
サステナビリティ情報の開示基準が国際的に統一されつつある中、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定する新たな開示基準の適用が迫っている。企業は有価証券報告書での「法定開示」にどう向き合うべきか。単なるコンプライアンス対応にとどまらず、サステナビリティ情報を経営戦略や企業価値向上にどう活用していくのかが問われている。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、2025年度に全4回にわたって開催してきた「SB-Japanフォーラム SSBJ分科会」の総まとめとなる活動報告が行われた。同分科会でも進行を務めてきたSincの山吹善彦氏がファシリテーターとなり、公認会計士の森洋一氏、QUICKの山本高嗣氏、日本マクドナルドの牧陽子氏が、それぞれの立場からリアルな課題と解決策を語り合った。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 山吹善彦・Sinc 統合思考研究所 副所長 / 上席研究員 パネリスト 森洋一・公認会計士 山本高嗣・QUICK フェロー・ESGコンサルタント / 一般社団法人サステナビリティマネジメント&アシュアランス機構 理事 牧陽子・日本マクドナルド ソーシャル インパクト部長 / 一橋大学 非常勤講師 |
「投資家はなぜこの情報を欲しがるのか?」

公認会計士としてSSBJ基準の策定動向に詳しい森氏は、SSBJ基準が「法定開示」になる意味を強調。「これまでのサステナビリティレポートがいわば『自由演技』だったのに対し、これからは財務情報と同じ土俵での開示が求められる」と指摘する。
森氏が繰り返したのは、開示の目的を履き違えないことだ。「投資家は、サステナビリティ情報を単体で評価したいわけではない。それが将来の財務にどうつながり、企業価値をどう左右するのかを知りたがっている」。基準対応を「作業」にしないためには、「『投資家は、なぜこの情報を必要としているのか?』という原点に立ち返り、自社のビジネスモデルの依存性とインパクトを統合的に語り直す必要がある」と説いた。
ただの開示にしないための4ステップ

QUICKの山本氏は、事業会社でのESG推進責任者としての経験を踏まえ、サステナビリティ活動を単なる「開示」という点で見ないための、独自の「4つのステップ」を提示した。まず土台となる「ESGマネジメント」があり、それを基に「開示」を行う。さらに、その情報を投資家へ能動的に届けて「対話」し、最終的に得られた「フィードバック」を経営に反映させる——。この一連のサイクルが不可欠だという。
「経営者とステークホルダーの間には大きな『情報の格差』がある。その格差を埋めていくことが、安心感や信頼感につながる」と山本氏。最後に、こうした一連の活動の意義について、「最終的にはBS(貸借対照表)の右下(純資産)を安定させる仕事。これほどかっこいい仕事はない」と、実務者たちに向けて力強いエールを送った。
「情報がないから心配」と思わせないこと

日本マクドナルドの牧氏は、ブランドを背負う立場から現状認識を共有した。「世界100カ国以上で事業を展開するマクドナルドにおいて、サステナビリティの各要素は事業基盤そのもの。厳しい基準への対応は確かに負担は大きいが、自社の取り組みを客観的に見つめ直す絶好の機会にもなる」と語る。
牧氏は「開示基準が進めば進むほど、対応している企業とそうでない企業とで市場からの見られ方に大きな差が生まれる」と警鐘を鳴らし、「『情報がないからこの会社は心配だ』と思わせないこと。そのために、今日得られた知見を一つでもいいから次の一歩に生かしてほしい」と呼びかけた。
問われているのは事業活動そのもの

山吹氏は、本セッションのテーマである「SSBJの活用」の本質について、「重要なのは、経営者がちゃんと自分ごととして語れるかどうか」と総括。「自社の『フューチャー・オリエンテッド(未来志向)』な方向性や現在の活動を、いかに伝え、行動変容を引き出せるか。そこが非常に大きなポイントになる」と述べた。
SSBJを活用することは、単にチェックリストを埋めることではない。自社のバリューチェーン上の課題を財務視点で捉え直し、未来の企業価値向上へとつなぐための枠組みとして使い倒すことだ。開示義務化という波を、未来の企業価値を創るための「統合思考」の起点にするためのヒントが詰まった報告の場となった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













