学びの現場におけるESD(持続可能な開発のための教育)と国際交流の実践が、いかに社会課題の解決やESG経営を担う次世代育成につながるのか。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、朝日エルの岡山慶子氏のファシリテートで、国内外の教育現場から実践者らが登壇。ESDの先進事例について、多角的な議論が展開された。

Day2 ブレイクアウト

ファシリテーター
岡山慶子・朝日エル 会長

パネリスト
吳杕泳(オ・デヨン)・韓國 嘉泉大學 メディアコミュニケーション学科 教授 言論学 博士
原賢二・東京工科大学 工学部 応用化学科 教授
松野至・学校法人市邨学園 名古屋経済大学 市邨中学校・高等学校 ユネスコ平和教育推進部 主任
横山貴之・学校法人大阪医科薬科大学 高槻中学校・高槻高等学校 国際教育コーディネーター

「多文化共修」でグローバル社会の自覚を育てる

横山貴之氏

高槻中学校・高等学校(大阪府高槻市)の横山貴之氏は、ルクセンブルク、ベトナム、韓国、台湾、モロッコなど、世界各国と展開する教育実践を紹介した。横山氏が提唱するのは、ただ語学を学ぶだけでなく、水やエネルギー、食といった資源の活用を軸に、多文化間で協働して学び合う「多文化共修」だ。

「教科書の中の知識を学ぶのではなく、世界中の同年代と一緒に、今そこで起きている環境課題について対話し、解決策を探る」というプロセスを通じ、生徒たちは自らがグローバル社会の一員であることを実感する。横山氏は、こうした経験こそが、将来的に国際的なESG課題を自分事として捉えるための土壌になると語った。

平和教育のためのICT活用

松野至氏

市邨中学校・高等学校(名古屋市)の松野至氏は、ICTを活用した平和教育の取り組み内容を披露。「ICTの活用は手段に過ぎない。重要なのは、その先にどんな平和的対話を生むかという目的意識だ」と強調する。実際の授業では、匿名投稿機能を活用することで、普段は意見を出すのが苦手な子どもたちも積極的に議論に参加できるようにしたという。

また、海外の学校とリアルタイムでつなぎ、お互いに顔を合わせることで、遠い国の出来事を「自分たちの隣の課題」として認識させることにも成功している。松野氏は、「対面交流が難しい環境であっても、ICTを使えば『心をつなぐ』ことは可能であり、それこそが真の平和教育への第一歩だ」と力説した。

韓国におけるESG教育の実践

吳杕泳氏

韓国からオンライン登壇した嘉泉大學の吳杕泳(オ・デヨン)氏は、韓国の学校教育におけるESGの浸透状況を報告。「韓国ESG評価院」の評価委員としての知見からも、学校現場がいかに企業や地域社会のESG活動と連動しているかを論じた。

韓国では、教育課程の中に環境保護や社会貢献活動を組み込み、その効果を数値化・可視化する取り組みが進んでいるという。吳氏は「学生が将来企業に入社した際に、ESG経営を即戦力として推進できるような『ESDとESGのシームレスな接続』が重要」と説く。「若い頃の教育の影響は大きいからこそ、教育にもっと企業が入るべき。日韓の企業と教育現場がさらに協働していく形を作りたい」と述べた。

課題を体感し、技術で解決する次世代エンジニアに

原賢二氏

東京工科大学の原賢二氏は、ベトナム・ホーチミン市工科大学との相互交流活動について報告。「まず文化を知らないと、互いの理解は深まらない」として、日本からは茶の文化を、ベトナムからは民族衣装などの伝統文化を、それぞれ体験できるようなプログラムを用意しているという。

さらに2025年度からは「グローカルSTEAM教育推進プログラム」も開始。海外の学生とのリアルな交流を通して海外の社会課題を知った上で、その解決に向けた教育用デジタルコンテンツを学生らが開発、国内外の小中高に展開していく内容だ。原氏は「国を超えた相互理解の上で、技術で課題を解決できる次世代エンジニアを育成していく」と語った。

目的を見失わずに技術を駆使して

岡山慶子氏

セッション後半のディスカッションでは、それぞれの現場で感じた学生の変化や手応えが交換された。横山氏は「他国へのステレオタイプの解消」、松野氏は「互いにリスペクトすることで、自己効力感が高まっている」。また原氏は教員側の変化として「現地での交流を体験することで、教員たちも(国際交流の)教育における必要性を実感するし、共同研究のきっかけにもなっている」と語った。

これらの議論を受け、ファシリテーターの岡山慶子氏は「ESDの根底にあるのは『協働』であり『共有』だ」とセッションを総括。「ICTなどの新しい技術も、最終的には私たちがいかに手を取り合い、持続可能な未来に向けてつながっていくかという目的に帰結する。AIに聞いても分からないことはあるのだから、国境を越えて問いを共有できる状態であるべき」として、原点を見失わずにテクノロジーを駆使していく教育の在り方を提言した。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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