
サステナビリティの取り組みを社内外にどう伝え、巻き込み、広げていくか。多くの企業が頭を悩ませる「コミュニケーションの壁」を打ち破るヒントはどこにあるのか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッション「こうすれば伝わる、広がる、我が社のサステナビリティ」では、規模も業種も異なる3社が登壇。サステナブル・ブランド国際会議カタリストの高島太志氏をファシリテーターに、コクヨの井田幸男氏、ユニリーバ・ジャパンの岩﨑有里子氏、バリューブックスの鳥居希氏が、等身大のコミュニケーション戦略と組織文化の醸成について実践的な議論を交わした。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 高島太士・サステナブル・ブランド国際会議カタリスト(コミュニケーション分野) / 一般社団法人 NEWHERO 代表 パネリスト 井田幸男・コクヨ CSV本部サステナビリティ推進室 理事 岩﨑有里子・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス Head of Communications 鳥居希・バリューブックス 代表取締役 / 一般社団法人B Market Builder Japan 共同代表・理事 |
しくじりも公開する「実験カルチャー」

コクヨの井田氏は、冒頭「サステナブルは、本来はクリエイティブでポジティブなものだ」と切り出した。同社では、余白の中からイノベーションが生まれる「自律協働社会」を目指し、「実験カルチャー」を社内に向けて大切にしているという。
例えば商品開発においては、障がいのある社員を巻き込んだインクルーシブデザイン「HOWS DESIGN」を実践。「(障がい者の)法定雇用率の順守」といった守りの姿勢ではなく、ユーザー起点の行動観察から本質的な価値を生み出そうとしているという。また、社員が自身の業務時間の20%を使って同社の未来づくりに挑戦できる「社内副業」制度もユニークだ。若手社員の提案から5年前にスタートしたこの制度には、現在年間120〜150人が参加し、世代を問わず多くの社員が自律的に挑戦する風土が根付いているという。
井田氏は「活動のプロセス、さらには『しくじり事例』も社会にオープンに公開していくことで、仲間づくりをしていきたい」と語り、完成された成果だけでなく、試行錯誤の過程を見せることが共感につながると強調した。
パーパスからサステナが消えても

グローバル消費財メーカーのユニリーバは、長年掲げてきた「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスを、新たに「輝く毎日をすべての人に」へと刷新した。
ユニリーバ・ジャパンの岩﨑氏は、「新しいパーパスから『サステナビリティ』という言葉が消えたときは、社内でも若干のざわつきがあった」と明かす。その懸念を払拭するため、社員一人ひとりが新パーパスをどう捉え、自身の業務にどう直結しているかを問うインタビューを実施し、日本独自のパーパスムービーを社内向けに制作するなど、対話を通じた丁寧な浸透を図ったという。
具体的な取り組みのペースも落としていない。事業戦略「Our Growth Action Plan 2030」のもと、「気候」「自然」「プラスチック」「生活水準」の4分野に注力。2039年までのバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量ネットゼロや、2026年までに非再生プラスチック使用量を30%削減するといった明確な目標を掲げ、四半期ごとに進捗を管理しているという。
「不完全さ」を恐れず開示して

長野県上田市を拠点に古本の買取・販売を行うバリューブックスの鳥居氏は、「不完全な私たちによるコミュニケーション事例」と題して等身大の取り組みを語った。同社は「日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える」をミッションに、買取で値段がつかない本を活用した「本だったノート」を製作するなど、事業とサステナビリティの一体化を進めている。
現在、同社は10億円を投資して自動搬送ロボットを導入する大きな変革期にある。「単純作業はロボットに任せ、人間が生み出せる価値を追求していく」という移行期において、社内外とのコミュニケーションは極めて重要になる。鳥居氏は、役員会での生々しい議論を振り返り、「『そんなことも決まってないの』と思われることを恐れないようにしている」と明かした。
さらに、社内の文化づくりを一部の人間だけでなく全体に広げる「民主化」の重要性に触れ、未完成な状態を恐れず開示していく勇気こそが、著者や出版社、読者との共存共栄のプラットフォームづくりに不可欠だと語った。
必要なのはパーパスそのものではない

3社の共通点は、最初から完璧を装うのではなく、自社の現在地や課題を素直に開示し、ステークホルダーと共に歩もうとする姿勢にあった。ファシリテーターの高島氏は、鳥居氏の発言を踏まえ「もはやミッションやビジョンそのものが必要なのではなく、プロセスを組織内外に共有していく『民主化』が重要だということ」と議論を総括した。
企業が自らの弱さや未完成な部分を隠さず、等身大の言葉で語りかけるとき、ステークホルダーは単なる「顧客」から、共に社会課題の解決を目指す「仲間」へと変わる。高島氏は「今日の議論を、皆さんが明日から実践できるヒントとして活用して」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













