
「サステナブル」や「エコ」をふんわりと訴求するだけでは、もはや消費者は動かない。環境への意識と実際の購買行動の間にある大きなギャップを、企業はどう乗り越え、ビジネスの仕組みとして実装していくべきか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、同会議アカデミック・プロデューサーの青木茂樹氏がファシリテーターを務め、本田技研工業(ホンダ)の多賀渉氏、花王の青木麻美氏、ECOMMITの青木峻氏が登壇。
実践者たちの議論は、「サステナビリティをルール規制で進める欧州に対し、米国はマーケティングの力で市場を作り、世界を変えようとしている。日本でも、単なる情報発信ではない本質的な循環の仕組みをどう作っていくかが問われている」という青木茂樹氏の問題提起からスタートした。
| Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー / 駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授 パネリスト 青木峻・ECOMMIT マーケティング部 兼 ブランド部 ゼネラルマネージャー 青木麻美・花王 グローバルコンシューマーケア部門 ハイジーンリビングケア事業部門 ホームケア事業部 ブランドマネジャー 多賀渉・本田技研工業 コーポレート戦略本部 コーポレート事業開発統括部 リソースサーキュレーション企画部 部長 |
水平リサイクルの認知が第一歩

ホンダの多賀氏は、自動車の完全な資源循環を目指す挑戦を語った。現在、同社の製品の90%は天然資源に依存しており、廃車となった車のプラスチックやゴムの多くは、海外では埋め立て、国内でもサーマルリサイクル(焼却熱利用)にとどまっているのが実情だ。
そこで、2050年までの環境負荷ゼロを掲げる同社は、使用済み自動車から回収した資源を再び車に戻す「水平リサイクル」の最大化を目指すという。実際に、2025年発売の軽EV「N-ONE e:」のドアバイザーには、廃車から回収したアクリル樹脂の水平リサイクル材を採用した。また、三菱商事と合弁会社「ALTNA(オルタナ)」を設立し、軽EVのバッテリーを定置型蓄電池に転用する循環型ビジネスも開始した。
「リサイクル材は見た目も機能もバージン材と変わらないため、まずは使っていることを『認知させる』ことが第一歩」としつつ、多賀氏は「最終的には静脈産業(解体・破砕業者)と連携し、社会全体で循環の仕組みを作っていく必要がある」と述べた。
これに対し、ファシリテーターの青木氏が「2050年環境負荷ゼロは極めて野心的だが、どのような考えから?」と問いかけると、多賀氏は「『プロ野球選手になる』と言わない人はなれないのと同じ。本気で取り組むと決めることから全てが始まる」と力を込めた。
面倒を喜びに変える「ペコッ」の体験設計

花王の青木麻美氏は、食器用洗剤で12年連続シェア1位を誇る「キュキュット」の事例を紹介した。「食器洗いという暗く面倒な家事を、前向きで楽しいものに変える」。これが同ブランドの一貫した哲学だ。
サステナビリティへのアプローチも、この哲学の延長線上にある。2023年に発売した詰め替え用の「未来にecoペコボトル」は、従来比でプラスチック使用量を約40%、CO2排出量を45%削減した環境配慮商品だが、それを前面に押し出すことはしなかった。
青木麻美氏は 「消費者は『環境に良いから』ではなく、『詰め替えやすさ』や『捨てやすさ』という実利で動く」と述べ、使い終わった後に軽い力で「ペコッ」と潰せる感覚的な楽しさと、ごみがかさばらないという生活者目線のメリットを強調。「生活者が無理をして頑張らなくても、気付いたら環境に良いことをしていた、という体験設計が重要」と訴えた。
捨てるを「渡す」へ。循環のインフラをつくる

不用品の回収から選別、再流通までを一気通貫で行う循環インフラ事業を展開するECOMMITの青木峻氏も、「消費者が『循環させたい』と能動的に動くハードルは高い。だからこそ、生活の中に自然と入り込める仕組みが必要」と議論に同調する。
同社が提供する「PASSTO(パスト)」は、全国約6000カ所に設置された不要品回収ボックスだ。「捨てるのではなく、次に渡す」というコミュニケーションで、衣類を中心に年間約1万3000トンを回収。自社の「プロのピッカー」が手作業で選別することで、98%以上の再資源化率を誇る。
青木峻氏は「回収ボックスを置くこと自体が直接的な利益にならなくても、『そういう取り組みをしている店舗で買い物をしたい』という消費者が増えている」と拡大の背景を明かし、「私たちがハブとなり、企業と消費者をつなぐことで、経済が回る持続可能な循環ビジネスが生まれるはず」と使命感をにじませた。
一人勝ちではない循環のストーリーを

後半のディスカッションでは、青木茂樹氏からこれからのブランドの在り方についての投げかけがあった。「100年前のラグジュアリーブランドは、一部の富裕層が楽しむゴージャスな生活の象徴だったが、今は物語が変わってきている。環境に負荷をかけないこと、みんなでサステナブルにコミットすることが『かっこいい・おしゃれ』だというストーリーを、マーケティングの力で作っていくべきではないか」
ECOMMITの青木峻氏はこれに賛同し、「誰か一人が利益を得る『一人勝ち』のモデルはもう好まれない。誰もが少しずつ幸せになる『Win-Win-Win』の構造をブランドに組み込むことが、人を動かす鍵になる」と応じた。ホンダの多賀氏は「個社でできることには限界がある。社会全体で循環が評価される仕組みを作らなければならない」と語り、花王の青木麻美氏も「自社ブランドの枠を超え、もっと広い視野で循環の可能性を議論していきたい」と意気込みを見せた。
セッションの最後に青木茂樹氏は、「社会課題は、これからの未来の糧になるオポチュニティ。コストや現実の壁はあっても、目指す絵が同じなら、イノベーションを起こしてより良い製品を出し続けてほしい」と総括。サステナブルを単なる啓発メッセージで終わらせず、テクノロジーとクリエイティビティを駆使して「実利」と「楽しさ」に変換し、社会全体の仕組みに落とし込んでいくという道筋が、改めて示される時間となった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













