
専門部署がなくとも、サステナビリティを前に進める中小企業やスタートアップ。その原動力はいったい何か。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションに、ALGO ARTISの永田健太郎氏、東映の中村友美氏、ボーダレス・ジャパンの杉本大地氏が登壇。スタートアップの経営者、会社初の専任担当、現場の営業担当という三者三様の立場から、サステナビリティの実践が続く理由や突破口を語り合った。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 今津秀紀・Sinc 統合思考研究所 客員研究員 パネリスト 杉本大地・ボーダレス・ジャパン ハチドリ電力事業 永田健太郎・ALGO ARTIS 代表取締役社長 中村友美・東映 経営戦略部 サステナビリティ推進室 マネージャー |
ファシリテーターを務めたSinc統合思考研究所の今津秀紀氏は、冒頭でセッションの狙いを示した。大企業であってもサステナビリティ部門は少人数で運営しているケースが珍しくない。中堅・中小企業になればなおさらだ。今津氏は「少人数でも前に進めている人たちがいる。その知恵と工夫をぜひ持ち帰ってほしい」と呼びかけた。
AIの力で企業の計画を最適化

ALGO ARTISは「社会基盤の最適化」をビジョンに掲げ、エネルギー産業や製造業、物流における複雑な運用計画を最適化するAIソリューションを提供している。宇宙物理学を研究し博士号を持つ永田氏は、ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て2021年にALGO ARTISを設立。配船計画、生産計画、ダイヤ編成といった、現在もなお人手に頼っている領域に高度なアルゴリズムを適用し、コスト削減と環境負荷の低減を同時に実現している。
永田氏は具体的な事例として、日本製紙の木材チップ輸入における配船計画の最適化を紹介した。「社会基盤の最適化」の裏側にはサステナビリティへの強い思いが存在すると語り、「世の中を支える企業や産業が長期にわたって高いパフォーマンスを発揮し続けることを強く後押しする。それによって、人類全体の長期的な繁栄に寄与したい」と力を込めた。
専任1人で統合報告書を世に出す

東映の中村氏は2007年に入社し、映画やDVDなどの営業を15年、さらに不動産部門を経て、2025年4月にサステナビリティ推進室へ異動した。東映は仮面ライダーやドラゴンボールなど多くのIP(知的財産)を所有する映像・エンタテインメント企業だが、単体の従業員数は450人弱。サステナビリティ推進室は2025年1月に発足したばかりで、中村氏が初の専任担当となった。
着任時、統合報告書の発行はすでに決定事項だった。しかし情報収集や部署間連携の体制は整っておらず、混乱した状態からのスタートだったという。中村氏はまず関連資格を複数取得して知識の土台を固め、15年の営業経験で培った社内人脈を生かして各部署との対話を重ねた。2025年12月には東映グループ初の統合報告書を発行し、有価証券報告書のサステナビリティ記載やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づくシナリオ分析まで1年でやり遂げた。中村氏は「お金をかけたら元を取る、やるなら納得できるものを出す。その気持ちで走った」と率直に振り返った。
思いの共有で仲間を増やす

ボーダレス・ジャパン運営のハチドリ電力で事業開発とセールスを担う杉本氏は、学生時代にフィリピンのスラム地域で貧困問題の現場を目の当たりにし、社会課題に向き合う決意をしたという経歴の持ち主だ。ボーダレス・ジャパンはソーシャルビジネスのみを手がける企業で、世界13カ国で50の事業を展開しているという。
ハチドリ電力は自然エネルギー100%の電力のみを販売。全国250カ所以上の再生可能エネルギー発電所と直接契約し、メガソーラーからの買い取りは行わない。さらに電気代の1%を再エネ発電所の整備に、もう1%を利用者が選んだ社会貢献団体や地域活動への寄付に充てる仕組みを持つ。杉本氏は兵庫県の神鍋地域との連携事例を挙げ、電気という目に見えない商材を地域やコミュニティとのつながりとして可視化する取り組みを紹介。営業の8割は「一緒に子どもたちの未来を守ろう」という思いの共有であり、コストの話は残りの2割にすぎないという。「毎日、仲間集めのつもりで事業を拡大している」と杉本氏は語った。
何が実践を「続かせる」のか
後半のパネルディスカッションでは、ファシリテーターの今津氏が「実践が続いている原動力は何か」と切り込んだ。

永田氏は、原動力は顧客側のニーズにあると指摘した。労働人口の減少で工場が立ち行かなくなるリスク、在庫や納品遅延のリスク、環境負荷削減の必要性。こうした課題が企業の中に自然発生的に生まれ、それに対してソリューションを提供することでビジネスが成立しているという。さらに永田氏は「サステナビリティは主語が何かで意味が変わる。企業のサステナビリティ部門のミッションは、自社の持続可能性を向上させることだ」と述べ、収益性やコーポレートリスク、外部環境への対応など、企業の存続に必要でありながら見落とされている課題をあぶり出し、対処することこそ、サステナビリティ部門の本来の役割だと強調した。
中村氏は、属人化しない仕組みづくりに注力していると明かした。各部署にとってサステナビリティ対応は本業以外の追加業務と受け止められがちだが、丁寧に説明と対話を重ね、点と点をつないで線にしていく。実際に社内の理解者は増えており、「結果が伴えば理解は深まる。卵が先かニワトリが先かみたいな話だが、まず動いて形にすることが大事」と語った。
杉本氏はボーダレス・ジャパンの組織文化に触れ、「会社を神格化しない」という表現を用いた。社員が売上達成のために働くのではなく、会社のパーパスについてきている状態が大切だという。会場からの質問に対しても「売上や利益のために動くのではなく、ミッションに共感した仲間が集まることが、持続可能な組織作りのポイントではないか」と指摘し、セッションを締めくくった。
3氏の言葉に共通するのは、「外圧」や義務感だけでは推進力にならないという実感だ。事業そのものとの接続、組織の中での信頼関係の構築、そして自分ごととしての原体験。規模や業種を超えて、サステナビリティを「回し続ける」ための手がかりが詰まったセッションとなった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













