• 公開日:2026.04.28
電力自由化から10年、その成果と逆流——再エネ社会はなぜ進まないのか
  • 環境ライター・箕輪 弥生

電力小売全面自由化から10年。電気料金の抑制や選択肢の拡大といった当初の目的は一定程度達成された。一方で、近年は中東情勢の緊迫化に伴い、化石燃料によるエネルギー供給の不確実性が改めて浮き彫りとなっている。

こうした外部リスクが高まる中、日本の電力システムは再生可能エネルギーの拡大による構造転換を十分に実現できているとは言い難い。むしろ足元では、制度の揺り戻しともいえる動きが顕在化している。

気候変動の加速や、エネルギー安全保障の観点からも解決策となる再エネは、なぜ主力電源化に至らないのか。2026年4月に電力自由化をテーマに開かれたシンポジウムの内容から、この10年の成果と課題を探る。(環境ライター 箕輪弥生)  

自由化の競争原理を阻む「政策的揺り戻し」

電力小売全面自由化から10年が経過し、日本の電力市場には一定の変化が生まれている。新規参入した新電力のシェアは2割を超え、従来の大手電力会社が独占していた市場構造には一定の競争原理が働くようになった。また、再エネの導入も進み、電源構成に占める割合は2割強にまで拡大している。とりわけ太陽光発電などは、発電量が増える時間帯に卸電力市場の価格を大きく押し下げる効果を持ち、電力価格の抑制にも寄与してきた。

しかし、その一方で、電力システム全体の構造が大きく転換したかといえば、必ずしもそうとは言い切れない。シンポジウムの主催者でもある「パワーシフト・キャンペーン」代表、国際環境NGO FoE Japanの吉田明子氏は、「電力自由化以降、大手電力中心の構造を維持しようとする政策的な揺り戻しが強まっている」と話し、その具体例として、「容量市場」や「長期脱炭素電源オークション」を挙げた。

容量市場は、電力のピーク需要に対応するために必要な供給力(容量)を確保し、その価値を取引する市場で、2020年度から始まった。大手も新電力も全ての電力小売事業者は、供給量に応じてこの費用を負担する仕組みだ。しかし、自前の発電設備が少ない新電力は、容量市場からの収入が少なく、費用負担だけが発生しやすい。一方、大手電力は大規模な電力設備を保有するため収入も大きく、仕入れ価格が抑えられる。吉田氏は「その結果、採算性の悪い化石燃料発電、原子力が支えられることにつながっている」と指摘する。

また長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新規投資を促すため、落札した電源に対して20年間にわたって固定で容量収入を保証する仕組みだ。再エネの普及を後押しするとうたっているものの、実際には設備寿命が長く、長期契約に適した原発や低炭素火力発電の延命策として機能している側面がある。

ガラパゴス化する日本のエネルギー事情

再エネの導入が進まない要因について、制度設計や電力システムの運用に内在する「見えない壁」が障害となっていると専門家は指摘する。

環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也所長は「太陽光や蓄電池のコストが世界的に劇的に低下し、エネルギー転換が加速する中、日本が制度設計の失敗や旧来の電力システムへの固執により著しく遅れている」と警鐘を鳴らす。

飯田氏によると、世界では過去10年で太陽光と蓄電池のコストは10分の1に低下した。その結果、2025年には太陽光が世界の発電量の10%を、電気自動車(EV)が新車販売の4台に1台を占めるなど急成長を遂げている。

「再エネ発電コストの推移」
出典:「電力自由化から10年の現在地とこれから」飯田氏作成


さらに、2023年のCOP28では「2030年までに世界の再エネ設備容量を3倍にする」ことが「UAEコンセンサス」として合意されたが、日本ではこの言葉自体の認知度が極めて低いと飯田氏は指摘。「エネルギー危機への意識が低く、解決策である再エネや蓄電池の導入で世界から遅れ、ブレーキをかけて逆走している状況にある」と分析する。

その象徴が、再エネの出力抑制だ。日本の再エネ比率は欧州主要国に比べて低い水準にとどまるにもかかわらず、出力抑制の実施率は高い。たとえば九州エリアでは、抑制率が8%を超える水準に達している。「柔軟性のない原発が最優先され、世界に例を見ない無制限・無補償の形で、燃料費ゼロの再エネを大量に捨て、高コストな火力を稼働させている」(飯田氏)。

2023年4月9日の九州電力の出力抑制 
出典:「電力自由化から10年の現在地とこれから」飯田氏作成

加えて、飯田氏はFIT(固定価格買取)制度設計の欠陥についても言及する。認定された年の価格で長期間固定するという日本独自の制度が、投機目的の権利取引と乱開発を招いた。その結果、高価格案件の負担を無用に増大させ、太陽光発電自体のイメージ悪化を招いているという。

「日本のFIT制度の致命的欠陥」
出典:「電力自由化から10年の現在地とこれから」飯田氏作成

ストーリー性と共感で消費者の支持を

技術や資金、再エネのポテンシャルも十分にあるにもかかわらず、エネルギー自給率が高まらない日本。エネルギー危機や気候変動の加速に対応するためにも、コストが低下した再エネを増やすことが最適解のはずだが、政策的には負のベクトルが多く存在するのが現実だ。

課題が山積する日本のエネルギー事情だが、新たな魅力を付加して消費者にアプローチしている新電力がある。

UPDATER(みんな電力)の大石英司代表は、2017年に「顔の見える電力」を事業化。電力のトレーサビリティを徹底し、環境破壊型の再エネを排除した結果、売上高340億円(2026年3月期見通し)、法人約4000社、個人約4万人の契約を得るまでに成長したと報告した。

特筆すべきは解約率の低さで、5年平均で個人1.1%、法人0.7%を記録。「共感でつながった消費者は離れない」と大石代表は胸を張る。

各地で地域電力の立ち上げを支援する「陸前高田しみんエネルギー」の小出浩平取締役会長は、価格志向から「物語」と「雇用」を重視する地域主導モデルへ転換することの重要性を説いた。

その具体例として、同地域でのソーラーパネル下でのブドウ栽培と発電を両立するソーラーシェアリングや、軽ワゴンのEVコンバージョン(電気自動車への改造)による地域モビリティの導入など、新たな手法による自律分散型の地域づくりを紹介した。

電力自由化が掲げた「選べる社会」は、制度としては実現し、魅力ある新電力が消費者を獲得している事例も見えてきた。次の10年でこの動きをさらに加速させ、実質的な力に変えるためには、電力システムの制度設計と市場環境の再構築が不可欠である。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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