• 公開日:2026.04.23
OIST・オリオンビール・ビズリーチが語る沖縄発の産学連携 価値創造の実態と課題
  • 眞崎 裕史

沖縄を起点に、大学の研究シーズをいかに事業や地域の価値創造へとつなげるか。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のランチセッションには、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の宮城康智氏、オリオンビールの齋藤伸太郎氏、ビズリーチの加瀬澤良年氏が登壇。サステナブル・ブランド ジャパン総責任者兼ESGプロデューサーの田中信康氏がファシリテーターを務め、産学連携の現場で生まれるコ・クリエーションの可能性と課題を語り合った。

Day2 ランチセッション

ファシリテーター
田中信康・サステナブル・ブランド ジャパン 総責任者 兼 ESGプロデューサー / Sinc代表取締役社長 兼 CEO

パネリスト
加瀬澤良年・ビズリーチ みらい投資プロジェクト 主宰
齋藤伸太郎・オリオンビール コーポレートバリュー・クリエーション部 部長
宮城康智・沖縄科学技術大学院大学 OIST Innovation サステナブル・エネルギー テストベッドプロジェクト ディレクター

田中氏は冒頭、自身がOISTのキャンパスに初めて足を運んだ時、「究極のサステナビリティの大学だ」と感じたと述懐。世界水準の研究機関が沖縄の緑深い丘陵に立地し、そこから産業界との接続を模索している姿に大きな可能性を感じたという。

「大学自体がスタートアップ」

宮城康智氏

OISTの宮城氏は「日本と世界の科学技術の発展に貢献する」「沖縄の自立的発展に貢献する」という2つの建学理念を紹介した。2011年に大学として認可されたOISTは、公用語を英語とし、世界80以上の国・地域から研究者や学生が集まる。学部を置かず、研究ユニット単位で学際的な研究を推進する点が特徴だ。

研究室の主宰者には5年間の予算と裁量が与えられ、好奇心に基づく研究に没頭できる環境が整えられている。宮城氏は、自然科学分野の主要論文の発表動向を示す「ネイチャー・インデックス」で日本国内トップ、世界9位に位置付けられた実績にも言及した。同時に、スタートアップ支援やインキュベーション施設の整備を進め、研究成果を社会に還元する体制を構築していることを紹介。自身が担当する「テストベッドプロジェクト」では、OISTのキャンパスを実証の場として活用し、企業や自治体と協働でエネルギーやモビリティなど沖縄特有の課題に取り組んでいると説明した。「OIST自体がまだスタートアップのような存在。成長フェーズに合わせて変革を続けている」と力を込めた。

沖縄と循環成長するオリオンの挑戦

齋藤伸太郎氏

オリオンビールの齋藤氏は、1957年の創業以来、沖縄とともに歩んできた同社の歴史を振り返った。「郷土の若者に勇気と希望を与えたい」という創業者の思いを出発点に、2019年の株主交代を「第2の創業」と位置付け、2025年には沖縄県の製造業として初めて東証プライム市場に上場した。

齋藤氏が「ぐるぐるモデル」と呼ぶ同社のビジネスモデルは、県民に寄り添った商品開発、観光客への沖縄体験の提供などが循環的に結び付く。オリオンビールのブランドが「ニアリーイコール沖縄」として機能するために、沖縄そのものが持続的であることが不可欠だと齋藤氏は強調。一方で沖縄には、産業構造の脆弱性や低賃金労働など構造的課題も多い。OISTとは2024年に産学連携協定を締結し、カーボンニュートラル社会に向けたエネルギーシステムの共同研究に取り組んでいる。齋藤氏は「世界最先端の研究機関が沖縄にある。その研究を沖縄にどう価値として落としていくかが産業側の期待だ」と述べた。

大学発スタートアップの「起業前」を支える

加瀬澤良年氏

ビズリーチの加瀬澤氏は、同社のサステナビリティプログラム「みらい投資プロジェクト」の中核である「EIRモデル」について説明した。大学発スタートアップには、研究段階と起業の間に障壁があるという。優れた研究シーズがあっても事業化を担う経営人材が不在で、有力な研究が埋もれてしまうという課題だ。

EIRモデルでは、ビズリーチのプラットフォームを活用し、経営知見を持つ「プロ人材」を副業・兼業の「客員起業家(EIR)」として大学に招へいする。2022年の慶應義塾大学との連携を皮切りに拡大し、2026年1月時点で19の研究シーズで実施してきた。2025年に締結したOISTとの連携協定について、加瀬澤氏は「ローカルにある生々しい課題と世界水準の研究が組み合わさることで、産業が生まれる可能性が高い」と判断したことを明かし、「このモデルを最先端の事例から当たり前のモデルにしていきたい」と語った。

中長期の視点で企業や大学、人材を育てる

後半のクロストークでは、OISTとオリオンビールの連携の具体像が深掘りされた。齋藤氏は「研究成果を社会に実装していくプロセスで一緒に取り組んでいる」とし、沖縄県北部で進める再エネ活用の見通しを語った。宮城氏は「地域の産業を作っていくという同じ目的に向かう仲間をどう作るかが大切だ。単にMOU(基本合意書)を結ぶだけでなく、志を共にする関係を築いていきたい」と応じた。

ビズリーチのEIRモデルの課題として、加瀬澤氏は「研究者と経営人材の相性」という人と人の問題を率直に挙げた。また、他大学での経験を踏まえ、「トップがコミットしていることがとても重要だ」と指摘した。

齋藤氏は企業と大学の時間軸の違いにも言及し、「2030年のCO2削減50パーセントに間に合うかという焦りがある一方で、基礎研究を縛ると成果が出てこない。そこはリスペクトしながら進めることが大事だ」と語り、宮城氏は「産業界との接点をどうオープンにしていくかが宿題だ」と応じた。

ファシリテーターの田中氏は最後に、3者に共通するのは「おもろいな」という原動力だと総括した。短期的な思考に陥りがちな時代にあって、中長期の視点で企業や大学、そして人材を育てていく姿勢が今こそ問われている。沖縄という場が持つ独自の文脈と、そこに集う多様なプレーヤーの連携が、日本の産学連携に新たな可能性を示すセッションとなった。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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