• 公開日:2026.09.25
日本は欧州外でトップに 「環境パフォーマンス指数」から見えた強みと課題
  • 遠藤 康子
image credit: Unsplash (Photo by Irewolede)

地球温暖化に伴い、世界各地で異常気象が頻発し、災害が激甚化している。しかし、人々の暮らしを守る政府はただ手をこまねいているわけではないはずだ。各国が講じている環境対策や気候変動緩和策は、いったいどのくらいの成果を上げているのか――。

世界各国の進捗度合いがひと目でわかるランキングが発表され、日本は幅広い指標で高い順位をマークした。とはいえ、手放しで喜ぶわけにはいかない。世界全体を見渡せば、2050年ネットゼロ達成の前には暗雲が漂っている。

47の指標に基づいて177カ国をランキング

2026年環境パフォーマンス指数(EPI)が7月9日に発表された。米イェール大学環境法政策センターなど、イェール大学とコロンビア大学の研究者らが隔年で、国レベルの気候変動対策や環境保全政策について科学的データを基に評価し、ランク付けしている指数だ。

2026年版は、3つの政策目標を軸にした12の課題・47の指標に基づいて、177カ国の環境パフォーマンスを測定した。

政策目標、課題、主な指標は以下の通り。

環境衛生(Environmental Health)

  • 大気の質:有害物質に起因する障がい調整生命年(DALY)率、有害物質への暴露水準
  • 公衆衛生/飲料水:不衛生な設備や飲料水に起因するDALY率
  • 重金属:鉛暴露
  • 廃棄物管理:持続可能な固形廃棄物の管理

(編注:DALYは、早死にで失われた年数と、病気や障がいで健康な生活が損なわれた年数を合計した指標)

生態系の持続力(Ecosystem Vitality)

  • 生物多様性/生息地:自然環境や種の保護、生物多様性
  • 漁業:漁獲廃棄、底引き網漁
  • 森林:樹木被覆の消失
  • 草原:草地転換
  • 大気汚染:窒素酸化物と二酸化硫黄の排出削減
  • 農業:リン酸余剰、作物生産の効率性、生物多様性への農薬汚染リスク
  • 水資源:生活排水処理

気候変動政策の目標(Climate Change Policy Objective)

  • 気候変動緩和策:CO2やメタンなどの排出削減、2050年温室効果ガス排出予測

上位独占の欧州諸国、下位に沈むグローバルサウス

image credit: Environmental Performance Index

ランキング上位に名を連ねたのは欧州諸国だ。1位のエストニアと2位のルクセンブルクは前回2024年と変わらず、3位以降は英国、フィンランド、オランダ、ドイツ、フランス、ノルウェー、スウェーデン、オーストリアが続いた。上位20カ国をほぼ欧州勢が占め、日本が唯一、16位に食い込んでいる。

イェール大学によると、エストニアが1位をキープできた主な要因は、同国が過去10年にわたり、再生可能エネルギーの促進と化石燃料の生産停止に取り組み、温室効果ガスを40%削減したことにある。ただし、エネルギー移行による成果は一過性のものであり、真のネットゼロを実現するためにはさらなる努力が必要だという。

トップ10に入った他の欧州諸国も、温室効果ガス排出量を大幅に削減したことが大きな原動力となった。その一方で、農業関連の指標は低迷し、環境負荷への対処に苦慮する国が多い。欧州諸国の気候戦略は奏功しているが、自然の限界に達しつつあるものも少なくなく、今後も同じペースで成果を上げていける保証はないと、研究者は指摘している。

欧州以外の国で30位以内に入ったのは、日本(16位)、オーストラリア(25位)、米国(27位)、カナダ(29位)だった。米国は環境衛生の分野で高い評価を得たが、生物多様性の保護や気候変動緩和策が振るわなかった。世界最大の温室効果ガス排出国である中国は、室内の空気汚染や水の衛生などで改善が見られたものの、気候変動緩和策が足かせとなり129位。クリーンエネルギーやバッテリー技術への投資で得た成果が石炭火力発電への依存で相殺されているという。

一方、最下位のラオスをはじめ、インド、バングラデシュ、ベトナムなど東南アジア・南アジア諸国と、ブルンジ、モーリタニア、ルワンダ、チャドなどサハラ砂漠以南の国々が下位に沈んだ。これらの国々は、大気や水の汚染、農業や森林破壊、気候変動の影響による生態系への負荷といった共通の課題を抱えている。

報告書は、高所得国がほぼ全ての指標で低所得国のスコアを大幅に上回っていることに言及し、環境インフラやガバナンスへの投資力の違いを指摘。高所得国が環境負荷の大きい産業をグローバルサウスに委託していることも背景にあるとしている。とはいえ、所得の高さが全てを決めるわけではなく、どの所得水準であれ、高い成果を上げる国もあればそうでない国もある。リソースが限られていても、確かな環境ガバナンスや綿密な経済計画、戦略的な投資により、状況改善が可能であることをデータは示している。

欧州外でトップに立った日本の強みと弱み

日本は、2024年の27位から16位へと順位を大きく上げた。政策目標別では、環境衛生が19位、生態系の持続力は39位、気候変動政策の目標は18位という結果だった。

指標を詳しく見ていくと、鉛への暴露による死亡数・疾病数の少なさ、大気汚染物質の少なさ、海洋生息地の保全率の高さ、生活排水の安全処理などが高く評価された。

これに対し、芳しくないのが農業関連の課題だ。まず、リンの過剰使用を示す指標が164位と、最下位グループにある。リン酸は肥料の三大要素の1つで、余分にまかれると河川を通じて海に流出し、富栄養化が起きて赤潮を引き起こす。農薬汚染による生物多様性リスクも155位と低迷しており、欧州諸国と同じく、農業の持続可能性が課題であることが浮き彫りになった。

各指標には過去10年間の変化率も付記されており、改善しているのか後退しているのか傾向がわかる。日本の場合、種の絶滅リスクを示すレッドリスト指標の順位が153位と低く、過去10年でマイナス6.92と悪化も見られる。生息地の喪失や劣化を推定する生物多様性生息地指数(127位)も過去10年でマイナス0.81と、厳しい状況だ。また、森林被覆の消失は、順位こそ49位とさほど低くないものの、過去10年の変化率はマイナス4.13となっており、森林が減少傾向にあることが読み取れる。

多くの課題で進捗スピードが鈍化

2026年版では、温室効果ガス排出削減パフォーマンスの評価基準がより厳しくなり、気温上昇1.7℃というベンチマークが設けられた。ただ、この数値を達成できるペースで排出量を削減している国はほとんどなく、2050年のネットゼロ実現は厳しい状況だ。汚染対策や自然資源の管理に関するさまざまな課題も進捗が鈍化しているという。

報告書の筆頭著者ザック・ウェンドリング氏はプレスリリースで、「2050年ネットゼロ達成という目標に向けてこのまま取り組んでいくのであれば、継続的に排出量を大幅削減していく必要があります。そのためには、新たな政策をこれから追加していかなくてはならないでしょう」と述べている。

今回はさらに、47指標の半数以上で解析や追跡にAI技術が活用され、新たな洞察やより正確な状況把握につながったという。例えば、これまでは追跡がほぼ不可能だと思われていた草原の保全状況の指標を追加し、AIで追跡したところ、世界各地の草原が人的活動や気候変動によって脅威にさらされていることが明らかになった。

2026年環境パフォーマンス指数は、主に2024年までのデータを基にしているため、ウクライナ紛争やデータセンターの急増、米国の政策変更、イラン戦争による混乱といった最新情勢はランキングに十分に反映されていない。

<参照資料>

『Environmental Performance Index 2026』
https://epi.yale.edu/downloads/epi2026pmsum2026-07-06.pdf
written by

遠藤 康子(えんどう・やすこ)

フリーランス英日翻訳者。英語講師、日本語講師を経て、現在はウェブニュース、雑誌記事、書籍の翻訳を手掛ける。訳書に『子どものためのセルフ・コンパッション』(創元社)など、共訳書に『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう。』(SSIR Japan)などがある。

Related
この記事に関連するニュース

「環境危機時計」9時39分が示す地球の危機――企業が、市民が今選ぶべき次の行動
2026.09.24
  • ニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
  • #生物多様性
「未来が拍手することを、今。」ネスレ日本のサステナビリティ経営
2026.09.17
  • スポンサー記事
Sponsored by 三井化学株式会社
  • #再生可能エネルギー
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
「社会を動かすエンジンに」 報道畑出身のCSOが語るTBSのサステナビリティ
TBSホールディングス
2026.09.14
  • インタビュー
  • #再生可能エネルギー
  • #ウェルビーイング
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
世界のトレンドは「石炭火力終えん」 中国・インドで52年ぶり同時減少
2026.09.09
  • ニュース
  • #再生可能エネルギー
  • #カーボンニュートラル/脱炭素

News
SB JAPAN 新着記事

日本は欧州外でトップに 「環境パフォーマンス指数」から見えた強みと課題
2026.09.25
  • ワールドニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
  • #生物多様性
「環境危機時計」9時39分が示す地球の危機――企業が、市民が今選ぶべき次の行動
2026.09.24
  • ニュース
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
  • #生物多様性
「未来が拍手することを、今。」ネスレ日本のサステナビリティ経営
2026.09.17
  • スポンサー記事
Sponsored by 三井化学株式会社
  • #再生可能エネルギー
  • #気候変動/気候危機
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
【子どもの権利とビジネス原則】第5回 子どもへの影響に配慮した広告・マーケティングとは
2026.09.16
  • コラム
  • #人権
  • #マーケティング

Ranking
アクセスランキング

  • TOP
  • ニュース
  • 日本は欧州外でトップに 「環境パフォーマンス指数」から見えた強みと課題