
社会における自社の存在意義「パーパス」を掲げる企業が増える中、それを実際の事業活動に組み込めている企業はまだ多くない。本記事では、長年、サステナビリティ経営を目指す企業のコンサルティングを手掛けてきた筆者コロ・ストランドバーグが、「品質管理」を通じてパーパスを実行に移す方法を提案する。
パーパスを基に品質基準を定義することで、日々の業務や意思決定にパーパスを反映できるという。ここでの「品質」は、狭い意味での製品やサービスの品質だけでなく、環境への影響や安全性、意思決定の仕組みなども指す。単なるお題目ではないパーパスの活用について、実例も交えて考える。(翻訳・編集=茂木澄花)
筆者は最近、品質管理を推進するグローバル組織である国際品質アカデミー(IAQ)から、品質管理とパーパスの関係について講演依頼を受けた。これまで直接的には考えたことがなかったテーマだ。
すぐに2つの問いが浮かんだ。「良い品質とは何か?」そして「何のための品質か?」
私の結論はこうだ。パーパスは品質を定義し、品質はパーパスを実現する。
品質はパーパスを実現する
私は約30年間、サステナビリティとパーパスについて企業に助言してきた。その間、企業が負う社会的な責任は増え、品質管理を通じてそうした責任を果たす仕組みが着実にできてきた。1987年に初公開されたISO 9001を基盤として、1996年公開のISO 14001で環境への責任がビジネスの仕組みに組み込まれた。2018年公開のISO 45001では、職場の安全と健康にも品質管理のアプローチが応用された。期待される水準を、経営方針や業務の手順、管理、監査などに組み込んだのだ。
昨今、パーパスもビジネスの仕組みに組み込まれつつあるが、パーパスが品質管理にもたらす課題は一段深いものだ。品質管理の仕組みは、定義した基準値に対してパフォーマンスを最適化するよう設計される。従来、基準値は製品の品質、環境への影響、安全性を中心に決められていた。しかし、パーパスはもっと根本的に「どんな品質を目指すべきか?」という問いを提起する。
パーパスが組織の存在意義を定義するなら、品質管理も、効率や一貫性、コンプライアンスだけに注力していて良いはずがない。システム、プロセス、そして事業成果が、パーパスを実現するのに最適な状態になっている必要がある。品質管理は、抱負として掲げていたパーパスを実行に移すメカニズムとなり得るのだ。
パーパスは品質を定義する
品質管理の仕組みが、重要事項を最適化するように設計されているなら、パーパスは品質自体を定義する基準になる。パーパスは「良い品質」とは何かを明確にする。製品やサービスの品質だけではなく、意思決定、トレードオフへの対応、事業成果の望ましい形も見えてくる。つまりパーパスは、パフォーマンスの良し悪しを判断する基準を設定するのだ。
この文脈において、品質管理とは、もはや仕様に適合することや欠陥品を減らすことだけを目指すものではない。組織の仕組みや成果物が、その存在意義を果たすように設計されているかどうかの問題だ。パーパスによって企業が説明責任を果たすべき範囲が広がり、品質の基準も変わってくる。
パーパスを持つ企業は、次のように品質管理を活用できる。
| ・経営層の責任、品質の方針、目標にパーパスを組み込み、戦略と業務計画を策定する。 ・継続的に改善を進め、掲げたパーパスと実際の成果のギャップを埋める。 ・パーパスを体系立てて確固たるものにし、単なる美辞麗句から実際の行動に移行する。 ・経営層や管理職が、真にパーパスを「自分事」にする。 ・ビジネスの中心にパーパスを据えるための基盤を築く。 |
こうして見ても、パーパスの推進は品質管理の基準になるといえる。望ましい品質を実現するための基盤を作り、何を最適化すべきかを定義するのだ。
品質管理にパーパスを組み込むことは、企業のリスクやガバナンス、説明責任をいかに捉え直すかということにもつながってくる。パーパスをうわべだけのお題目として扱うのではなく、経営システムの中核に組み込む必要性が高まるのだ。
パーパスを品質管理に組み込んでいる事例
パタゴニア(米国/アパレル・アウトドア用品)
パタゴニアは「デザイン品質」「製造品質」「使用時の品質」を通じてパーパスを体現している。これら全ての品質が、同社のパーパス「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む(We’re in business to save our home planet.)」を直接裏付けているのだ。品質管理が、パーパスを長期的に維持する仕組みとして機能しているといえる。
「やりかけの仕事(Work in Progress)」と題した同社のインパクトレポートを見ると、パーパスが品質を定義していることが分かる。デザイン、製造、使用における製品の品質について、下記のようにパーパスに基づく明確な基準を設定しているのだ。

これらの基準から、品質管理が長期的にパタゴニアのパーパスを実現し、説明責任を果たすためのメカニズムとして機能していることが分かる。
ブリティッシュ・コロンビア・ロッタリー・コーポレーション(カナダ/エンタメ)
パーパスのガバナンスを経営の基盤に据えている同社は、3カ年の「社会的パーパス統合ロードマップ」を策定し、取締役会で承認した。このロードマップは、筆者が作成した体系的なパーパス評価ツール「ソーシャル・パーパス・アセスメント」を参考にして作成されたものだ。パーパスを単に抱負として掲げるのではなく、計画し、順序立てて管理しており、組織運営の仕組みに組み込んでいる。
アーマー・バルブ(カナダ/工業機器)
アーマー・バルブにとって、パーパスと品質は切り離せない関係だ。同社の製品は危険な作業環境で使用されるため、不具合があれば重大な被害をもたらし得る。そのため同社は「品質にとことんこだわる企業」を自称する。背景には「自社の製品や提案によって被害をこうむる人が1人たりとも出てはならない」という信念がある。パーパスがあらゆる職務に組み込まれ、規格、試験、責任の明確化などによって裏打ちされている。品質こそが、パーパスを実現し、守る手段なのだ。
コースト・キャピタル(カナダ/金融サービス)
同社は、パーパスを意思決定のレンズとして、選択やトレードオフの検討に使っている。意思決定の際、事業活動や取り組みを「パーパスを推進する(purpose-driving)」「パーパスに逆行する(purpose-contra)」「どちらでもない(purpose-neutral)」のいずれかで評価するのだ。これにより、日々の実務からパーパスを考慮するようになっている。事業活動が「パーパスに逆行する」または「どちらでもない」とされる場合は、どうすれば「パーパスを推進する」に変えられるかを問われることになる。この体系的なアプローチによって、新製品にパーパスを組み込む意思決定がなされるなど、イノベーションが起こっている。
上記4つの企業において、パーパスはうわべだけのお題目ではなく、品質そのものの捉え方や実現の手段に組み込まれている。
パーパスには実行の仕組みが必要
経営層にとって、パーパスを実行に移す仕組みを作ることは、事業運営に直接関わる課題だ。現状の仕組みで自社の存在意義を果たせていないなら、品質基準も達成できているとはいえない。経営がうまく行っている企業は、自社の存在意義を理解しており、経営システムはそのパーパスを果たすよう設計され、最適化されている。
パーパスは単体では存在し得ず、実行の仕組みが必要だ。品質管理こそが、その仕組みになり得る。意思決定やトレードオフの検討にパーパスを反映し、期待する成果や継続的な改善につなげられる。
パーパスを品質管理に組み込むことは、ややこしいことではなく、むしろ全社レベルで品質の定義をはっきりさせる。そして、自社のシステムが最終的に何を実現するためのものなのかが明確になるのだ。
| 【参考サイト】 Social Purpose Assessment https://purposeeconomy.ca/wp-content/uploads/2025/01/Social-Purpose-Assessment-2025.pdf Patagonia 2025 Impact Report https://www.patagonia.com/progress-report |













