決定の場に若者自身が声を届ける動きが見られるようになった。これらは単なる環境運動ではなく、自らに関わる問題について意見を表明する、子どもの権利の実践そのものである。

子どもは未来の受益者ではなく、今を生きる権利の主体

原則7が企業に対して問うているのは、単に「環境を守っているか」だけではなく、その取り組みの中で「子どもの今と未来に与える影響を理解し、子どもの権利と声を尊重しているか」ということである。気候危機の時代において、企業の持続可能性と子どもの権利はますます不可分になっている。企業が真に持続可能な未来を目指すのであれば、気候変動と環境問題を「子どもの権利」という視点から捉え直し、子どもたちを未来の受益者としてではなく、今を生きる権利の主体として、対話に迎え入れ、その声を事業や意思決定に反映していくことが求められている。

<参考資料>

報告書『気候危機の中に生まれて:子どもの権利を守るために、なぜいま行動を起こさなければならないのか(Born into the Climate Crisis: Why we must act now to secure children’s rights)』概要(2021年9月、セーブ・ザ・チルドレン)
https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/ExecutiveSummary_Japanese_BornintotheClimateCrisis_20210927.pdf#page=1

国連・子どもの権利委員会 一般的意見 26 号(2023 年)「とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境」(日本弁護士連合会サイト 日本語訳)
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/international/library/child/child_general_26.pdf

「気候変動と経済的不平等に関する子どもアンケート調査」(2022年9月、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/3995/1663142434730.pdf

本シリーズのコラムはこちらから全てお読みいただけます。

written by

堀江 由美子

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 部長

共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGs、子どもの権利とビジネスをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言や社会啓発に関わる。

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