
モルガン・スタンレーがこのほど、北米、欧州、アジア太平洋の個人投資家を対象に、サステナブル投資に関するアンケートを実施した。本記事ではその結果を、メキシコ国立自治大学教授で、サステナビリティ・コンサルタントとしても活動するアントニオ・ビズカヤ・アブド氏が考察する。
投資家の間でサステナブル投資への関心は高まっているものの、資金の配分はやや減少している。その背景には、市場が成熟し、投資リターンや環境・社会への貢献を裏付ける根拠が一層求められるようになっている現状があるという。(翻訳・編集=茂木澄花)
サステナビリティは衰退か、それとも変容か
サステナビリティの勢いは失われつつあるのだろうか?
今年に入って、こんな議論をよく耳にするようになった。
昨今の政治的な動き、経済的な重圧、はびこる反ESGの言説、規制改定、ますます慎重になる企業経営――こうした状況を見れば、サステナビリティが失速していると考えるのも無理はない。実際、企業がサステナビリティに関する発信を控えているような国もあるし、投資家からの質問が鋭さを増してもいる。経営陣の議題からサステナビリティは消えていない。しかしその言葉遣いは慎重になっており、財務の文脈で語られたり、リスクやレジリエンス、長期的な企業価値などに関連付けて語られたりすることが増えた。
サステナビリティは本当に廃れつつあるのか? あるいは形を変えつつあるのか? それを理解するのに役立つ手がかりはいろいろある。企業の取り組み状況がその一つだ。法規制、報告基準、訴訟、サプライチェーンの圧力、消費者の期待、物理的な気候リスクなども理解の助けになるだろう。
とはいえ、特に重要な手がかりはやはり「お金がどこに流れているか」だ。
お金で全てを説明できるわけではないが、市場の期待が具体的な投資行動として表れている分野を明らかにすることはできる。もしサステナビリティが本当にビジネス上の重要課題でなくなりつつあるなら、サステナブル投資の分野にはおそらく真っ先に変化が現れるだろう。
だからこそ、今回モルガン・スタンレーが発表した報告書「サステナブル・シグナル:個人投資家2026」は有用だ。北米、欧州、アジア太平洋の個人投資家2250人にアンケートを実施し、彼らがサステナブル投資に対してどのような姿勢を取っているかを調べたものだ。
関心は高まっているのに、資金配分は微減
報告書によれば、サステナブル投資に「非常に興味がある」または「まあまあ興味がある」と回答した個人投資家は、2025年から4ポイント増え、92%に上った。
一方、サステナブル投資への資金配分は、2025年の33%から31%に減少した。これは急落と言えるほどの減少幅ではなく、投資家の関心が離れたとは言えない。とはいえ、サステナブル投資に対する考え方と実際の行動の間に小さなギャップがあることが分かる。投資家が関心を持ち続けているからといって、自動的に資金配分が高まるわけではないのだ。
このギャップは、サステナブル投資の今後を考える上で重要な意味を持つ。
初期段階のサステナブル投資は、環境・社会課題への関心の高まりや、それを重視する価値観、幅広い投資需要によって発展した。投資家は環境や社会の課題を反映した金融商品を求めていたのだ。多くの企業やファンド、投資顧問業者が、ESGやインパクト投資、サステナビリティを掲げた提案を展開した。この段階があったおかげでサステナブル投資市場は拡大したが、その中で生み出された数多くの金融商品の品質や透明性、信頼性はまちまちだった。
これからの段階には、どうやらそれでは通用しないようだ。
投資家は依然としてサステナブル投資に関心を持っているものの、ますます厳しい基準で見るようになってきている。パフォーマンスを把握したいと考えているし、金融商品に何が組み込まれているのかを知りたいと思っている。質の高いデータや説明、ポートフォリオにサステナブル投資を組み込み続ける根拠を欲しがっているのだ。
サステナブル投資とはいえ、重要なのはリターン
このことは、モルガン・スタンレーのアンケート結果にも強く表れている。サステナブル投資に関心があると回答した人の45%は、その理由として「市場並みのリターンを得ながら社会に良い影響を与えられること」を挙げた。40%は「サステナブル投資の方が従来の投資より高いリターンをもたらす可能性があること」を挙げた。つまり、8割を超える回答者が、サステナブル投資においても財務的なリターンを関心の中心に据えているということだ。一方、「自分の価値観に沿った投資をしたいから」と答えた人は13%にとどまった。
多くの個人投資家は、サステナブル投資を、価値観に基づく特別な投資や、慈善の精神による選択として扱ってはいない。あくまで経済的な意思決定の一環と捉えているのだ。
個人投資家たちは、リターンをもたらし得る企業やファンドなどに投資しながら、環境や社会に貢献したいと思っている。それこそが、市場が成熟してきたことを示す強力な兆候だといえるだろう。
同じことが、資産配分の計画からも読み取れる。モルガン・スタンレーの調査によれば、64%の個人投資家が今後1年の間にサステナブル投資への資金配分を増やすことを計画している。その理由として最も多かったのは「サステナブル投資のリターンが、通常の投資に引けを取らないか、むしろ良いと確信していること」だ。一方、現状の配分を維持すると答えた人は28%、減らす予定と答えた人は5%だった。配分を減らす理由として最も多かったのは「リターンに満足していないこと」だった。
ここから読み取れるのは、サステナブル投資も他の投資戦略と同じ土俵で評価されるようになってきているということだ。環境や社会への影響に興味がある投資家もいるだろう。そうだとしても、やはり投資パフォーマンス、投資先の分散、金融商品の品質、そして根底にある論理的根拠は重視しているのだ。
このことによって、投資家への説明は難しくなるものの、市場にとっては健全な状態だといえる。
その難しさの要因の一つが、グリーンウォッシュだ。2025年から5ポイント増の32%の投資家が、グリーンウォッシュを「非常に重大な懸念」と評価している。また、透明性がなく、開示されているデータが信頼できないことも大きな障壁となっており、30%が「非常に重大な懸念」と回答した。
コミュニケーションの問題として扱われることが多いグリーンウォッシュだが、影響は広範囲に及ぶ。グリーンウォッシュは信用に関わる問題だ。主張の根拠が乏しければ、その商品は選ばれにくくなる。定義があいまいな言葉を使えば、投資家が比較検討することは難しくなる。サステナビリティに関する説明が抽象的すぎたり、測定可能なパフォーマンスとの結び付きが薄かったりすると、資金の流入は鈍る。
金融機関、企業、ファンドマネジャーが意識すべきことは明確だ。
市場が求めているのは、声高にサステナビリティを主張することではない。その主張を裏付ける、確かな証拠なのだ。
ひとくくりの「ESG投資」から具体的なテーマへ
報告書から読み取れるもう一つの重要なことは、投資家が重視しているテーマの幅の広さだ。
回答者の25%が最も重視していると答えたのは「環境と社会に関する目標を幅広く推し進めていること」だった。続いて多かったのが「金融包摂」(全ての人々が金融サービスにアクセスできるようにする取り組み)と「医療・健康」で、それぞれ15%だった。他の選択肢は「気候変動対策」「循環経済」「生物多様性の保全」「経済的エンパワーメント」「D&I」で、いずれも全体の5分の1以上の回答者が1番目か2番目に重視するテーマに挙げた。
サステナブル投資は、単に「ESG投資」とひとくくりにされる段階を超えて進化しつつある。投資家たちは、どういった分野に投資したいか、どんな成果を求めるかを具体的に意識するようになっている。
そのため、サステナブル投資市場にはこれまでと違うことが期待されるようになっている。単に「サステナブルな金融商品です」と提示するだけでは、投資家に投資戦略を理解してもらえない。投資家からの問いは、具体的になっている。「どのようなテーマにアプローチしているのか」「どんなリスクを管理するものなのか」「どのような機会を捉えようとしているのか」「その根拠となるデータは?」「長期的な価値創造にどうつながるのか」などだ。
同報告書から読み取れるメッセージは「サステナブル投資は廃れつつある」ということではない。「サステナブル投資は試されている」と読むのが妥当だろう。
サステナブル投資への関心は依然として高く、資金配分を増やそうと計画している投資家も多い。しかし、投資先の選定はますます厳しくなっている。財務リターンや、環境・社会課題に対する成果を裏付けるデータの重要性は増している。
このことから、サステナブル投資市場は、社会的な関心や理念によって拡大した初期段階から、成熟段階に移行していると言える。これからの資金の流れは、成果を示す証拠を示せるかどうかにかかっている。
| 【参考サイト】 Morgan Stanley How Individual Investors Are Approaching Sustainable Investing in 2026 https://www.morganstanley.com/insights/articles/sustainable-signals-individual-investors-2026 |














